「ハッピバースデイ、俺ぇー」
「……バカかお前は」
決して歌は下手ではないはずの作家先生、秋谷飛鳥はわざわざ調子の外れた声で奇妙な歌を歌っていた。それを聞いていた金茶の髪の青年、小林巽はあからさまに嫌な顔をする。
「自分で主張するんじゃねえっての。俺様が恥ずかしい。ついでに」
ぎっと巽は緑と青のオッド・アイで飛鳥を睨んだ。
「お前、四十の大台突入だぞ」
「うわっ、それ実は嫌かも」
気づいてなかったのかよ。
巽は思い切り落ち込む飛鳥を見て、深々と溜息をついてしまった。しかし、飛鳥はものすごく立ち直りも早い。即座に顔を上げると、きらきらと目を輝かせながら……と言っても四十路ジャストのオッサンにそのような目をされても嬉しくもなんともない……巽に向かって手を差し伸べた。
「何だよ」
「バースデイ・プレゼント」
「ほれ」
巽はぽん、と飛鳥の手の上に何かを載せた。本当に何かをもらえるとは思っていなかった飛鳥は、呆然と巽を見て、それから手の上に目を移した。
そこにあったのは、小さな鉢植えに植えられた、小さなサボテン。
「……サボテン?」
何となく複雑な目で巽を見る飛鳥だったが、巽はクソ真面目な顔で言った。
「いいか飛鳥、サボテンをなめちゃあいけねえぞ。サボテンはそんな武骨なナリをしているが、真剣に育てれば、心を芽生えさせることができる。いわば心の卵だ」
「こ、心?」
「そう、サボテンは人の言葉を理解する。また人の心を理解する特殊な能力もある。だから、手前はきちんと毎日毎日、こいつに話しかけてやらにゃならん。そしてこいつがぐれないように、きちんと教育してやらにゃならん。お前の心がけが、そのままこいつに反映されるわけだ」
「え? え?」
「本当にサボテンを育てるとなったら、実際には人間より大変ってえことよ。だが、お前ならきっとやってくれると信じてる。お前は優しい奴だ。だから、俺様はお前の四十の誕生日にこいつを託す。きちんと育ててやってくれよ?」
一気にまくし立てられて、飛鳥は目を丸くして巽を見ていたが、巽の目があまりに真剣なものだから、こくこくと頷いてしまった。
「う、うん、わかったよ。巽くんの分まで、しっかりこのサボテンを育て上げてみせるから!」
――そうやってサボテンに気を取られていれば、俺の部屋に上がりこんでいる時間も減るだろう。
巽が本気でそう考えていることなど、つゆ知らず。
元神様と放浪作家のイビツな関係