幸福偏執雑記帳

あざらしこと青波零也のメモ的なものです。

2022年6月2日29件]

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何かパソコンが虫の息なので……仕方なく……新しいデスクトップを買うことにした……。
まだソフトは動いてるんだけど、エクスプローラーがクリックするたびに10秒くらいフリーズして、まるで作業にならないため!
ストレスフルなのはやっぱりよくないということが、わかる……。
まあ、それなりには生きてくれたといえよう~(2014年に購入した形跡があるので8年か……)
どうか次のパソコンも長生きしてほしいなあ。
これからソフト入れたり……データ移行したり……Adobeに魂売ったり(これが一番痛いがやっとかないと困るんだよな~)とか……色々あるけど……。

追記
何かAdobeに魂売るの、ちょうど年間3万円くらい安くなってたからさくっとコンプリートパックに魂を売った。
1年契約だから、契約更新時に不要なのは解約するの忘れないようにしないとな~!
必須なのはInDesignなんだけど、Photoshopもあるといいながあるため……。
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委託販売ならアリスブックスさん使ってみるのもよいのか~。
いろんなひとが使っている、という点では絶対にいい気はするんだけど……。
ただ、在庫をしばらく置かせてもらうことになると考えると、ゆったり待ってていただける架空ストアさんのありがたさが身に染みるな……。
(あざらしはすごくめんどくさがりのため……こまめに納品するのがしんどい……)
まあ、気が向いたらちょっと新たな地を開拓してみるのはよいのかもしれないな~!

ひとまずBOOTHを一旦縮小してきた。完全に退会するかどうかはもうちょい様子見かな~。
色々な意見があると思うけど、とりあえず自分としては、「いくら砂粒みたいな影響でしかなくても、この会社に金銭を支払うという状態を続けるのはやだな……」という気持ちが大きいので、ひとまず金銭が絡むところを切ってきた感じ。
まだ、この感覚を上手く言語化できないのだけど、嫌な気分になったのは間違いないため……。
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とりあえず今までのTwitter300字SSと舞台感想をちょこちょこ追加したぜよ!
これでTwitter300字SSは以降こっちにどんどん追加できるようになったのでよかったなぁ~!
出来ればこまめに参加できると嬉しいな~と思うため! がんばりたい!
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『フリムンシスターズ』(2020)
作・演出:松尾スズキ
音楽:渡邊崇

※2021年4月25日の記録

フリムンシスターズ | Bunkamura
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineu...


インプットをしよう~!!! という勢いで今日はミュージカル『フリムンシスターズ』(2020)を見ることになりました。いえいいえい!!

ストーリーは……これは……どう説明したらいいんでしょうか……。えっと、何かコンビニの幽霊って呼ばれてる女ちひろと、色々あって精神不安定になってしまっている女優みつ子と、その友人であるゲイのヒデヨシの三人を中心として、西新宿を舞台にして巻き起こる事件……みたいな感じですかね??? かね??? いいのかこれで???(見れば私の戸惑いの意味がわかると思います)

いやーーーー面白かった……!!! ちょいちょい挟まってくるネタにめちゃくちゃ笑ったんですけど背景は結構重くて、それぞれにそれぞれの物語があることをきちんと見せてるんですよね……。それらが複雑に絡み合いながら歌や踊りを交えながらがんがんものすごいパワーで話が進んでいくわけですよ。面白くないわけない……。

とにかくストーリーの組み立て方がめーちゃくちゃ上手い!! ちひろとみつ子とヒデヨシの三者を中心にしながら、それを取り巻く人たちの人間模様を描写して、最終的にはばらばらだったように見えた物語のピースが一点に収束していくというあの畳みかけるような展開にほれぼれしてしまうでありますね……。その上でそれぞれの問題を解決したり、ちょっとだけ解決しなかったり(ここも一つのうまさだなあと思う……)、何かを吹っ切ったりしながらエンディングまで駆け抜けていくこのスピード感よ……。

主役格の三人にはやっぱり常に目が行っていたのだけど、個人的にはコンビニ店長とその双子の弟がかなり印象に残っているなと思いましたね……。店長のどこか抜けた情けない感じの一方で弟の方がめちゃ怖いのすごいんだよな……。そして「後ろからズドン」、っていう言葉がリフレインし続ける構造とても上手いなぁと思ってしまう。店長にまつわる最後の最後のオチも含めてたまらないな~!

ついでにバスタオルおじさんの存在感はずるいと思う。ずるいよ……。畳む
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『オンリーシルバーフィッシュ』 (2018)
作・演出:西田大輔

※2021年4月21日の記録

映画&舞台 『ONLY SILVER FISH | オンリーシルバーフィッシュ』
https://www.mmj-pro.co.jp/onlysilverfish...


古い洋館。屋敷に置かれた大きな水槽の中にはオンリーシルバーフィッシュと呼ばれる一匹の寂しい魚がいて、その魚の本当の名前を知る事ができれば、過去を振り返る事ができるという伝説がある。そんな洋館で和やかに始まるはずの結婚パーティだったが……、というお話なんですけど。

ストーリーラインがシリアスそうなのでちょっとどきどきしながら見たのですが、前半が思った以上にめちゃめちゃドタバタしてて爆笑してしまった……。なんだこれ なに??? っていうか一人で見なくてよかったなこれ……と真面目に思ってしまったんですがその上で後半があると考えてみると色々と思うところあるなぁ~。正直全部分かった状態でもう一度前半のドタバタ部を観たいかもしれない……。あの茶番が何のためにあったのかと思うと本当に……本当にさ……。

あと光の使い方がめちゃくちゃよかったですね。舞台の上にオンリーシルバーフィッシュが入っているとされる巨大な水槽があるんですけど、その水槽に反射する光が常に舞台の上で常に存在感を放っていて……。その他にも雨が降ってる窓とか、停電時の蝋燭のわずかな明かりとか、とにかく光を使った演出が……好き!

全部見終わった後の後味は結構ビターで私はそこが……好き……!! いや、本当に「振り返る」っていう言葉がそういう……そういうことか……ってなっちゃっておおん……おおん……これは好きだなぁ……。これは何と言うか、許されることではないと思うんだけど、そうせずにはいられなかった、ってことを考えちゃうとほんとね……。もう……。

あと知らない人の存在感ずるいんだよな! どこまでも不憫なんだけど知らない人なんだよな……。畳む
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『うるう』
作・演出・出演:小林賢太郎

※2021年4月18日の記録

ネット上に~驚くほど~情報が~ない!!

『うるう』! これは見せてもらった作品ではなく珍しく青波が所有しているブルーレイディスク!! ただ買ったきり見てなかったのでこの機会に見ることにしました。いえいいえい。一応、舞台でも見たことあるんですけどね~。あらすじは思い出せたのですが、結構細かな内容は忘れていた! あと自分が見たの確か2016年版なのでもしかすると演出の細部が違うかもしれない……。

小林賢太郎さんの、実質最後となる舞台作品。2011年(2012年)から2020年まで、うるう年の時にだけ上演されていた一人芝居です。

ストーリーは、森の奥で一人暮らす男ヨイチと、そんなヨイチの元に現れた少年マジルが織りなすお話なのですが、このお話はヨイチ役の小林さんの~一人芝居! マジルくんの存在はあくまでヨイチたる小林さんの動きや台詞によって担保されるという仕組みなのがめちゃくちゃ好きなんですよね。ちょっとした所作でマジルくんの存在を「見せる」というのが本当に美しくてじっと見つめてしまうのですわ……

あと舞台上の演出もめちゃくちゃよい~のですね! 基本的に舞台上にあるもの自体は大きく変わらなくて、そこにライトで影を投影したりプロジェクションマッピングで表現したりすることで場面が移り変わるのを感じさせるのがとても……いい……。舞台上にいる人数が少ないだけに、空間の作り方がめちゃくちゃ効果的なんですよね! あれは実際に見てみてもらいたいなと思う……

細かく笑わせにきながら、それと知られないままに伏線を張っていくところがやっぱり小林さんの真骨頂よなという感じ……! 二度目だけどどこが伏線なのかわからないまま見てしまった……いい具合に忘れていましたね……。あと本当に言葉遊びが上手い。流石小林さん。あのリズム感で言葉遊びを入れられると聞き惚れてしまうやつですよ。

あとはやっぱりね……ラスト……ら ラスト……たまらん……私はあのラストが見たくて見ているところがあるよ……好き……!!!!! あの瞬間は何度見てもほろっとしてしまう……えんえん……。

うん、感想になってないな! でもやっぱり好きだなぁ~となりますね。この機会にもう一度見られてよかったです。おうちにあるので何度でも見られるぞやったー!畳む
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『贋作 桜の森の満開の下』(2018)
作・演出:野田秀樹

※2021年4月18日の記録

贋作 桜の森の満開の下 | NODA・MAP 第22回公演
https://www.nodamap.com/sakuranomori/


インプットをしよう! という気持ちをもちもちと持て余しているあざらしですいかがおすごしでしょうか。というわけで今日は舞台『贋作 桜の森の満開の下』(2018)を観る機会を与えていただきました。ありがとうございます。

ストーリーは、匠の弟子である耳男が、死んだ師匠の代わりにヒダの王様のところに赴いて、同じく匠を殺して成り済ます盗賊のマナコと謎めいた匠のオオアマと共に、王様の娘である夜長姫の16の誕生日目掛けて弥勒像を彫ることになるのだが……というおはなし、だと……思う……(自信がない)。

演出がめちゃくちゃ面白い~!! 舞台の上を縦横無尽に走るピンク色のテープで画面のフレームを作って視線を区切ったり、屋根のイメージを浮かび上がらせたりと、その場面に合わせた世界を作り上げる感覚が……すごく美しいのですね……。これ、初見だけだとわからない部分もたくさんあるのだろうな~と思うのですよね! 何度も観たくなるなぁ~!

あと舞台上の桜の花が圧巻だったな~物語の最初と最後を、満開の桜が結び付けてくれるのを感じる……。美しいからこそ何か恐ろしさを覚えさせる桜の花というもの、何だかそれだけで胸がぎゅっとするものを感じてしまうでありますよね。

あと言葉遊びの多さに、一時も油断できる場面がないというか……! ちょこちょこ笑いでくすぐってくる場面もあるのですが、そうかと思えば言葉遊び自体がストーリーに食い込んできたりとかして……カニ……そして最後の最後に落とされる耳男の「まいった、まいった」の言葉に、夜長姫の声がリフレインして響くんですよね。こうやって、言葉を使うのか……と噛みしめてしまうんですよ。

正直お話の筋書きをきちんと理解できた感じはしなくて(特に後半からラストにかけての怒涛の展開についていけてないですね……!)、でもラストの、桜の木の下で夜長姫を殺した耳男の背後で、オオアマの行列と鬼の行列が交錯する場面とか、何だかこう……感覚で見るだけでも感じ入るものがありますね。

あとはやっぱり夜長姫の存在感がめちゃくちゃすごいなという感想につきますね……。少女でありながら鬼でもあるというか、その場にいてもいなくても物語を支配し続けているのは間違いなくこのひとなのだろうな、というのが舞台を通してわかる。あの声の使い分けもすごいんですよね……。すごく耳に残る声をしていて……。だからこそあの幕切れもほんと美しいんですね。果たしてそこにいた(そして消えてしまった)のは夜長姫だったのか鬼だったのか、そのどちらもであったのか。

正直なところ読み取れてない部分が多いので後で感想行脚行かないといけないな~と思ってはいるんですが、それはそれとして美しく、すさまじく、印象に残る舞台でありましたね……。畳む
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『ベイジルタウンの女神』(2020)
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

※2021年4月15日の記録

ケムリ研究室 no.1 『ベイジルタウンの女神』
https://derashinera.jp/activity/basiltow...


インプットをしよう! という気持ちになっている昨今ですが、今回は舞台『ベイジルタウンの女神』(2020)を観る機会を与えていただきました。ありがたいことです……。コロナの環境下において、公演できるかどうかどうかぎりぎりの状態で上演された劇だそうで、何かそれだけですごいしみじみしちゃうものがありますね……。

あらすじとしては、世間知らずのお嬢様である女社長さんが、スラム街『ベイジルタウン』の再開発を巡ってどたばたするコメディものなんですけど、とにかくめちゃめちゃかわいいお話! ですね!

演出がとにかくかわいい……プロジェクションマッピングでのアニメーションと舞台上の人たちの演技のかみ合わせがとってもかわいいんですよ……たまんないですね……。シーン同士のつなぎもとてもよくて~! 演出眺めてるだけでも楽しい気持ちになりますね。

そして主人公のマーガレットがまあ世間知らずもいいところでずれっずれの発言をしまくるので腹を抱えて笑ってしまうんだけど、彼女の周りを取り巻くひとたちもやっぱり一癖も二癖もあって、やり取りのテンポのよさが本当にすごい。笑いのツボを心得ているというもの……、本当に笑った。演者さんたちの表情もめちゃくちゃいいんですよ~!

ストーリーもすごく安心して見ていられるというか、これなら絶対に大丈夫! っていう気持ちになれるというか。もちろんハラハラするシーンもあるにはあるんですけど、何か見ているうちにこの人たちなら絶対に何とかしてくれるはず! っていう信頼感が生まれてくるんですよね。そういうの、あると思います。あるある。そのくらい気持ちの良い展開なのでこれは万人におすすめできるな~というのもわかる……。

ちょっとした台詞が後半に至るまでの伏線だったり、登場してもいないキャラクターが謎の存在感を発揮してたり、ついにやっとしてしまうシーンがてんこもりで最後までにこにこしながら見ることができました。

3時間ちょいというそれなりの長尺だったんですけど全く長さを感じない! かわいくてコミカルで見ててすかっとするおはなし、とってもよかったです。好きになっちゃうよこんなの~!畳む
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『万獣こわい』(2014)
作:宮藤官九郎
演出:河原雅彦

※2021年4月12日の記録

万獣こわい | PARCO劇場
https://stage.parco.jp/web/play/manju/


インプットをしよう! という気持ちになり今度は舞台『万獣こわい』(2014)を観る機会を与えていただきました。ありがたいこと……。

ストーリーについて語りづらいな……えっと、監禁事件の被害者であるおんなのこと、彼女に関わったひとびとの、狂っていく歯車のおはなし。これ、元となっているのが現実の事件ということもあって多くを語りづらいというところはあるんですけど、とにかく演出がめちゃくちゃ……好きですね……。

ほんとめちゃくちゃブラックなおはなしなんですけど、ちょいちょい笑いでくすぐってくるのずるいわ……。ずるいよ……。どう考えたって笑っちゃうじゃんあんなの……。笑っちゃうからこそ、ぞっとするところとの落差がやばい。なんというか、暴力的なシーンもあるのだけど、それよりも各人の対話の中で静かにひたひたと迫ってくるような不穏の部分の方が自分は怖かったですね。こわいよ~。

それとわからぬまま人に意志を委ねてしまうということ、人を疑うということ、自己保身ということ、体裁ということ……。なんというか、人の普段隠したい部分てんこもり! という感じなんですけどそれを上手く飲み込めるように配置しちゃうのがずるい。そう、何と言うか、食傷しないぎりぎりのラインを全力で突っ走っている感じがすごいんですよね。それらを笑いのエッセンスを加えてすごくバランスよくお出しされてしまっているのでつい全部飲み込んでしまって、そして飲み込んでしまったもののブラックさを考えさせられてしまう感じの……おはなし!

何よりもオチ……オチがですね……。積み重ねてきた全てをここに持ってくるか……っていう気持ちになってもにゃ……と噛みしめてしまうであります。もちゃもちゃ……。終わらないし終われないお話なんだろうなというのを感じてしまう。

いやーーーーよいものを見せてもらいました。多分これ舞台じゃなかったらめちゃくちゃ嫌な感じの話として残ってしまったと思うけど、舞台らしいやり方で見せていただいたので自分はすごく好きな話になりましたね……。好きって言っていいかどうか……わかんないですけど!畳む
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『カリギュラ』(2019)
作:アルベール・カミュ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也

※2021年4月11日の記録
二回目感想は >>25

インプットをしよう! ということでありがたくも観る機会があり舞台『カリギュラ』(2019年版)を観ました。

カリギュラ - インプレサリオ公式HP
https://www.impresario-ent.co.jp/stage/c...


ストーリーは上のリンクを参照していただくとして、完全に何もわからずに見たこともありかなりふわっふわとしてしまっている……。あとで感想やネタバレなんかを巡ってみようかなと思っています。

ただ、カリギュラの狂気と呼ぶべき何か……自分はそれが「狂気」だったかどうかわからないな、と思うのですよね。いや、一貫したものだからこそ「狂気」なのかもしれない、とも思うのですけど、カリギュラはどこまでも理性的であったなと思うんですよね。論理、とカリギュラは言ったけれど、確かに彼の中ではそれは一貫した論理であるし、ケレアもそれを認めている。(その上でケレアは「それでも私は」と続けるのだけれども……)

だからこそ、カリギュラの狂気は見る者を引き付けるのかなと思うんですよね。目を離せなくなる力がある。そして、カリギュラの周囲の人が離れがたくなるだけの何かを握っている。「カリギュラを理解してあげて」というセゾニアのシピオンに対する台詞とかほんとに……ほんとにさあ……。

実際にカリギュラを少なからず理解したとみられるセゾニア、エリコン、シピオンはそれぞれのやり方でカリギュラの側に在り続ける。シピオンは……最後には離れてしまうし、それが決定的な破滅の引き金になるのだけど、要するにそれぞれがカリギュラを構成するものでもあったというか……。もしくはカリギュラが捨てようとして捨てられなかった何かであったのかもしれないなーとも思うんですよね(シピオンが自己矛盾を起こしているのもカリギュラの自己矛盾の投影である、みたいな話を一緒に見てた人がしてくれたのが印象的でした)。

結局理解できたかどうかは怪しいんですけど、でもカリギュラの生き様とその結末には何か惹かれるものがあるんですよね。「月が欲しい」と言ったカリギュラのこと……。不可能、を求めたこと。それが愛した妹の死から始まっているというのもまた思うところがあり。それを認めなかった世界そのものへの反逆なのかな、というのは思うところ。反逆を肯定するということ……そう、カリギュラは自分に対して革命を試みるものも肯定するところがあり……実際、反逆を企んでいるケレアのことは殺していないところも……色々と思うところありますね。

まだまだ噛めるところいっぱいありそうなので……また機会があったら観たいですね~!畳む
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Twitter300字SS「救う」
第八十一回「救う」2021年11月6日

 悪い魔法つかいは、人の望みを叶える代わりに、「生きる力」を奪うのだという。
『願いを叶えるほどの大がかりな魔法は、ひとりの命を奪うだけでは済まない』
 真剣な声音に、ごくりと唾を飲む。
『だから、君の力が必要なんだ、イリス。いち早く悪い魔法つかいを退治して、魅入られたひとを救うんだ』
 身にまとう虹色の衣装に姿を変えている、相棒のウェールが言う。「わかった」と頷いて、椎名すずめ――魔法つかいイリス・アルクスは、煌めくしっぽ髪を夜風に揺らす。
 魔法の力を宿した目は、月の沈んでいく方角に、大きな力が渦巻くのを見て取る。
「見つけた。……行くよ!」
 銀のブーツがアスファルトを蹴って、イリスは夜空にふわりと舞った。

――『よい魔法つかいの役目』

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#[Twitter300字SS]
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Twitter300字SS「残る」
第七十九回「残る」2021年9月4日

 すずめの、今日のおやつはシュークリーム。
 一回り大きめのシュー皮の中には、生クリームとカスタードクリームがいっぱいに詰まっている。
 けれど、今日は明らかに何かが変だという確信が、あった。
「ウェール」
 すずめの腕に巻き付いているウェールは、ぎくりと体を震わせる。ぬいぐるみ然とした『魔法つかい』は、誤魔化しが上手くない。すずめはそっと、皿の上のシュークリームを取り上げる。
 見れば、妙に軽いシュー皮の底には、ぽっかりと穴が開いていて。
 中に詰まっているはずのクリームが、すっかり空になっているのであった。
「クリーム、おいしかったから、つい……」
「ここまでするなら、クリームだけじゃなくて皮も残さず食べたら?」

――『今日のおやつ』

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#[Twitter300字SS]
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Twitter300字SS「波」
第七十八回「波」2021年8月7日

「この小さな箱の中で、人が喋っているのかい?」
 突然のウェールの質問に対して、すずめは手元の「箱」を取り上げる。
「これはラジオ。人が入ってるんじゃなくて、電波を拾って音や声を伝えてくれる機械」
「電波とはなんだい?」
 言われても困ってしまう。すずめとて電波がどんなものなのかを理解してはいないのだ。ウェールもそれを悟ったのか、「ふむ」と首を傾げて、言う。
「人間も、魔法みたいな力を使うのだね。不思議だなあ」
 長い身体をくねらせ、ふわふわなぬいぐるみの姿をした魔法つかいのウェールが言う。ウェールの方がよっぽど不思議だよ、と思いながらも、すずめはラジオから聞こえてきた好きなアーティストの音楽に耳を傾けるのだ。

――『魔法の箱』

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#[Twitter300字SS]
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Twitter300字SS「答える」
第七十七回「答える」2021年7月3日

 椎名すずめが秘密の名前を唱えれば、魔法つかいイリスに早変わり。なのだけれども……。
「ウェール」
「ないよ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「言わなくてもわかるよ。そんな魔法はありません」
 ウェールはふさふさとした尻尾を振りながら言い、すずめは恨めしげにウェールを睨む。
「魔法つかいなのに、魔法で解決できないことが多すぎる!」
「言われても困るよ。僕が魔法を作ったわけじゃないんだから」
 それもそうだけど、と唇を尖らせて、すずめは手元を見る。XとYが並んだ数学の教科書は何も語りかけてはくれない。
「そもそも、テスト前日になって勉強を始めるのは、魔法の国でも付け焼刃って言うんだけど」
「正論は聞きたくないの!」

――『答えが知りたい』

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#[Twitter300字SS]
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Twitter300字SS「影」
第七十六回「影」2021年6月5日

「今日の朝、突然、でっかい影が頭の上をよぎったから、見上げてみたらさ」
 休み時間。すずめの耳に入るのは、後ろの席のクラスメイトの話。
「人が! 空を飛んでたんだよ!」
「うそだー、そんなのありえないよ」
 けらけらと笑う声。「ほんとだよぉ」という訴え声も、笑い声にかき消されてしまう。すずめは唇を引き結んで意識を逸らそうとするも。
「やっぱり、遅刻しそうになるたびに魔法で空を飛ぶのはよくないと思うよ」
 鞄の中に隠れた相棒ウェールの声に、すずめは「うう」と唸ってしまう。
 椎名すずめが、魔法つかいイリス・アルクスであることは、みんなには内緒、なのだけれども。
 こんな調子で、危なっかしい部分も、ちょっとだけ。

――『目撃情報』

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Twitter300字SS「届く」
第七十五回「届く」2021年5月1日

 椎名すずめは今日も魔法つかいイリス・アルクスに変身する。イリスは虹色の尻尾髪を閃かせて、悪い魔法つかいをこらしめる……、のだけれど。
「ねえ、ウェール」
 一仕事を終えた布団の中で。すずめはこっそり相棒のウェールに問いかける。
「好き、って気持ちはどうすれば届くかな?」
「言えばいいんじゃないかい?」
 そうじゃないのだ。すずめは口をへの字にする。
 すずめには好きな人がいて、その人は違う人を見ている。大事な人を困らせたいわけじゃないけれど、好きという気持ちは伝えたい。そんな時の魔法はないのか、という問いに、ウェールは首を横に振る。
 魔法はそんなに便利なものじゃない。すずめは今日も枕に顔をうずめるのだ。

――『好きという気持ち』

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第七十四回「道/路」2021年4月3日

「わわ、遅刻遅刻!」
 椎名すずめは鞄を肩に引っかけて、通学路を走っていく。
 すると、目の前に立ちはだかるのは『通行止め』の工事看板。けれど、それはすずめの足を止めるには至らない。
 すずめが鞄の口を開けば、ひょこりと顔を覗かせるのは羽のような耳を持つぬいぐるみ。そのぬいぐるみが、ぱくぱく口を開く。
「遅刻するたびに変身するのはどうかと思うけどね」
「うるさいなあ、行くよ!」
 ――空に描くは七色の虹。
「イリス・アルクス!」
 秘密の名前を紡げば、すずめの姿は魔法つかいイリスに早変わり。工事看板を軽々と飛び越えて、空を蹴って、高く、高く飛び上がる。そして、今日も魔法つかいの虹色の軌跡が朝の青空に描かれるのだ。

――『通行止め』

 

「ウェールは、魔法の国から来たんだよね」
「そうだとも」
 羽のような耳を持つぬいぐるみ……のように見えるウェールがこくこくと頷く。椎名すずめはウェールの長い体を持ち上げながら、仰向けに寝転ぶ。
「魔法の国って、どこにあるの?」
「ここから、ずっとずっと遠い場所さ」
「ずっとずっと遠いのに、どうやってこっちに来るのさ」
 すずめは、ずっと疑問に思っていた。ウェールや、悪い魔法つかいたちは、どこからどうやって人間の世界に紛れ込んだのか。すると、ウェールは大きな目を細めて、笑ったようだった。
「ひょんなきっかけで道が開かれるときがあるのさ。それは、まるで運命のようにね」
「何それ」
「すずめもいつかわかる日が来るさ」

――『ずっとずっと遠い場所』

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Twitter300字SS「隠す」
第七十三回「隠す」2021年3月6日

「じゃあね、すずめちゃん」
 教室からひとり、またひとりと人が去っていき、やがてすずめ以外の誰もいなくなる。そろりと廊下を覗いてみて、誰も通っていないことを確認してから、すずめは鞄を開く。
「ウェール」
 鞄から出てきたのは、大きな青い目にちいさな口元、翼のような大きな耳。ふかふかの毛に覆われたそれは、ぱちりと目を瞬いてから、すずめを見上げるのだ。
「どうにも鞄は窮屈だね」
「勝手に隠れてついてきてるんだから文句言わない。それで、魔法の気配って本当?」
「本当さ。君の出番だよ、イリス」
 すずめはきっぱりと頷いて、ウェールを鞄から引っ張り出す。「イリス・アルクス」と秘密の名前を口ずさめば、魔法の時間のはじまりだ。

――『魔法の時間』

 

 椎名すずめ――魔法つかいイリス・アルクスは、虹色の尻尾髪を靡かせて空をゆく。
 魔法の匂いを追いかけていく中で、イリスの衣装としてその身を包む相棒のウェールが囁く。
『悪い魔法つかいは、人に魔法を使わせる』
 それは、おとぎ話の魔法使いのように「人の願いを叶える」という触れ込みで、けれど悪い魔法つかいの魔法は人の思いを歪ませていくのだという。
『そして、悪い魔法つかい本人は、人の影に隠れて、魔法を与えられた人が暴走していくさまを楽しんでいる』
「悪趣味だね」
『だから、イリス、君が悪い魔法つかいの存在を暴いて、捕まえてみせるんだ』
 空を蹴る足取りは虹の尾を引いて。魔法の出所目掛けてきらきらと駆けていくのだ。

――『魔法つかいのやり方』

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第七十回「服」2020年11月7日

 気づけば冬はもうそこまでやってきていた。
 すずめはダッフルコートをクローゼットから引っ張り出して、鏡の前で羽織ってみる。少しばかり大きい気もするけれど、来年、再来年と着るならこのくらいがちょうどいい。
 そして忘れてはいけない、とベッドの上でうたた寝していたウェールを持ち上げて、首に巻いてみる。軽くてふわふわな毛並みのウェールはとてもあたたかく、かわいらしい色味もあいまって素敵なマフラーに見える。
 マフラーもとい魔法つかいのウェールは、大きな目をぱちぱちさせて首を傾げる。
「どこかに行くのかい、すずめ?」
「うん。あとりちゃんとお買い物!」
 にっこり笑って、すずめはウェールと一緒に街へと出かけるのだ。

――『寒い日のお出かけ』

 

 ウェールは魔法つかいだけれども、人間の世界でできることは多くない。力を人間に委ねることで、初めて魔法が形になるのだ。
 だから、ウェールはすずめにこう伝える。
「最高の自分をイメージするんだ」
 魔法は心の力。最高のイメージは最高の魔法に繋がる。
「空に描くは七色の虹、イリス・アルクス!」
 すずめが秘密の名前を紡げば、ウェールはすずめ――魔法つかいイリスの衣装へと早変わり。すずめのイメージする「最高の自分」は、少しだけ大人びた少女。長い髪をリボンで縛り上げ、裾の広がったドレスからは虹色の光が散る。
『よく似合っているよ、イリス』
 ウェールはイリスの心の中に微笑みかける。
 さあ、今日の「お仕事」を始めよう。

――『最高のイメージ』

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第六十九回「選ぶ」2020年10月3日

 家の近所のお手ごろ価格の洋菓子屋さんを覗いて、すずめは腕に巻きついたぬいぐるみ……、のように見える魔法つかい、ウェールにそっと問いかける。
「ウェール、どれがいい?」
 ウェールは羽のような形の耳を広げ、大きな目ですずめを見上げて言う。
「生クリームとカスタードのシュークリームがいいな」
「たまにはエクレアも食べたいけど」
「僕はシュークリームがいい」
「ほら、プリンもあるよ。生クリームも乗ってるし、大体おんなじじゃない?」
「シュークリーム」
「強情だなあ……」
 とはいえ、ウェールがシュークリームを選ぶのはわかりきっていたから、今日もすずめはなけなしのお小遣いを崩して二つの味わいのシュークリームを買い求める。

――『今日のおやつは』

 

 椎名すずめが悪い魔法つかいを追う魔法つかいイリス・アルクスになったのは、単なる偶然。空から落ちてきた魔法つかい、ウェールを拾ったから。あれよという間に魔法が関わる事件に巻き込まれて、なし崩し的にウェールの手伝いをすることになったのだ。
「でも、本当にあたしでよかったの? もっと才能があるひととかいたりしないのかな」
「それは、いると思うよ」
 ウェールはいつだって正直だ。しかし、「なら」と言いかけたすずめをさえぎって、ウェールはこう続けるのだ。
「けれど、僕はすずめを選んだことを後悔していないよ。悪い魔法つかいを捕まえるのに必要なのは、魔法の才能よりも、目の前の事件をほっとけないっていう気持ちだからね」

――『魔法つかいの才能』

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第六十八回「夕」2020年9月5日

 霧明かりがゆるやかに力を失いはじめる夕刻、点灯夫は霧払いの灯を灯しなおす。明るい霧を払う灯から、暗い霧の中を柔らかく照らす灯へ。
「行くぞ、オズ!」
 山吹色の髪の少年は、霧払いの灯を宿す装置をくくりつけた長い棒を担いで走り出す。その後を、大判のスケッチブックを手にした黒髪の少年がどこか頼りない足取りで追いかける。霧深い首都の人ごみを縫うように駆け、やがて街灯の前で立ち止まった。
 山吹色の髪の少年は、街灯の傘の下に器用に棒の先端を押し込み、柔らかな光を灯し、黒髪の少年はその様子を描く。ひとつが終わったら次の街灯へ。それが終わったら、また次へ。
 そうしてふたりの少年は、町の一角に夜のはじまりを告げていく。

――『霧払いの灯』

 

 帰宅を促す「家路」のチャイムが響く。
 すずめも上履きからローファーに履き替えたその時、チャイムの音色が、歪む。歪んで、狂って、巻き戻って、何度も何度も同じフレーズばかりを繰り返す。
 そして、辺りの人もものも全て、ぴたりと、動くことをやめてしまう。
「これは、魔法だね」
 もぞり、と。すずめの鞄から顔を出したのはふわふわのぬいぐるみ。大きな青い目ですずめを見上げて、言うのだ。
「君の出番だよ、イリス」
 うん、とひとつ頷いて、ローファーの踵を鳴らす。
「空に描くは七色の虹、イリス・アルクス!」
 秘密の名前を唱えれば、制服は虹色のドレスに早変わり。虚空に生まれた杖を握り締めて、終わらないチャイムの中、飛び上がる。

――『夕方の魔法つかい』

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第六十六回「橋」2020年7月4日

 灯を篭めたランタンを片手に、彼らは橋を渡っていく。ひとり、またひとりと霧の中に消えていく影を追って、彼もまた足を踏み出した、その時。
「お前はここまでだ」
 耳慣れた、穏やかな声と共に誰かが目の前に立ちはだかる。霧に隠れているにもかかわらず、何故か、困ったように笑っているとわかる。
 何故を問うても応えはなく、そのまま誰かもまた橋を渡ろうとする。
「待って、」
 声を上げかけて、気づく。彼は橋の上で一人きりで佇んでいた。一歩先は腐り崩れ落ちていて、もし足を踏み出していたら、虚空に身を投げ出していただろう。
 けれど。けれど。
「オレも、みんなと一緒に、いきたかった」
 霧深い夜。ただ一人遺されたものの嗚咽が、響く。

――『灯花祭の夜』

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Twitter300字SS「書く」
第六十四回「書く」2020年5月2日

 好きで書いていたって嫌になる時はあるんです、というのが先生の言い分。
 それがたまの気まぐれならいいのですが、毎日なのが困ったもので。今日も先生は机に向かってもなかなか執筆に入らずにペンの選定。赤い軸のやつは昨日使っただとか、青い軸のやつは手になじまないだとか、気難しいにもほどがあります。
 ただ、それも必要な手続き。
 先生が書き記すものは限りなく先生の過去に近い物語。だから、これは過去の世界に飛び込むまでの助走なのだと、近頃のネイトには理解できつつありました。
 時間をかけてペンを握った先生は、色眼鏡越しに遠くを見つめます。ネイトには見えない、けれど確かに存在したものを見すえて、ペンを走らせるのです。
 
――『先生の助走』
 
 
 
 タイプライターで印字された文字列は確かに私の名前だった。
 名前を呼ばれなくなって久しかったから、手紙を通してかろうじて自分がそんな名前であったことを認識する。
 内容は近況報告に私の具合を心配する――心配だなんて! お決まりの文句とはいえ友のお人よしさに呆れたくなる――一文。それから、次の面会の日取り。
 監獄『雨の塔』は今日も静かで、私と刑務官以外の気配は感じられない。そんな中で外の気配を連れてきた書簡の末尾には、手書きの、読めたものではない署名。利き手でない方で記されたそれを指先でなぞって、息をつく。我が友は今日も変わらない。私と友との道がどうしようもなく違った今ですら。
 さあ、何と返事をしようか?
 
――『書簡』

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第六十三回「鞄」2020年4月4日

『ヤドリギ』が地下迷宮『獣のはらわた』の案内人を始めると言い出した時、誰も止める者はいなかった。
 ただ、心配はされたし、色々なものを預けられた。
 丈夫な外套に滑りづらい靴、切れ味のよいナイフに右腕の代わりの蔦でも持ちやすいランタン。それから多くの荷物を持ち運べるようにとポケットのたくさんついた背負い袋。
 大げさな、と思ったあの日を思い返しながら、古びたランタンに火を灯し、いっぱいになった袋の中身を確かめる。あの日貰ったナイフは今も現役だし、ポケットの一つは薬草でいっぱいだ。缶詰に携帯燃料に貰い物の煙草、それから最新の新聞と本。荷物はなかなか減らないもので、預けてくれた人の慧眼を思うのであった。

――『ヤドリギ』の鞄

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第六十回「祝う」2019年12月7日

「叔父さま、実はこの前十五になったのだ」
 鉄格子越しのアレクシアは唐突に言った。
 まだまだ「少女」と呼ぶべきアレクシアは、左右非対称の笑みを浮かべて私を見上げる。私もきっと同じような顔で笑いながら、こういうときにはお決まりの言葉を紡ぐ。
「では、アレクシア・エピデンドラムが生を受けて十五年の節目を祝って。どうかこれからも、君に女神ミスティアの加護がありますように。……私は、祈ることくらいしかできないからね」
 監獄からは、気の利いた贈り物のひとつもできやしない。けれど、アレクシアは目を丸くして、それから頬をほんのり赤く染めて、くしゃりと笑ったのだった。
「ありがとう。そう祝ってくれたのは、叔父さまだけだ」

『祝福、雨の塔にて』

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Twitter300字SS「窓」
第五十九回「窓」2019年11月2日

 天井近くに開いたちいさな窓から覗くのは、昨日と同じ鈍色の天蓋だ。その前も、そして明日も同じであろうそこから、しとしと雨が降り続いている。
『雨の塔』。
 ここは女王から見放された地。草木どころか苔すらも生えることなく、雨ばかりが降り注ぐ不毛の丘の上に建てられた監獄塔。
 そうして自分の居場所を思い出して、自分が誰かを思い出そうとするけれど、どうしても散り散りの……、それこそ目に映る窓くらいに切り取られた断片的な風景しか思い出せないでいる。
 そうして手のひらから雨のように零れ落ちゆく記憶を求めて、何度も、何度でも、ちいさな窓から過去を見据える。私が監獄にいる理由。私が何者であったかだけは、忘れないために。

『レイニータワーの過去視』

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Twitter300字SS「水」
第五十四回「水」2019年6月1日

 海に行ったからといって、特別な目的があったわけでもない。
 四月はじめの海は冷たくて海水浴なんてできようもなかったし、当然綺麗な水着姿のおねーちゃんもいなくて、俺も小夜も心底がっかりしたものだった。
 わかってはいたんだが、がっかりするものはするのである。
 とはいえ、俺が提案したシーグラス集めは弟分のお気に召したようで、俺が「帰るぞ」と声をかけるまで一心不乱に色も形もばらばらの硝子を手のひらに収めていた。
 今まで海を知らなかったガキは、今、海の記憶を水を注いだ瓶の中に閉じ込めて記録する。
 ……ひとつずつ、ひとつずつ。ゆっくりでいい。
 失われた時間を、少しずつ取り戻してほしいと、兄貴分である俺は心から願う。

『瓶詰めの海』

 

 清浄な水は地下迷宮『獣のはらわた』では貴重だ。
 そして、それを判別する「能力」が自らに備わったということに関しては、『ヤドリギ』の肉体に寄生――正しくは「共生」している名も無き蔦に感謝している。
 燃え盛る炎の中で名も肩書きも失い、不自由な体の異形と化した己がここで生きていくためには、せめて、地上を追われ苦しい生活を強いられている『はらわた』の住人の「役に立つ」必要があった。それがかろうじて自分自身を「人」たらしめる方法であると信じて。
 右肩から生えた蔦を地底湖にそっと浸す。
 そこには鉱物由来の毒が混ざっていることを人外の感覚で確かめて、次の水場へ。
 自分ではない誰かのための、『ヤドリギ』の彷徨は、続く。

『水を求めて』

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#[Twitter300字SS]
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壊・世界秩序用の外見設定作った~(仕事をぼんやりやりながら横で進めている)
あとは300字SSをやればひとまず今日やりたかったことは……終わる……はず!
頑張るぞ~!!

時間に余裕があればTALTOに自作シナリオ移行していきたい。
あとnoteの記載をちょっとずつこっちに移す作業をやりたい~な!
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500文字くらいの文章、なんとか書けた~!
日が変わってしまったけど、終わったからよしとする。
300字ssは明日(今日)の夜にちょっとでも着手できればいいな~。
あと壊・世界秩序のキャラクター外見設定早く書かないとな……。
やりたいことは色々あるので、着実にこなしていけるといい。

あ、あと枳名義の本はさくっとpictSPACEに移動したぜ!
Trifoliate.出張所
https://pictspace.net/trifoliate

架空ストアさんは、取り扱いがオリジナル作品専門なのだ。
なので、枳の本は自家通販で何とかするのがよい……ということ……!

あとTRPGシナリオをゆるやかにTALTOに移行していきたいところ。
こんな感じで見られることがわかった。
枳はどり - TALTO
https://talto.cc/users/9wSglyF69rZiXrlHG...

■他愛ないメモ

シアワセモノマニアのあざらしこと青波零也の創作メモだったり、日々のどうでもいいつぶやきだったり、投稿サイトに載せるまでもない番外編だったり、見聞きしたものの感想メモだったり。

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2024年05月17日(金) 10時53分44秒