「俺、一度ハチに刺されたことがあるんだよ」
「ほう」
苦学生小林巽と、作家先生秋谷飛鳥は肩を寄せ合いながら、言った。
「で、アナフィラキシーショックってあるじゃん」
「急性アレルギー反応だな。ハチ毒の場合抗体ができているとその抗体が過剰に反応して症状が出るって奴だろう」
「そう」
二人とも、狭い部屋の中の一点を見つめたまま、冷たい汗をかいている。その体は硬直していて、軽く震えているようにも見えた。
「……奇遇だな、俺様もハチ毒アレルギーだ」
「へえ、そりゃあ初耳だな巽くん。それでどうしようか」
「どうしよう、なあ」
二人が見つめているのは、部屋の中に入り込んでしまった、一匹のハチ。
ハチ嫌いの二人はそれを追い出すことも出来ずに、硬直しているしかなかった。
結局ハチが自分から部屋を出て行ったのは、その一時間ほど後の話だったという。
元神様と放浪作家のイビツな関係