元神様と放浪作家のイビツな関係

15:昨日と今日

『すみません、今日は西暦何年何月何日ですか?』
 突然、変なことを聞く奴もいたものだ。しかも、やけに流暢な英語で。
 バイト帰りだった外見だけは外国人な大学生、小林巽はそちらを向いて、よどみなく答えてやった。
「今日は二〇〇六年十一月十六日だけど? アンタ俺のこと馬鹿にしてる?」
 日本語で。
「え、あ、に、にほんごっ? うあ、申し訳ないです」
 どうやら相手も日本語はわかるらしい。一瞬、誰かさんを思い出すような奇妙な戸惑いぷりを見せながらも、ぺこりと頭を下げた。
「人は外見で判断しないこと。で、どうしてアンタ、そんなこと聞いてんだよ初対面の相手に」
「いや、その、ちょっと……」
 顔を上げた相手はあからさまに口ごもる。
 だが、巽はその相手に微妙な見覚えがあった。
 年齢は巽と同じくらいだろう。日本人にしては薄い色の髪に、明るいブラウンの瞳。多少日本人離れした精悍な顔立ちは、美形、と断言しても全く差支えがないだろう。外人面の癖に美形とはかけ離れた顔立ちをしている巽にとっては羨ましい限りである。
 で。
 巽は、三白眼気味の目を細め、声を低くした。
「……もしかして、さ」
「何ですか?」
 きょとんとした表情で、相手は首を傾げる。
 多分、言ったら後悔する。巽は思いながらも、言わずにはいられなかった。
「アンタ、もしかして『赤川さん』とか言わない?」
「え、何で俺の名前」
「わー! 俺何も聞いてないからな! 忘れろ!」
「あの、ちょっと!」
 相手が呼び止めるのにも構わず、巽はその場を走り去った。
 まずいものを見てしまった、と思いつつ。
 
 翌日。
 
「この手帳によれば、二〇〇六年、十一月、十六日」
「昨日だな」
「俺、会ってたよな、君に」
「否定します」
「どう考えても君だろ、キンパツでオッド・アイで俺の苗字知ってたもん!」
「嫌だ、認めたくない!」
 
 
 社会不適合者の作家先生、秋谷飛鳥……旧姓は「赤川」……がかつてタイムスリップ体質だったと主張するのは、今に始まったことではないが。
 巽は「昨日」、その若かりし日の彼と出会ってしまったことにただただ頭を抱えるしかなかった。