何だ、これは。
自称「異世界から来た元神様」の大学生、小林巽は窓にぶら下がっているものを見て思う。
何だか、人のような形をした、白い布で出来た何か。人で言えば首の部分を縛って窓にぶら下げてある。頭に当たる部分には何かが詰めてあるのだろう、重そうに首をかしげた姿は何となく滑稽だ。
「……えーっと」
「てるてる坊主。巽くん、知らない?」
「何だ、それ。ってか手前いつからそこにいた」
「今来た」
ドアも開けずにか。巽は間髪入れずにそう思ったが、あまりにもいつも通りすぎて突っ込む気力も起きなかった。いつからかそこにいた、畳の上に座り込んでいる寄生型作家先生、秋谷飛鳥はにこにこ笑いながら言った。
「晴れますように、っておまじないだよ。巽くんは外から来たから知らないのか」
「ああ。大体の文化は覚えたつもりだったんだけどなあ」
下手な日本人よりも日本における一般的な生活を軽くこなしてみせる「異世界から来た元神様」の巽だが、妙なところでものを知らないことがある。
「最近雨が多くて鬱陶しいじゃん。それに」
飛鳥は立ち上がると、窓に手を伸ばしてちょいとてるてる坊主を揺らして見せた。
「もうすぐ巽くんの誕生日だし。特に巽くんは晴れた日が好きなんだから、誕生日くらい、すかっとしてた方が嬉しいだろ?」
そういうささやかな気遣いは、何となくこの男らしいかもしれない。
巽はそう思って、ほんの少しだけ笑う。
が。
「なあ、飛鳥」
「何?」
「その顔は何だ」
見れば、てるてる坊主には顔が描かれていた。
顔の絵は下手くそで不細工だった。ただその中ではっきりとわかるのは、睨むような釣り目で、また三白眼であること。ご丁寧にも綺麗に緑と青に色分けまでされている。そう、巽のオッド・アイとそっくりそのまま同じように。
「え、巽くんの顔」
「俺様はこんな顔じゃねえ! 美形にしろなんて贅沢言わねえから、せめてもっと上手く描け!」
「ええ、そっくりじゃないかあ」
どんより曇った重たい空の下でも、小林さんの部屋は普段と変わらず、やけにやかましく楽しげだったりする。
元神様と放浪作家のイビツな関係