元神様と放浪作家のイビツな関係

34:コーンポタージュ

 普段は厄介な侵入者も、たまには便利になる。
 国籍不明な貧乏学生小林巽は、珍しく神妙な表情でそんなことを思った。
 額に冷却シートを貼り付け、布団を被って真っ赤な顔でぜいぜい言いながら。
「元神様も風邪は引くんだな」
「うるせい、俺様元々病弱だったんだよっ」
「そうは見えないけどなあ」
 侵入者である作家先生、秋谷飛鳥は苦笑しながら巽にコーンポタージュの入った器を手渡した。冷蔵庫には無かったから、おそらく今飛鳥が即興で作ったのだろう。
 普段は冷蔵庫に入っている巽の料理を(勝手に)食べるだけの飛鳥だが、実際には奥さん不在であることが多い秋谷家の主人なだけはあり、料理は実に得意だったりする。それなら普段から俺のを取らないで自分で作れ、という巽の必死の要請は届かずにいるが。
「飲める?」
「ん、何とか。病気には慣れてるし」
 こっちに来てからはめったに病気にかかるようなことはなかったが、寝込むこと自体には慣れている自分が嫌になる。かつて病弱だった、というのは決して嘘ではないのだから。
 巽はそんなことを思いながら、熱いスープを一口含んだ。すると、飛鳥は穏やかな笑顔を深めて言った。
「でも、慣れてても一人で寝込んでいたら心細いんじゃないかなあって」
「はっ、ガキじゃあるまいし、んなこたねえよ」
 巽は言って、熱に浮かされながらも笑いかける。
 
 誰かが側にいて嬉しかったのは、決して間違いではないけれど。