元神様と放浪作家のイビツな関係

19:真実

 苦学生、小林巽は商店街の本屋でアルバイトをしている。やはり金茶の髪と緑と青のオッド・アイは目立つのだろう、商店街のおばさんたちには完全に顔を覚えられ、今ではお調子者で人懐こい性格もあいまってかちょっとした人気者だ。
 人気になるのならば可愛い女の子の間で人気になればいいと思うのだが、残念ながら巽は外人顔の割に美形とは程遠い上、性格がこれだ。「面白い」という意味での人気はあるかもしれないがそれは巽が望むような人気とは程遠い。
 そんなわけで、巽は今日もかしましいおばさんに囲まれながら本を店頭に並べていたのだが。
 ふと、目に入ってしまったのは一冊の小説。
「……うわぁ」
 思わず、嫌な声が漏れた。誰にも聞かれなかったことが救いか。
 小説の何が「うわぁ」なのかといえば、もちろんその筆者だ。
 秋谷飛鳥。
 ものっそい聞き覚えのあるというかほとんど毎日自分の部屋で顔を合わせている、不法侵入ばっちこーいの情緒不安定な作家先生。ちなみにこれが本名で、ペンネームは使わないのが彼の主義。何故かは巽も知らない。
 作家、秋谷飛鳥は主にSF、ファンタジー作家として知られている。例えば改造されて超能力を身につけた男の物語やら、夢を旅した少女の物語やら、神隠しをめぐる物語やら、少々ぶっ飛んだ話が多いのが特徴だ。
 売れているのかいないのか、本屋で働いているはずの巽も未だに把握できていないのだが、どうやらコアなファンはいるらしく、一時期は追い回されたりもしたとか。有名人は大変だ、と遠目で生暖かく見守っていたことはそう昔の話ではなかったはずだが。
 さて、この本はおそらく新刊なのだろう、巽は手にとって本を見た。シンプルなデザインで、帯には「待望の『異能府』シリーズ最新刊!」とか書かれている。そういえば担当から逃げ回りながら新作一年以上出していなかったかあの男、とか嫌なことを思い出した。
 巽の家がシェルターになっていた、という事実は見て見ぬふりをしておく。
 ともあれ、巽は本を並べながら苦笑する。
 飛鳥の物語はぶっ飛んだ「作り話」……フィクションとして知られているけれど。
 ――そのほとんどが実話だと知ったら、読者は何て言うんだろうな。