チャイムが鳴る。
挙動不審な作家先生、秋谷飛鳥は小学校の校門の前でそわそわしながら俯いていた。それだけで不審者として捕まってもいいくらいだが、これはいつものことなので、教師たちもさすがに咎めたりはしない。子供たちが不思議な顔をして飛鳥の前を通り過ぎるくらいだ。
半ば「人間」恐怖症に近い対人恐怖症である飛鳥にとっては苦痛としか思えない人の波が途切れたところで、聞きなれた、飛鳥が待ち望んでいた声が聞こえてきた。
「パパ」
飛鳥はぱっと顔を上げて、強張っていた表情を崩す。
「おかえり、由佳。理佳はまだかな?」
「理佳は今日日直なの。美佳はまだ来ないの?」
「うん、美佳もまだみたいだね」
そこにいたのは賢そうな明るい色の目をした女の子。飛鳥の娘、由佳だった。ちなみに、由佳は長女で、双子の妹が理佳。二つ離れた三女美佳と、実は意外と子沢山だったりする。
「パパ、今日はお仕事平気なの? 『しめきり』があるんじゃなかったの?」
「ん、だ、大丈夫だよ」
実際には全然大丈夫ではないのだが、娘の前では精一杯強がる父親。しかし。
「本当はそんなことないんだよね、パパ。昨日、電話で加藤さんがね、『パパが大丈夫って言ってても実際にはそんなことありませんから』って言ってたよ」
加藤、というのは飛鳥の担当編集者の名前である。
「うぐっ」
「ダメだよ、パパ。きちんとお仕事しなきゃいけないって、ママもいつも言ってるでしょ」
「はぁい……」
作家先生秋谷飛鳥、もうすぐ四十歳。
娘にまで説教される、お年頃。
元神様と放浪作家のイビツな関係