「あら、小林くん」
金茶の髪にオッド・アイを持つ『元神様』小林巽は一応生粋の理系大学生であり、既に研究室に所属している身である。
で、今日も何となく顔を出してみると、同じゼミの仲間である木島真智が優雅に紅茶を飲んでいた。
「おう、真智。教授は?」
「今はいないわ。後で来るんじゃないかしら」
真智は理学部物理学科宇宙物理学コースの数少ない女性であり、美女であり、しかも物腰がとても柔らかい。同コースの男どもは皆一度は真智に惚れると言われているし、裏ではファンクラブが存在しコースの半分の人間が所属しているとか。
ちなみにあと半分が所属しているのは『小林巽を嫁にしたい会』な気がするが全力で気のせいだ。
だが。
巽は嫌というほど知っている。
この木島真智という女は、見た目どおりの人間ではないということを。
巽も自分の分の紅茶を淹れて、真智の横に座った。真智はじっと上目遣いに巽を見つめている。見つめられることには慣れているものの、何となくいたたまれなくなって巽は問う。
「なあ、何じっと見てんだ?」
「いえ……何で小林くんは、宇宙人じゃないのかしら、って」
「まだそれ言ってたのかよ」
「だって、こんな目の色普通の地球人は出せないわ! それに、時々浮世離れしたことも言うし……絶対に宇宙人だって信じてたのに、どうして『元神様』なんてそんなファンタジーな世界の住人なのよ……」
大げさに悲嘆にくれる真智。『元神様』も宇宙人もそんなに変わらないのではないか。巽は常々そう言っているのだが、どうも真智が求めているのは宇宙人であってそれ以外の何者でもないらしい。
一体何故真智がそんなに宇宙人に浪漫を抱いているのかは知らないし、別に理由を知りたいとも思わないが。
宇宙人にしか興味がないというのもいい加減考え物ではないか。
「この前、博に『あなたは宇宙人ではないのでお付き合いする気はありません』って言っただろ、お前」
「ええ、言ったけど」
「そりゃねえって。あいつ、泣いてたぜ」
「私の主張を理解できないなら、どうにせよお付き合いはできないもの」
とんでもないことを言いながら優雅に微笑む真智に対し、反論は無駄なので巽は大人しく茶をすすっていた。この女はそういう奴なのだ。今までも、そして多分これからも。
真智は巽の心境など知らずににこにこ笑いながら、やっぱり茶をすすっていた。
研究室での時間は、こんな感じで過ぎていく。
元神様と放浪作家のイビツな関係