「今日も暑いなあ」
「すごいな、陽炎まで立ってるぜ」
「そうだ、巽くん、こんなこと言うと変かもしれないけど」
「いつも変じゃねえか」
「ははっ、酷いなあ。でも、こんな風景を見ているとさ」
「ああ」
「世界が、終わった日のことを思い出す」
「………」
「実際は全然違うんだけどさ、焼けるような熱さとか、太陽の近さとか、空の色とか、そんなのが、少しだけ似てるなあって思うことがあるんだ」
「飛鳥」
「何?」
「早めに忘れろよ。それか思い出にしろ」
「そうだね。なるべくそうする」
ゆったりとした足取りで歩きながら、帽子を目深に被った作家先生秋谷飛鳥は、にこりと口元だけで笑ったけれど。その横にいた大学生小林巽は、飛鳥とその後ろに立ち上る陽炎を見ながら、その笑顔がやけに儚いものだと気づいていた。
忘れられるはずもない。
気づいていながら、巽はそう言わずにはいられなかったのだ。
「ま、こんな所にずっといたら、ここが世界の終わりじゃなくとも焼け死ぬぜ」
「そりゃそうだ。さっさとアイス買いに行こうか。今日は俺の奢りでいいよ」
「なあ、アイスなんかじゃなくてどーんとエアコンでも買ってくれねえかなあ、大富豪の売れっ子秋谷先生」
「財布握ってるのは俺じゃなくて静なんだよね、残念っ」
何処までが冗談で何処までが本気なのかよくわからない言葉をかわしながら、二人の男は焼けたアスファルトの上を歩いていく。
太陽の光は、二人の影すらもアスファルトに焼き付けるかのように、ぎらぎらと世界を照らし上げていた。
元神様と放浪作家のイビツな関係