拳を握り締め、唇を噛み。
これ以上、このままではいけない。
苦学生小林巽は決断した。
というわけで。
「秋谷飛鳥、貴様を小林家からの追放の刑に処す!」
「えええええ!」
駄目作家、秋谷飛鳥の絶叫が、ただでさえ狭い小林家に響き渡る。飛鳥はひっしと判決を下した巽の足にしがみ付く。意外とこの作家先生、力は強いためそのまま引き倒されそうになるが何とか巽も耐えつつげしげし蹴ってみる。
「やめい、このアホ作家! むさ苦しい!」
「何でだよ、何で俺が追い出されなきゃいけないんだよ!」
「元よりこの家はお前の家じゃねえだろ飛鳥!」
自分の立場を理解していないような飛鳥の台詞に、巽は余計に腹が立つ。いや、「理解していないような」ではない。「理解していない」のだ。
「それが嫌なら来る時間を決めろ! チャイムを押せ! ドアノブに手を触れろ! とにかくここは俺様の家だ、俺様がルールだ立場を弁えろー!」
「な、何で巽くん、急にそんなに厳しくなったんだよ……」
飛鳥は巽の豹変具合に慄き、びくびくと部屋の隅で震えている。それを見た巽はにやりと邪悪な笑みを浮かべ、余計に飛鳥を恐怖させた。
そう、全ては「自分の立場を理解させること」から始まるのだ。
巽は思い、手にしていた本をめくり、次の段階に進もうと思考をめぐらせる。
そんな巽の手に握られているのが『犬のしつけ方』という本だったことに飛鳥が気づかなかったのは幸せなことかもしれない。
元神様と放浪作家のイビツな関係