小林巽は金茶の髪に緑と青のオッド・アイを持つ、不思議な外見の青年だ。
性格は陽気でお人よし、誰とでも簡単に打ち解けることができる。
の、だが。
こっそり、例外があったりもする。
「こんちわ」
切り花だけでなく、植物の鉢植えや苗なども少しではあるが取り扱っているような、小さな花屋。巽はここの常連だった。元より植物を……というよりは動植物全般を……こよなく愛する巽らしい。ただ、大学生、しかも明らかに外人面した青年がこのような店にちょくちょく顔を出すなどというのが珍しいのも確かである。
巽の姿を見て、少々くせのある髪をした女店員が巽に笑いかける。
「いらっしゃいませ。今日は何の御用ですか?」
「ああ、ちょっと、花束が欲しくて」
巽は、その店員を直視できないままぶっきらぼうな口調で早口に言った。ほんの少しだけ、頬が赤いのは店員には気づかれていないようで、安心する。
そう。
巽は、この店員に恋をしていた。
アーモンド形をした猫っぽい瞳も、絵に描いたような唇も、明るい色に染めたくせっ毛も、植物を扱いながらもあくまで綺麗な指先も、女性らしいその体型も、放たれる透き通った声も、優しい笑顔も、とにかく何もかもが好きだった。
店員は、にこにこと笑いながら言った。
「珍しいですね、花束なんて」
「友達が演劇サークルで舞台に上がるから、その時に渡したいんだけど」
「そんなこと言って、実は彼女さんに渡すプレゼントだったりして?」
いたずらっぽく店員が言うものだから、巽は焦った。
「な、彼女なんているわけないじゃないすか!」
「ええ、結構もててるんじゃないんですか?」
「そんなわけない、だって、俺は……」
誰よりも、君が。
喉元にまで上った言葉は、結局言葉にはならなかった。
店員は何も知らずに、巽に言われたとおりの花を綺麗な花束としてまとめていく。巽はその慣れた手つきを見ながら小さく溜息をつき、心の中で思った。
もうちょっとがんばれよ、俺。
意外と、いざという時には小心者な巽。
元神様と放浪作家のイビツな関係