夕焼けの光が差し込む教室の中に響く、秒針の音と、鉛筆の走る音。
小林巽はそれらの音を聞くともなく聞きながら、目を天井近くに走らせていた。
今日は大学の物理学……巽は理学部物理学科に所属している……の筆記試験で。
巽は自称天才で、実際に天才だった。
普段のラフな言動からは想像できないほど整った文字がびっしりと並べられた、何処か病的なものすら感じさせる答案用紙を肘の下に置いて、退出可能時刻が来るのを待っている。
昔から、これはずっと変わらない。
その頭の回転を羨ましがる人間より、嫌味だと非難する人間の方がよっぽど多いのは世の常だが。
そういう中でも楽しく笑いながら、摩擦少なくやっていけるくらいには器用になったつもりだと思い、巽は手にしたままだった鉛筆をくるりと回した。
昔の自分は、明らかに不器用すぎたと苦笑しつつ。
そうしたら、教官に「へらへらするな」と怒られた。
元神様と放浪作家のイビツな関係