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幸福偏執雑記帳
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以降更新はindexで行います

No.602, No.601, No.600, No.599, No.598, No.597, No.5967件]

『ベイジルタウンの女神』(2020)
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

※2021年4月15日の記録

ケムリ研究室 no.1 『ベイジルタウンの女神』
https://derashinera.jp/activity/basiltow...


インプットをしよう! という気持ちになっている昨今ですが、今回は舞台『ベイジルタウンの女神』(2020)を観る機会を与えていただきました。ありがたいことです……。コロナの環境下において、公演できるかどうかどうかぎりぎりの状態で上演された劇だそうで、何かそれだけですごいしみじみしちゃうものがありますね……。

あらすじとしては、世間知らずのお嬢様である女社長さんが、スラム街『ベイジルタウン』の再開発を巡ってどたばたするコメディものなんですけど、とにかくめちゃめちゃかわいいお話! ですね!

演出がとにかくかわいい……プロジェクションマッピングでのアニメーションと舞台上の人たちの演技のかみ合わせがとってもかわいいんですよ……たまんないですね……。シーン同士のつなぎもとてもよくて~! 演出眺めてるだけでも楽しい気持ちになりますね。

そして主人公のマーガレットがまあ世間知らずもいいところでずれっずれの発言をしまくるので腹を抱えて笑ってしまうんだけど、彼女の周りを取り巻くひとたちもやっぱり一癖も二癖もあって、やり取りのテンポのよさが本当にすごい。笑いのツボを心得ているというもの……、本当に笑った。演者さんたちの表情もめちゃくちゃいいんですよ~!

ストーリーもすごく安心して見ていられるというか、これなら絶対に大丈夫! っていう気持ちになれるというか。もちろんハラハラするシーンもあるにはあるんですけど、何か見ているうちにこの人たちなら絶対に何とかしてくれるはず! っていう信頼感が生まれてくるんですよね。そういうの、あると思います。あるある。そのくらい気持ちの良い展開なのでこれは万人におすすめできるな~というのもわかる……。

ちょっとした台詞が後半に至るまでの伏線だったり、登場してもいないキャラクターが謎の存在感を発揮してたり、ついにやっとしてしまうシーンがてんこもりで最後までにこにこしながら見ることができました。

3時間ちょいというそれなりの長尺だったんですけど全く長さを感じない! かわいくてコミカルで見ててすかっとするおはなし、とってもよかったです。好きになっちゃうよこんなの~!畳む

舞台

『万獣こわい』(2014)
作:宮藤官九郎
演出:河原雅彦

※2021年4月12日の記録

万獣こわい | PARCO劇場
https://stage.parco.jp/web/play/manju/


インプットをしよう! という気持ちになり今度は舞台『万獣こわい』(2014)を観る機会を与えていただきました。ありがたいこと……。

ストーリーについて語りづらいな……えっと、監禁事件の被害者であるおんなのこと、彼女に関わったひとびとの、狂っていく歯車のおはなし。これ、元となっているのが現実の事件ということもあって多くを語りづらいというところはあるんですけど、とにかく演出がめちゃくちゃ……好きですね……。

ほんとめちゃくちゃブラックなおはなしなんですけど、ちょいちょい笑いでくすぐってくるのずるいわ……。ずるいよ……。どう考えたって笑っちゃうじゃんあんなの……。笑っちゃうからこそ、ぞっとするところとの落差がやばい。なんというか、暴力的なシーンもあるのだけど、それよりも各人の対話の中で静かにひたひたと迫ってくるような不穏の部分の方が自分は怖かったですね。こわいよ~。

それとわからぬまま人に意志を委ねてしまうということ、人を疑うということ、自己保身ということ、体裁ということ……。なんというか、人の普段隠したい部分てんこもり! という感じなんですけどそれを上手く飲み込めるように配置しちゃうのがずるい。そう、何と言うか、食傷しないぎりぎりのラインを全力で突っ走っている感じがすごいんですよね。それらを笑いのエッセンスを加えてすごくバランスよくお出しされてしまっているのでつい全部飲み込んでしまって、そして飲み込んでしまったもののブラックさを考えさせられてしまう感じの……おはなし!

何よりもオチ……オチがですね……。積み重ねてきた全てをここに持ってくるか……っていう気持ちになってもにゃ……と噛みしめてしまうであります。もちゃもちゃ……。終わらないし終われないお話なんだろうなというのを感じてしまう。

いやーーーーよいものを見せてもらいました。多分これ舞台じゃなかったらめちゃくちゃ嫌な感じの話として残ってしまったと思うけど、舞台らしいやり方で見せていただいたので自分はすごく好きな話になりましたね……。好きって言っていいかどうか……わかんないですけど!畳む

舞台

『カリギュラ』(2019)
作:アルベール・カミュ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也

※2021年4月11日の記録
二回目感想は >>25

インプットをしよう! ということでありがたくも観る機会があり舞台『カリギュラ』(2019年版)を観ました。

カリギュラ - インプレサリオ公式HP
https://www.impresario-ent.co.jp/stage/c...


ストーリーは上のリンクを参照していただくとして、完全に何もわからずに見たこともありかなりふわっふわとしてしまっている……。あとで感想やネタバレなんかを巡ってみようかなと思っています。

ただ、カリギュラの狂気と呼ぶべき何か……自分はそれが「狂気」だったかどうかわからないな、と思うのですよね。いや、一貫したものだからこそ「狂気」なのかもしれない、とも思うのですけど、カリギュラはどこまでも理性的であったなと思うんですよね。論理、とカリギュラは言ったけれど、確かに彼の中ではそれは一貫した論理であるし、ケレアもそれを認めている。(その上でケレアは「それでも私は」と続けるのだけれども……)

だからこそ、カリギュラの狂気は見る者を引き付けるのかなと思うんですよね。目を離せなくなる力がある。そして、カリギュラの周囲の人が離れがたくなるだけの何かを握っている。「カリギュラを理解してあげて」というセゾニアのシピオンに対する台詞とかほんとに……ほんとにさあ……。

実際にカリギュラを少なからず理解したとみられるセゾニア、エリコン、シピオンはそれぞれのやり方でカリギュラの側に在り続ける。シピオンは……最後には離れてしまうし、それが決定的な破滅の引き金になるのだけど、要するにそれぞれがカリギュラを構成するものでもあったというか……。もしくはカリギュラが捨てようとして捨てられなかった何かであったのかもしれないなーとも思うんですよね(シピオンが自己矛盾を起こしているのもカリギュラの自己矛盾の投影である、みたいな話を一緒に見てた人がしてくれたのが印象的でした)。

結局理解できたかどうかは怪しいんですけど、でもカリギュラの生き様とその結末には何か惹かれるものがあるんですよね。「月が欲しい」と言ったカリギュラのこと……。不可能、を求めたこと。それが愛した妹の死から始まっているというのもまた思うところがあり。それを認めなかった世界そのものへの反逆なのかな、というのは思うところ。反逆を肯定するということ……そう、カリギュラは自分に対して革命を試みるものも肯定するところがあり……実際、反逆を企んでいるケレアのことは殺していないところも……色々と思うところありますね。

まだまだ噛めるところいっぱいありそうなので……また機会があったら観たいですね~!畳む

舞台

Twitter300字SS「救う」
第八十一回「救う」2021年11月6日

 悪い魔法つかいは、人の望みを叶える代わりに、「生きる力」を奪うのだという。
『願いを叶えるほどの大がかりな魔法は、ひとりの命を奪うだけでは済まない』
 真剣な声音に、ごくりと唾を飲む。
『だから、君の力が必要なんだ、イリス。いち早く悪い魔法つかいを退治して、魅入られたひとを救うんだ』
 身にまとう虹色の衣装に姿を変えている、相棒のウェールが言う。「わかった」と頷いて、椎名すずめ――魔法つかいイリス・アルクスは、煌めくしっぽ髪を夜風に揺らす。
 魔法の力を宿した目は、月の沈んでいく方角に、大きな力が渦巻くのを見て取る。
「見つけた。……行くよ!」
 銀のブーツがアスファルトを蹴って、イリスは夜空にふわりと舞った。

――『よい魔法つかいの役目』

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Twitter300字SS「残る」
第七十九回「残る」2021年9月4日

 すずめの、今日のおやつはシュークリーム。
 一回り大きめのシュー皮の中には、生クリームとカスタードクリームがいっぱいに詰まっている。
 けれど、今日は明らかに何かが変だという確信が、あった。
「ウェール」
 すずめの腕に巻き付いているウェールは、ぎくりと体を震わせる。ぬいぐるみ然とした『魔法つかい』は、誤魔化しが上手くない。すずめはそっと、皿の上のシュークリームを取り上げる。
 見れば、妙に軽いシュー皮の底には、ぽっかりと穴が開いていて。
 中に詰まっているはずのクリームが、すっかり空になっているのであった。
「クリーム、おいしかったから、つい……」
「ここまでするなら、クリームだけじゃなくて皮も残さず食べたら?」

――『今日のおやつ』

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Twitter300字SS「波」
第七十八回「波」2021年8月7日

「この小さな箱の中で、人が喋っているのかい?」
 突然のウェールの質問に対して、すずめは手元の「箱」を取り上げる。
「これはラジオ。人が入ってるんじゃなくて、電波を拾って音や声を伝えてくれる機械」
「電波とはなんだい?」
 言われても困ってしまう。すずめとて電波がどんなものなのかを理解してはいないのだ。ウェールもそれを悟ったのか、「ふむ」と首を傾げて、言う。
「人間も、魔法みたいな力を使うのだね。不思議だなあ」
 長い身体をくねらせ、ふわふわなぬいぐるみの姿をした魔法つかいのウェールが言う。ウェールの方がよっぽど不思議だよ、と思いながらも、すずめはラジオから聞こえてきた好きなアーティストの音楽に耳を傾けるのだ。

――『魔法の箱』

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Twitter300字SS「答える」
第七十七回「答える」2021年7月3日

 椎名すずめが秘密の名前を唱えれば、魔法つかいイリスに早変わり。なのだけれども……。
「ウェール」
「ないよ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「言わなくてもわかるよ。そんな魔法はありません」
 ウェールはふさふさとした尻尾を振りながら言い、すずめは恨めしげにウェールを睨む。
「魔法つかいなのに、魔法で解決できないことが多すぎる!」
「言われても困るよ。僕が魔法を作ったわけじゃないんだから」
 それもそうだけど、と唇を尖らせて、すずめは手元を見る。XとYが並んだ数学の教科書は何も語りかけてはくれない。
「そもそも、テスト前日になって勉強を始めるのは、魔法の国でも付け焼刃って言うんだけど」
「正論は聞きたくないの!」

――『答えが知りたい』

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