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シアワセモノマニア
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シアワセモノマニア

ハッピーをお届けする空想娯楽物語屋

2021年7月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

MIU404の志摩さんが理想のノーグ・カーティスだって話する???
いや、あの、ルールで己を縛ってて理性的に見える一方で、実際には結構手段を選ばない感じとかめちゃめちゃあざらしの理想のノーグだが?
情が無いわけじゃないけど基本的にそれで動くわけじゃないところもすごいノーグっぽいじゃん……。
誰にも通じないからその話はここまでにしておきなさい。はい。

創作

舞台を見てると五月ならどの役やってそうかなーと思ったりする。
基本的に二枚目だけど、つまり「二枚目」ってことは主役ではないということなんだよね。
主役の横に立ってるイケメンポジション、ということ……。
五月自体は顔立ちから、どちらかというとクールめの印象を持たれがちかなとは思う。
ただ、本人がクールかというと全然そんなことはなくて、結構情熱の人なんだけれども……。
(その「本人」の話をされるのを五月はすごく苦手としているわけだが)
五月はどんな役を渡されても全力でこなすし、今までについたイメージを常に壊し続けていきたいと思っているんじゃないかな。
そんな人だから、「声がない」っていう「個性(とあえて表現する)」が付与されたことはかなりのディスアドバンテージだと考えている。
どうしたって、何を演じていたって「笹垣五月」というキャラクターを背負ってしまうというか。
その辺りを振り切って、自分にできることを、本当の意味で「何だって」する、というのが今の五月の課題なんだろな~。

創作

桟敷城における魔王ササゴイ、髪は伸びっぱなしだし無精髭だしユニクロのジャージだしで見た目はもさっとしております(文章はササゴイの視点だからその辺が具体的に描写はされないんですけど)。
一応、設定を信じるならば顔立ちに関しては二枚目の方なんですけどね。比較的整った顔をしている。
ただ、しばらく人に会わずにぐったり暮らしていた人がまともな格好をしていると思うか? 思いません。
あざらしは……、きちんとすればきちんとできるひとが、微妙にきちんとしてないっていう格好が……好き……。
その辺りDoA雁金とかにも滲んでますよね。ああいう感じが好きなんですね。
(その一方でとけうさ雁金は人に会う仕事をしているので見た目もきちんとしてます。TPOは大事!)

創作


●Scene:09 君の脚本を破り捨て

 タイムリミットが刻一刻と迫っている、と魔王たちが噂する。
 そうなのかもしれない。この夢が覚める日がやってくるのかもしれない。もしくは、永遠に覚めない日が。別にどちらでも僕にとっては変わらないことだ。「終わり」というのは、それだけで少し恐ろしいような気はするけれど、気にしたところで僕一人がどうこうできる問題ではないのだから。
 ただ、日に日に、焦燥感が募るのはどうしてだろう。今まで「どうにかしよう」と内心何度も呟きながら、結局行動にも移す気になったことがない僕らしくもなく――僕は、多分、いつになく焦っている。何に対して焦っているのか、何をしていいのかもわからないまま、ただただちりちりするような感覚が徐々に胸の端を焦がしている。
 いや……、目を逸らしているだけで。何に対する焦燥なのかは、とっくにわかってはいるんだ。
 僕は気づいてしまった。向き合ってしまった。僕自身がまだ、諦められていない、という事実に。
 けれど、だからといってどうすればいいんだ?
 そろそろと、張りぼての舞台の上に立ってみる。広すぎる観客席には人一人いない。それでも、自然と指先が震える。指だけじゃない、全身が。言ってしまえば、舞台の上で震えるのはヒワやコルヴスも同じだ。何があろうと堂々と振舞えるパロットみたいな奴は、例外中の例外と言っていいと思う。
 ただ、ヒワのそれは激しい緊張で、コルヴスのそれは「見られる」ことへの羞恥と恐怖だが、僕のそれは多分どちらとも違う。
 ――僕が恐れているのは、きっと。
「ササゴイ」
 突然投げかけられた声に、はっとそちらを見る。見れば、いつの間にかヒワが舞台の上に立っていた。
 今日は、調子が悪いから練習は休みだと朝に伝えたはずだ。けれど、ヒワは真っ直ぐに僕を見据えたまま、いつになく真剣な表情で口を開いた。
「話があるんだ」
 
 
          *     *     *


 僕とヒワは、舞台の縁に腰掛ける。どちらともなく。
 そして、しばしの静寂が流れた。何せ僕からヒワに何かを切り出そうにも、僕が話すこともなければ、話す声もない。メモ帳の上に、ペンでぐるぐるとよくわからない図形を描くことしかできない。
 やがて、僕の横に腰掛けたヒワがやっと口を開いた。
「……ササゴイは、コルヴスと話をしたんだな」
 ああ、その話は結局コルヴスから伝わったのか。僕から言うことは何も無いと思っていたから、コルヴスと何を話したのかヒワとパロットには伝えていなかった。ただ、その日あたりから僕の様子がおかしいことくらいは、ヒワも気づいていたんだろう。
 そして、きっと。
『ヒワは』
 最初から。桟敷城で目覚めた僕を「魔王ササゴイ」と呼んだその時から、もしくは僕が目覚める前から、ずっと。
『私が役者だってことを、知ってた?』
 僕の問いかけに、ヒワは顔を露骨にこわばらせた。それでも、絵に描いたようなふっくらとした唇を震わせながら、はっきりと、言った。
「うん。あたしはササゴイが何だったのか知ってる。君の本当の名前だって」
 そっか、と僕は唇だけで囁いた。
 別に驚きはなかった。そうだろうな、とは随分前から思っていた。僕に舞台に立ってくれないかと頼んできた頃から、彼女は僕の不機嫌に気づいていた。僕が本職の役者だからこそ、そんな僕の前で「演技」をするというのがどういうことか、わかっていたのだ。だからこそ、僕に稚拙さを叱責されると怯えていたのだと、今なら認めることができる。
「……ササゴイは、怒らないんだな。あたしが黙ってたこと」
『怒る理由がない』
 ヒワがずっと黙っていた理由はわからなかったけれど、僕が「誰」なのかを具体的に指摘されないだけ、ずっと気楽だったのは事実なのだ。不思議には思えど、怒る理由なんてどこにもない。
 僕――魔王ササゴイでない現実の僕は、かつて、舞台に立つことを生業とする俳優だった。
 正確に言えば舞台俳優だと胸を張れるようになるまでに紆余曲折といくらかの幸運があって、舞台の上に立ち続けていられたのだと思っている。
 うん、そうだ。冷静に思い返してみれば、僕はその時疑いもしていなかったのだ。このまま、ずっと、充実した舞台上の日々が送れるのだと。夢が叶った日々が続くのだと。
 それを、どうしようもなく、病によって絶たれるまでは。
 張りぼての舞台に、大きすぎる観客席。
 この桟敷城が歪な形をしている意味も、今なら何となくわかる。そして、ヒワも僕が無数の観客席を見つめていることに気づいたのだろう。ぽつり、ぽつりと、言葉を落としていく。
「あのさ。ササゴイからは、現実が、こういう風に見えてたんだな」
 僕は一つ頷くことで、ヒワの言葉が正しいことを伝える。
 張りぼてで取り繕った舞台は、まさしく今の僕自身だ。
 僕は、昔から僕自身の形のまま表に立たないようにしてきた。現実でも、ほとんど「僕」を露出させずに、あくまで「役」としての僕を見せることだけを考えて生きてきた。舞台裏など、本当の自分など、見せる必要はない。プライベートを限りなく隠して――と言っても、僕のプライベートはほとんど「演劇」をするための手続きに費やされていたけれど――その分、舞台の上の「誰か」を見てもらいたかった。僕という肉体を、精神を通して僕でない「誰か」を表現すること。舞台の上にいる時だけは別の誰かとして全ての人の目に映ること。それが「演技者」としての僕の目指すところだったのだ。
 けれど、どうしたって、それは叶わなくなってしまった。
 声を失ったことは確かに酷い痛手だった。けれど、それ以上に、無数の、それこそ「演技者」としての僕を知らない連中までが「僕」に注目したのだ。そりゃあ格好の話題だろう、病で声を失った俳優なんて。
 だけど、僕は。
『私は、私のまま衆目に晒されるのが堪えられなかった』
 この無数の観客席は僕にとっての「脅威」の象徴だ。ある意味ではコルヴスが恐れたそれに近いかもしれない。ただ、少しだけ違うのは、僕が恐れている視線の意味だ。
『私は、「私」が失望されることに堪えられなかった』
 僕に向けられるものの大体は好奇と哀れみの視線。けれどそれ以上に恐ろしかったのは、「失望」だった。舞台上の「僕ではない誰か」を見てくれていた人が、リアルの、生身の僕に向ける「失望」。その視線に気づいてしまった瞬間、心が折れる音がした。
『だから逃げた。全ての連絡を絶って、遠くに引っ越して、これから何かをしようとする気すら起きなかった。君に呼ばれるまで、ずっと。それでまた、こんな、舞台に呼ばれるなんて、思わなかったけれど』
「そっか」
 一気に書き記した、いつになく汚く荒れた文字列を、それでもヒワは一目で読み取ってくれたらしい。眉を寄せて、きゅっと唇を引き結んで。それから、囁くように問いかけてくる。
「もう、舞台には立たない?」
 ペンを持つ手が震えた。ああ、これを「言う」のは流石に勇気がいるんだな、と僕は僕自身を笑いたくなる。
 けれど、今の僕の、素直な気持ちを、殴るように書き記す。
『立てないよ』
 ――誰も見ていない舞台の上ですら、震えが止まらないんだ。
 こんな僕が、かつてのように「誰か」を演じることなんてできない。もう僕以外の何にもなれないものが、舞台に立つことなんて、僕自身が許せそうにない。
 すると、ヒワが。
「ごめん、ササゴイ」
 ぽつり、謝罪の言葉を漏らした。一体何への謝罪なのかわからず目を点にする僕に対して、ヒワは観客席に目をやって、背中の羽をゆったりと動かしながら言う。自分自身に言い聞かせるように。
「あたし、ササゴイの望みを取り違えてた。……そうだよね。そんなことがあったら、当然だよね。うん、あたしが浮かれてたんだね」
 だから、と。
 言って立ち上がったヒワの手には、いつの間にか分厚い脚本が握られている。
 どういうことだ、という声はヒワには届かない。僕の口から声が出ることはないのだから。
 ヒワは両手に持った脚本を、広げて――。
 
「もう、おしまいにしよう」
 
 そのまま、勢いよく破り捨てた。
 ばらばらと、無数のページが舞台の上に広がっていく。僕はただそれを呆然と見つめることしかできない。ヒワはその上に浮かびながら、じっと、僕を見下ろしている。
 恐る恐る、破り捨てられた脚本の一枚を、手に取る。
 それは……、白紙だった。
 その一枚だけじゃない。僕の視界に映る床に落ちた紙の全てには。
 
 何も、書かれてはいなかった。
 
 見上げたヒワは笑う。今にも泣き出しそうな顔で。
 ――僕が、どこかで見た顔で。
 
「お別れだ、あたしの、」
畳む


#桟敷城ショウ・マスト・ゴー・オン!

文章

バーテンダーさんが氷を削る動画なんだけどこれめちゃめちゃいいな~!!
バーの氷ってこうやって作られてるんだなと思うとわくわくしてくる。
バーテンダーというお仕事への解像度もぎゅんと上がる感じでとてもよい……。
雁金!!! 氷削る練習しよ!!!(何?)

映像

MIU404を見返してるんだけど2回目見ると解像度上がるね~!
「多分こうかな?」って思ってたところを補強したり、微妙に聞き漏らしてた台詞聞けたり、何度も見る楽しさというのを体感している~!
普段本当に映像作品は見ないし一度見たものを見返したりすることも稀なので、こういう機会を設けてもらえるのはとてもとても嬉しいなあ!
環境が変わったらこうもしてられなくなりそうだけど、それまでに色々詰め込めれば……よい!

いま

MIU404感想:7、8話(2回目)。
7話、改めて見てもめーちゃめちゃテンポがよいな……。
伊吹・志摩サイドと陣馬サイドを描きながら、実はそれぞれの点が線で結ばれることになるお話。すごく好き……。
きんぴらちゃんかわいいね~。お手柄だね~。猫は猫であるだけでかわいい。
名前のないひとたちの話、ってのもまた象徴的であるよね~。それぞれがそれぞれの事情で名前を名乗らないということ。
それにしてもほんとに十年……十年な……。伊吹さんが「十年で何ができる?」って聞くところがめちゃめちゃ好きですね。
伊吹さんにとっては腐ってもおかしくなかった十年だけど、でもそうはならなかったから今があるわけで。
十年……ほんとに、ある意味気の遠くなるような十年であることよ……。
きゅーちゃんも遠隔ながらできることをしており、そもそも服を選んであげているあたり陣馬さんとの仲がよくなっているのを感じ、めちゃめちゃきゅんきゅんしてしまう。
あともうねーーーー陣馬さんが最後にきちんと家族の元に行けたのが本当に……よかったなって思って……ほんとに……息子さんに伝わってるのがきゅーちゃんの動きによるものなのがまたね~!! ほんときゅーちゃんナイスアシストなんだよな!!

8話はほんとにつらくてしんどい……しんどいよぉ……。
これはもう、どうしようもない、としか言いようがなくて、それが本当にしんどい……。希望が全く見えない話であること……。
伊吹さんが「ガマさんは刑事だ」っていうのに対して、ガマさんは……「もう刑事じゃない」と言う。
伊吹さんは過去にガマさんに確かに救われたという事実があって、あるからこそ、伊吹さんは最後まで問いかけ続けるんだけど……。「俺はどこで止められた」と「どうすればよかった」と。
でも、今ここにいるガマさんは覚悟が決まっていて、既にどうしようもなく閉じてしまっているという……この……。えん……。
でもね、そう、「あの子に」って言って。最後まで伊吹さんに目を合わせなかったこと。それがガマさんなりの、伊吹さんへの思いなのかなって気もして。
あーーーー言葉にならんな……この話は本当につらい。つらいよぉ。
最後の最後に、志摩さんが「相棒」って言って伊吹さんに手を差し伸べる(彼が以前香坂さんにできなかったように)ところがね……ぎゅっとしちゃうよね……。えん……。
あとUDIラボのひとたちがちょこちょこ出てるのかわいいね……それだけが癒しだったよ……いやー中堂さんじゃダメだったろうなぁwww相性悪そうとしか思えないよwww畳む

映像

ここに桟敷城を投下してると、実際には何もしてないけど、何かしてるような気分になるのでよい……。
桟敷城はあんまり詳しくないけど何となく舞台への憧れだけがある青波(枳)によるファンタジーでして。
だから主役のササゴイも比較的ファンタジー役者なんだけどまあそこは許してください。
一応ここに転記するにあたって少しだけ修正加えたり加えなかったりしてます。ほんの少し。

作業


●Scene:08 叫ぶための声もない

 あれから――あれから、特に何も無かった。
 ちょっとしたハプニングはあったが、いつもと少し違う客相手の公演も何とかかんとか幕を下ろして、それからは今までと何一つ変わらない、練習と宣伝の日々だ。
 強いて変化があったとすれば、何故か僕とコルヴスとの関係が少し良好なものになった、くらいか。コルヴスはどうも人との距離感を測るのが苦手らしい、というのはパロットから後で聞いた話だ。空気あえて読まない芸人のパロットに言われるのも相当アレではあるが、確かにパロットのそれと、コルヴスのそれとは全く質が違うらしい、ということはあの日の一件でよくわかった。
 そして、わかってしまえばどうということはないのだ。僕も、コルヴスも、お互いの見えてる地雷を踏みぬくような真似はしない。もとい、コルヴス曰く「地雷を踏む相手は選びますよ」とのこと。つまり相手によっては見えてても踏んでくるらしいが、今のところその様子がない以上は、僕の地雷を踏む価値は特に感じていないということだろう。いいことだ。
 いいことだ。いっそこのまま、永遠に、同じような日々を過ごしていられればいいとすら思い始めるほどに。
 未だ夢は覚めない。数だけは多い観客席と、張りぼての舞台を持つ劇場の夢。いつか必ず終わると予言はされているけれど、それでも、僕にとっては変化の無い、桟敷城での日々。
 ヒワの書いた脚本は、ちょうど半分を越えたくらいだ。分厚い手書きの脚本は読みづらいったらなくて、僕は未だに脚本の結末を知らないまま、ヒワとパロットと、ナレーションとして参加することになったコルヴスに稽古をつけている。
 今日も、僕は全員が集まる前に、舞台の袖で今回の脚本を確かめる。
 桟敷城の魔王ササゴイにさらわれた天空王国の姫君ヒワ。魔王は姫君に『己を楽しませろ』と一方的に告げた。そして、姫君は魔王にいくつかの物語を語って聞かせるけれど、魔王は一向に満足した様子が無い。
 けれど、姫君がある物語を語り始めたその時、魔王の様子が少しだけ変わった――。
 まるで起伏も何もない、正直面白くもなんともなかった物語が、初めて動き出す場面といっていいだろう。霧に包まれたような物語の全容が、少しずつ明らかにされていく、そのきっかけの場面。
 僕は椅子に腰掛けて、脚本をめくる。膝の上に載せながらでないと、手が疲れてしまう程度には重たい脚本だから仕方ない。
 今、『魔王ササゴイ』は僕の使役できるもの――黄昏色の不思議な影の劇団員が演じ、魔王には元より台詞が用意されておらず、魔王が何を言ったのかはヒワやパロットが代弁する。これからはナレーションのコルヴスに言わせてもよいだろう。
 脚本を手繰る。
 天空王国の姫君ヒワは、ある時から一つの運命を担っているという。
 世界の――これはこの「できそこないの世界」とは関係の無い、あくまで舞台上の話だ――存亡に関わる、重大な運命。そして、それは黄昏色の記憶と結びついているのだとヒワ姫は言う。
 黄昏。何度も出てくる言葉であり、この桟敷城を象徴する色でもある。物語の『魔王ササゴイ』は黄昏色の兵隊を使役し、桟敷城の魔王である僕は、黄昏色の劇団員を操ることができる。そもそも、この劇団の名前が『黄昏劇団』なのだと、ヒワが言っていたことを思い出す。
 これは、単純にヒワが好きな色とか、そういうものなのだろうかと思ったが、少しばかり引っかかる。
 桟敷城は、ヒワのものでは、ありえないのだ。
 最初にそこにいたのはヒワ――とパロットだが、パロットは客人であることがはっきりしている――だった。けれど、桟敷城の全ての決定権は僕にあり、黄昏色の劇団員も僕に従う。ヒワは脚本を書いて、姫を演じるだけで、桟敷城の全てを操れるわけではない。
 なら、この桟敷城は、どうして黄昏色をしているのだろう。
 僕の影は、どうして黄昏色をしているのだろう。
 そして、ヒワは、どうして桟敷城にいるのだろう。
「――ササゴイ?」
 刹那、鈴を鳴らすような、声がした。
 そちらを見れば、黄色い羽を持った少女が、壁の後ろから恐る恐るこちらを見ていた。
「どうした? 随分、怖い顔をしてる」
 ヒワの言葉に、僕は意識して顔の筋肉を緩める。ヒワについて色々と考えていたのは事実だが、何も、ヒワを脅かしたいわけではないのだ。
 ヒワの存在は、僕にとって夢のようなものだし、実際に夢なのだと思っている。黄色い髪に黄色い羽、舞台上の役そのものの姿をした「お姫様」。そんなもの、現実にはあり得ない。
 だから、疑問に思うことをやめていた。そういうものなのだと自分に言い聞かせて、考えても意味が無いのだと思うことにしていた。
 けれど、本当にそれでいいのだろうか。
「ササゴイ。ここしばらく顔色が悪いぞ、少し休んだらどうだ?」
 こちらに音もなく近づいてきた――浮いているから当然だ――ヒワは、きらきら輝く琥珀色の瞳で僕の顔を覗き込んで、そんなことを言う。なるほど、ヒワからはそう見えているのか。コルヴスと僕との間にあったやり取りを、僕は結局ヒワとパロットには伝えていないから、そう見えるのは当然かもしれない。
 コルヴスに僕自身を暴かれたあの日から、僕は、夢の中で夢を見るようになっていた。
 遠い日の夢。実際にはそんなに前のことではないけれど、もはや遥か遠くのことのように感じられる、僕が「全て」を失った日の夢。
 ササゴイ、と。ヒワがもう一度僕の名前を呼ぶ。否、僕の役柄の名前を呼ぶ。
 僕は本当はそんな名前じゃない。ただ、その「名前」で呼ばれることが、何よりも心地よかった。最低でも、この場所では。この夢の中では。僕を「かつての僕」として見てくるモノは誰もいなかったから。
 なのに、僕は思い出してしまった。コルヴスの言葉がきっかけではあったけれど、コルヴスは別に悪くないと思っている。これは、ずっと、忘れていたふりをし続けていた僕自身の問題だ。
 スポットライトの下で、喝采を浴びていたことを思い出す。観客席の全てを見渡して、彼らの視線がこちらに向けられていることを意識する。誰もが僕を見ていた。僕という肉体を持ちながら、僕ではない「何者か」となった僕を。
 そうだ、僕は何にだってなれた。なれるのだという自負があった。
 僕はそうやって「演じて」「魅せる」ために、いくつものものを削り落としてきたし、その選択を後悔したことは一度もない。選び取った、ということ自体は僕の誇りであり続けている。
 だけど。だけど。
 誰もが僕を見ている。舞台から引きずり降ろされた、「僕」でしかありえない僕を。
 もう、何かになることもできない僕を。
「……ササゴイ、大丈夫か? ササゴイ?」
 頭が痛い。喉が焼けるようだ。
 嫌だ。僕はそんなこと望んだ覚えはない。死に至るならそれでよかったんだ。それまでの時間だけでも、舞台に立たせてほしい。そう訴える僕の言葉など、誰も聞いちゃくれなかった。お前には、まだ、未来があるのだから、と。諦めるにはまだ早すぎる、と。
 諦めたわけじゃないというのに。僕はただ、僕の夢を叶え続けていたかっただけなのに。
 そうして、僕を待っていたのは、無数のカメラのフラッシュと好奇の目。声を失った、悲劇の舞台俳優。違うんだ、僕はそんなものになりたかったんじゃない!
 だから、逃げた。人の「目」から逃げて、逃げて、逃げ続けて、そうして、ついには夢の中にまで逃げ込んだのだ。
 誰一人として僕の名を呼ぶことのない、過去も未来もない、この場所に。
 けれど――ここでも、まだ、僕は。
「ササゴイ!」
 分厚い脚本を握りしめる。
 僕だって舞台に立ちたいに決まっているだろう!
 どんな張りぼての舞台だって構わない。僕がなりたかったものになれる、唯一の場所に、もう一度立ちたいに決まってるだろう!
 
 なのに。
 
 僕には、そう叫ぶための、声もない。
畳む


#桟敷城ショウ・マスト・ゴー・オン!

文章


●Scene:07 他人事オーディエンス

 結局のところ、桟敷城には住人がもう一人増えることになった。他に行き場が無いと言われては、宿を貸さないわけにも行くまい。別に、部屋は作ればいくらでもあるのだし、食糧にも困ってないんだから、ケチなことを言う理由もない。
 新たな住人の名は、コルヴス・コラクス。盲目の白鴉、ここではない世界の住人であり、パロットの友人。元は戦闘機乗りで、視力を失ってからは整備工を生業にしているとか。なかなか波乱万丈だ。
 そのコルヴスは、目が見えないってハンデこそあるが、当たり前のように一人で桟敷城を闊歩しているし、生活にはそこまで不自由していないようだった。
 どうも、手足の感覚だけでなく、杖や足で立てる音の反響で空間を把握しているらしいが、正直人間業じゃない。なお、パロットは「え、そのくらい普通じゃね?」みたいな顔をするのであいつはあいつで人間を辞めているのだと思うことにしている。実際コルヴスも「パロットよりは耳が悪い」とのたまうので、僕の見解もそう的外れじゃないはずだ。
 だから、目下の懸念事項は――僕とコルヴスとのコミュニケーションだ。
 コルヴスが「見る」という能力を失っているのに対し、僕には「声を出す」という能力がない。いや、訓練すれば発声は可能らしいけれど、意味を感じなかったのだ。それこそ、コルヴスと対峙するようになるまでは。というか、パロットがスマホを壊さなきゃもうちょいやりやすかったんだろうけど。
 もちろん、僕がコルヴスと積極的にコミュニケーションを取る理由はそこまでなくて、話す必要に迫られた時は、通訳ならヒワかパロットに頼めばいい。だから、そういうものだと割り切ってしまえば済むことで。
 実際、それでもよかったのだ。
 よかった、はずなのに。
 

          *     *     *


「ミスター・ササゴイは、舞台には立たれないのですか?」
 公演は始まっている。日々の練習の成果もあってか、やっとこささまになってきたヒワの長台詞を舞台袖で聞いていたコルヴスが、唐突に僕に問いかけてきたのだ。
 ヒワも、パロットも舞台の上にいる。僕やヒワが操ることのできる「影の演者」も、僕の言葉を代弁してはくれない。何せ、彼らは一様に言葉を持たない。……もしかすると、それも僕の影だからかもしれないけれど。
 コルヴスはいつだって芝居がかった言い回しかつ、よく響く声で喋る。ただし、その声は「聞かせたい相手」以外に聞こえることのない声でもある。よく訓練されている。僕も似た訓練を知っているから、その難しさはよくわかるが……。
「ミスターは、声を出せないと伺いましたが、その様子だと声帯の切除でしょうか」
 ――初めて。
 この男は、僕の「声」に言及してきた。
 ヒワもパロットも、僕が『何故』声を失っているのかを聞いてくることはなかった。だから、声について話を振ってきたのは、コルヴスが初めてだ。これが「声帯の切除」であると確認されたのも。
 僕は頷き一つでコルヴスに応える。見えていなくとも、コルヴスはこちらが首を縦に振ったか横に振ったかくらいは、気配で察する。
 けれど……、何故、わかった?
 僕の内心の問いを、果たしてコルヴスは正確に受け取ったに違いない。音もなく僕の目の前にやってきたかと思うと、僕の喉元に冷たい指で触れる。
「ミスターの振る舞いは、内因性の症状には思えなかったので。時々、唇だけで喋っていると思われる時もありますしね」
 ああ、本当にコルヴスはよく「見て」いる。ほとんど無意識に、反射的に、喋ろうとして、そして喉から声が出ないと理解するたびに。僕は――。
 やめよう。考えたところで何が変わるでもない。別にここにいる限りは困ることはほとんどないし、仮に「目が覚めた」ところで、僕の過ごし方が変わるわけでもない。
 変わらない。変わらない、はずなのに。
「それで。……舞台には、立たれないのですか?」
 もう一度、コルヴスは僕に問いかけてくる。
 僕は、その問いかけに首を縦に振ることはない。僕は舞台に立たない。座長なんてお飾りの役職にすえられながら、裏方でヒワとパロットと影の劇団員たちの芝居を眺めているのが僕の役目だ。
 けれど――首を、横に振ることもできなかった。
 コルヴスは、見えていないはずの目を開いて、じっと、色眼鏡越しに僕を見つめる。光を映さない代わりに、僕の奥の奥を見透かすように。
 何故、そんなことを問うのか、と。僕は唇の動きだけで問う。普通ならば「声」として届かない音でも、今この場におけるコルヴスには十分だったらしい。細い顎の前に人差し指を立てて。
 
「だって、あなたは『役者』でしょう?」
 
 そうのたまって、笑ってみせるのだ。
「本職の役者が舞台に立たないなんて、それこそ怠慢ではありませんか?」
 コルヴス。コルヴス・コラクス。
 僕はこの男を見誤っていた。どこか芝居がかった、否、芝居そのものといえる「桟敷城の客」を演じながら、誰とも軋轢を起こさずに生きているばかりの男だと思っていた。
 けれど実態はそうじゃない。そうじゃないんだ。この男は、客という仮面の下から、僕を「観察して」いる――!
 気づいてしまった瞬間、僕はコルヴスの目を潰してしまいたいという、激しく強烈な衝動に駆られた。この男は。僕が何一つ言っていないのに。僕が『役者』だと見破ってみせた。ああ、違う、目を潰すのでは意味がない。この男の目は見えていないのだから。
 なら、僕は。
 僕は――。
 気づけば、すぐ傍に立っていたコルヴスを突き飛ばしていた。僕の、完全に衝動的な反応には流石のコルヴスも対応しきれなかったらしく、たたらを踏んで、その勢いのままに舞台の上にまろび出てしまう。
 舞台上のヒワは、突然の闖入者に長台詞がすっ飛んだらしい。パロットは変わらない調子で、むしろその闖入者を面白がるような台詞をでっち上げて見せる。そういう突発的な事態へのアドリブ――というかパロットのそれは本当に素直な反応なのだが、結果として舞台の推進力になる――はパロットの十八番だ。
 だから、この程度のアクシデントはどうということない。
 そう、思っていたのに。
「あ、……ぁ」
 心細く響いたその声が。酷く混乱していた僕の意識を現実に否応なく引き戻す。
 コルヴスは、舞台上に棒立ちになっていた。スポットライトを浴びて、姫と魔王の謁見の舞台に立たされて、そして――、酷くおびえた顔で、立ち尽くすことしかできずにいた。
「ササゴイ!」
 舞台の上で、パロットが鋭く叫ぶ。それが台本にない台詞である、とわかった瞬間、影の演者を何人も舞台の上に生み出して、コルヴスを一気に舞台袖まで引き戻す。
 舞台袖に戻ってきたコルヴスは、床に膝をついて、長い腕で自分の体を抱いて、顔面蒼白で震えていた。けれど、僕が傍にいるということはわかったのだろう、何とか作り笑いを浮かべて僕を見上げる。
「ああ、その……、みっともない姿をお見せしてしまって……、申し訳ない」
 いや、これは、僕の失態だ。判断ミス、と言い換えていい。
 コルヴスも僕と同じ「役者」には違いない。こうして、咄嗟に作り笑いを浮かべてみせるくらいには、自分を取り繕う、本来自分のものではないものを演じるということに慣れきってしまっていることを、僕は自然と悟っていた。
 コルヴスが僕を「役者」だと見抜いていたのと同じように、僕もまた、コルヴスは僕の同類なのだと理解はしていたのだ。この男の態度は、常に演じられているものだ。他の誰も気づいていなかっただろうが、僕だけは、それをただただ「気持ち悪い」と感じていた。
 ただ――コルヴスのそれは、人に「見せる」ための姿であって、人を「魅せる」ためのそれではないと、思い知らされた。
 コルヴスは、役者ではあるが僕と違って「舞台に立つ人間」ではないのだ。
 膝をついて、コルヴスの手を取る。冷たく、そして酷く震えている手だ。
 ごめん、と。その手のひらに文字を記す。
「謝らなくてもいいんですよ、ミスター。ボクの方が不躾でした」
 それでも。もう一度「ごめん」をコルヴスに伝える。
 僕の勝手な感情のままに、「人の前に立つ」だけでこれだけ怯えあがってしまうコルヴスを衆目に晒してしまった。知らなかったとはいえ、苦痛を与えてしまったことには、謝罪しなければならない。
「……ミスターは」
 ぽつり、と。声が降ってくる。
「諦めきれないのですね」
 それは、僕にだけ聞こえる声だ。舞台上のヒワとパロットには、きっと聞こえない声。
 そう――そう、なのだ。
 諦めきれないから、コルヴスの問いに答えられなかった。それどころか、逆上してしまった。僕は、言うまでもなく……。
 舞台袖から舞台を見る。張りぼてばかりの、けれどきらきらと輝く世界。観客はほとんどが演劇のよさなどわからない、勇者どもであったとしても。
 それでも、舞台の上には一つの世界があって。
 僕は、その世界を映し出すスポットライトに、憧れて止まないのだ。
畳む


#桟敷城ショウ・マスト・ゴー・オン!

文章