Twitter300字SS「道/路」第七十四回「道/路」2021年4月3日「わわ、遅刻遅刻!」 椎名すずめは鞄を肩に引っかけて、通学路を走っていく。 すると、目の前に立ちはだかるのは『通行止め』の工事看板。けれど、それはすずめの足を止めるには至らない。 すずめが鞄の口を開けば、ひょこりと顔を覗かせるのは羽のような耳を持つぬいぐるみ。そのぬいぐるみが、ぱくぱく口を開く。「遅刻するたびに変身するのはどうかと思うけどね」「うるさいなあ、行くよ!」 ――空に描くは七色の虹。「イリス・アルクス!」 秘密の名前を紡げば、すずめの姿は魔法つかいイリスに早変わり。工事看板を軽々と飛び越えて、空を蹴って、高く、高く飛び上がる。そして、今日も魔法つかいの虹色の軌跡が朝の青空に描かれるのだ。――『通行止め』 「ウェールは、魔法の国から来たんだよね」「そうだとも」 羽のような耳を持つぬいぐるみ……のように見えるウェールがこくこくと頷く。椎名すずめはウェールの長い体を持ち上げながら、仰向けに寝転ぶ。「魔法の国って、どこにあるの?」「ここから、ずっとずっと遠い場所さ」「ずっとずっと遠いのに、どうやってこっちに来るのさ」 すずめは、ずっと疑問に思っていた。ウェールや、悪い魔法つかいたちは、どこからどうやって人間の世界に紛れ込んだのか。すると、ウェールは大きな目を細めて、笑ったようだった。「ひょんなきっかけで道が開かれるときがあるのさ。それは、まるで運命のようにね」「何それ」「すずめもいつかわかる日が来るさ」――『ずっとずっと遠い場所』続きを読む 畳む#[Twitter300字SS] 2022.6.2(Thu) 10:55:50 300字SS edit
第七十四回「道/路」2021年4月3日
「わわ、遅刻遅刻!」
椎名すずめは鞄を肩に引っかけて、通学路を走っていく。
すると、目の前に立ちはだかるのは『通行止め』の工事看板。けれど、それはすずめの足を止めるには至らない。
すずめが鞄の口を開けば、ひょこりと顔を覗かせるのは羽のような耳を持つぬいぐるみ。そのぬいぐるみが、ぱくぱく口を開く。
「遅刻するたびに変身するのはどうかと思うけどね」
「うるさいなあ、行くよ!」
――空に描くは七色の虹。
「イリス・アルクス!」
秘密の名前を紡げば、すずめの姿は魔法つかいイリスに早変わり。工事看板を軽々と飛び越えて、空を蹴って、高く、高く飛び上がる。そして、今日も魔法つかいの虹色の軌跡が朝の青空に描かれるのだ。
――『通行止め』
「ウェールは、魔法の国から来たんだよね」
「そうだとも」
羽のような耳を持つぬいぐるみ……のように見えるウェールがこくこくと頷く。椎名すずめはウェールの長い体を持ち上げながら、仰向けに寝転ぶ。
「魔法の国って、どこにあるの?」
「ここから、ずっとずっと遠い場所さ」
「ずっとずっと遠いのに、どうやってこっちに来るのさ」
すずめは、ずっと疑問に思っていた。ウェールや、悪い魔法つかいたちは、どこからどうやって人間の世界に紛れ込んだのか。すると、ウェールは大きな目を細めて、笑ったようだった。
「ひょんなきっかけで道が開かれるときがあるのさ。それは、まるで運命のようにね」
「何それ」
「すずめもいつかわかる日が来るさ」
――『ずっとずっと遠い場所』
畳む
#[Twitter300字SS]