元神様と放浪作家のイビツな関係

33:昼下がり 学校からの帰り道 たんぽぽ

 今日は授業が休講になった。
 金茶の髪を揺らし、物理学科の人気者小林巽はギターケースを背負いなおし、お気に入りの黄色い自転車に跨って、アスファルトを蹴った。
 春の暖かな日差しに包まれた昼下がり、巽を載せた自転車は、遊歩道にもなっている大学沿いの道を走る。大学の周囲には緑が多いからだろう、この時間にはのんびりと景色を見ながら歩いていく人が目に付く。そのためそこまでスピードを上げずに、巽は自転車をこぎ続ける。
 誰も知らない故郷の歌を口笛で吹きつつ、黄色い自転車を走らせる。
 今日の夕飯は何にしよう。
 そういえば近所のスーパーで鶏肉が安売りだったな。
 卵もだ。
 米も買っておかなくちゃ。
 口笛は穏やかに聞こえるメロディのくせにどこか疾走感すら漂わせる構成で。何度も何度も、似ていながら少しずつ変わるメロディを辿りながら、巽は思考を回転させる。ひどく、所帯じみた思考を。
 よし、今日は親子丼にでもするか。
 きゅっとハンドルを回して、巽は自転車をスーパーの方角に向ける。
 遊歩道に並ぶたんぽぽが、同じ色の服を着た巽がこぐ、同じ色の自転車を見つめていた。