元神様と放浪作家のイビツな関係

38:わたしは、秒針なんて好きじゃない。

 ちっ、ちっ、ちっ、
 作家先生秋谷飛鳥は、虚ろな目で目の前に置かれた目覚まし時計の秒針を見つめていた。
 ちっ、ちっ、ちっ、
「ねえ、巽くん」
「何だよ」
「もう、いいでしょう?」
「まだ時間経ってねえだろ、時計見てろよ」
 ちっ、ちっ、ちっ、
「もういいんじゃないの?」
「残り十五秒。こういうのはきちんと時間通りにやるのが一番いいんだよ」
「……そう、かなあ」
 ちっ、ちっ、ちっ、
 横に座った部屋の主、小林巽は箸を片手に握り締める。飛鳥は巽には気づかれないように溜息をつきつつも箸を構える。
 ちっ、ちっ、ちっ、
 目の前には、湯を注がれたカップラーメンが、二つ。
 ちっ、
「三分!」
 巽は時計の針が十二を指した途端、蓋を開けカップの中に箸を差し込み、素早い動きでかき回し始める。飛鳥はのろのろとそれに続きつつも、やっぱり溜息をつかずにはいられなかった。
 何故、巽はここまで「時間」とつくものにはうるさいのだろう。
 麺は硬めな方が好きな飛鳥は、自分の好みよりずっと柔らかい麺を噛み締めながら、そんなことをこっそり思ったのであった。