「ぎゃーっ!」
ボロアパートに住まう貧乏学生、小林巽は、ある日生ゴミ入れの中身を見て、叫んだ。
ゴミ箱の中でこちらを睨んでいたのは、鴨の、頭。
頭だけ。
「なっ、か、かもっ! かもっ?」
「ああ、それね」
今日も今日とて小林家に侵入していた暇人作家先生、秋谷飛鳥は、うろたえている巽に向かって当たり前のように笑いかけた。
「今日、捕まえてきたんだ。キッチンで捌いて肉は冷蔵庫の中に入れておいたよ」
「捕まえて……って」
そうだ。すっかり忘れていた。
この作家先生、サバイバルナイフ一本で富士の樹海を生き延びる、生粋の狩人なのだ。「森が俺を呼んでいる」って言い置いて突然山奥に旅立ってしまうような、むちゃくちゃな奴なのだ。
鴨の一羽や二羽、捕まえて捌くのなんてわけない話であって。
「いやあ、いつも巽くんにご馳走になってるのも悪いでしょう? だから、今日は差し入れをと思って。鮮度が命だから早めに料理して食べてね」
とてもいいことをした、という顔をして、飛鳥は笑う。
だが、巽はすっかり血なまぐさくなってしまったキッチンを見て、引きつった笑顔を浮かべることしかできなかった。
元神様と放浪作家のイビツな関係