「珍しいね、巽くんがこの時間に眼鏡って」
普段からお洒落な伊達眼鏡をかけている作家先生秋谷飛鳥は、ひょいと小林巽の顔を覗き込む。巽は大学生で、金茶の髪に緑と青のオッド・アイで、しかもつり上がり気味の三白眼で、傍から見ただけではちょっと怖い目をしている。
ただ、その鋭い目も今日は黒縁眼鏡の下。
「……ああ、見えが悪くて。目がかすむんだよ」
「いつもみたいにコンタクトじゃ駄目なんだ?」
「今日は特に調子悪いから、目を休ませるためにも眼鏡」
巽は疲れた表情で目を窓の外に向ける。窓の外には今にも泣き出しそうな、重い雲。何故か、巽は極端に低気圧の接近に弱いのだ。
「天気に左右される人っているよな。深沢くんもそうだったっけ」
「何が駄目なんだろうなあ、天気悪いと、気分も悪くなるし」
「今日がバイト休みでよかったね」
「なー」
巽は読んでいた漫画雑誌を放り出した。どうにも頭が重く、読んでいるのも億劫になっていたのだ。
全く、梅雨時は嫌いだ。
早く夏になればいいのに、と巽は恨めしそうに窓の外を睨んだ。眼鏡越しだったから、その眼力が何処まで通じるのかは怪しいところだったが。
元神様と放浪作家のイビツな関係