元神様と放浪作家のイビツな関係

10:雪

「こっちは雪が少ないんだよね」
 神出鬼没の作家先生、秋谷飛鳥はちらちらと雪が降り始めた、やけに綺麗に磨かれた窓の外を見つめていた。家主である、キンパツヘキガン(というか緑と青のオッド・アイなのだが)の大学生、小林巽は「そうだな」と相づちを打つ。
「俺様が昔いた場所も、南国だったから妙に雪多かったし」
「南国?」
 南国に雪は降らないだろう、という飛鳥の当然の驚きに、巽はひらひらと手を振ってあっさりと言った。
「南半球だったの」
 なるほど。南半球なら確かに南の方が寒いに決まっている。ただし、巽の出身が不明なのは今に始まったことではない。
 何しろこの男、自称「異世界からやってきた元神様」なのだから。基本的に誰も信じてはいないが、飛鳥は結構真面目に信じていたりする。
「飛鳥はロンドンだっけ?」
「そうそう」
 この作家先生、実はイギリス人とのハーフで、小さい頃はイギリスに住んでいたという。基本的に誰も信じてはいないが、巽は流石にそれが本当であることを知っている。
「あっちは寒かったなあ。うん」
「こっちはまだあったかいよな」
「でも、家の中は寒いよ」
「ほっとけ、お前みたいな似非富豪と一緒にするな。ってか文句言うなら来るな」
 相変わらず隙間風の吹き込む安アパートで、ちらつく雪を見ながら二人の男が肩を寄せ合っている姿は何処か笑いと涙を誘っていたり、いなかったり。