元神様と放浪作家のイビツな関係

17:愛煙家と嫌煙家の愛のある会話

 作家先生、秋谷飛鳥は普段どおり哀れな貧乏大学生小林巽の部屋に上がりこみ、冷蔵庫から拝借した焼きそばの残りをちょうど食べ終わったところだった。巽が苦情を言っているようだが、右から入って左に抜ける。
 ふと、飛鳥は懐から煙草の箱を取り出して、巽に示す。
「煙草吸ってもいい?」
「吸うんだったら離れて吸えよ。あとわかってると思うけど灰皿はねえから」
「はいはい」
 もそもそと飛鳥はちゃぶ台の前から窓の側に移動する。巽は飛鳥に背を向けて、ただでさえ中身の少ない冷蔵庫が飛鳥にすっかり荒らされていることを確認し、わかりやすく落ち込んでいる。
 煙草に火をつけ、携帯用灰皿を取り出しながら飛鳥は苦笑する。
「巽くん、嫌煙家だよね実は」
「昔、肺が悪くてさ。今は健康だけど未だにどうも苦手なんだよ」
 巽は飛鳥に背を向けたまま、言った。飛鳥は煙を一つ吐き出して、「意外だね」と呟く。
「そんな風には見えないな」
「今は健康だって言ってんだろ? あと、普通に体に悪いじゃねえか、煙草。静さんに聞いたぞ、本当はお前、医者に煙草止められてんだろ?」
 ふう、と。
 飛鳥は煙と共に溜息を吐き出す。
「実はね。薬飲んでるのに、煙草は良くないってさ。でもほら、俺にとってはこれも精神安定剤みたいなもんだから」
「んなこと言って、身体壊しても知らねえからな」
「ははっ、優しいんだな、巽くんは」
「冗談。俺様はただ」
 巽は、ぱたんと冷蔵庫を閉じて、静かに言った。
「あんなキツい思い、アンタにしてもらいたくないって思ってるだけだ」
 一瞬、飛鳥は眼鏡の下の目を見開いて……それから、苦笑を浮かべてまだ半分以上残っている煙草を灰皿に落とす。
 煙が流れ、窓の外に消えていく。
「それが、優しいっていうんだよ、巽くん」