元神様と放浪作家のイビツな関係

22:お茶vsコーヒー

 外見見る限り国籍不明の日本人大学生、小林巽はコーヒー派だ。ブラックが好き。甘いのは邪道だと思い込んでいるような節があり、とにかく苦いコーヒーが大好きだ。
 だが。
「コーヒーなんて邪道だ!」
「はいはい」
「午後の気だるい時間には紅茶と決まってるんだ!」
「はいはい」
 わーわー喚いているのは、今日も今日とて巽の部屋に居座っている中年作家先生、秋谷飛鳥だった。
「巽くん、聞いてるのか!」
「聞いてねえよ」
「聞けよ!」
 大体、いつもこんな調子なのだから巽も相手をするのが面倒なのだ。巽がコーヒーを淹れているのを見ると怒るし、だからといって適当に淹れた紅茶をちびちび飲んでいれば「君にはこだわりってものがないのか」と紅茶について長々とレクチュアされるし。
 この飛鳥とかいう男、ごっつい外見に似合わず、紅茶には半端なくうるさいのだ。
 というわけで。
 この日は、ついに折衷案を採ることにした。
 巽は、ちゃぶ台の上に盆を置く。
 盆の上に載っていたのは、二つの湯呑み。もちろん中身は、
 
 緑茶。
 
「ほら、俺ら日本人だしな」
「そうだね」
 珍しく、穏やかな午後になった。