金茶の髪にオッド・アイの苦学生、小林巽の趣味はガーデニングだ。巽の部屋の小さなベランダには、常に季節の花が咲き乱れている。今は、ちょうどはらはらと春の花が散り、夏の花の蕾が膨らみ始めるころだった。
「じじ臭いって言われない?」
「うっさいよ飛鳥」
今日も今日とて巽の部屋に入り込んでいた、自称・売れっ子作家先生秋谷飛鳥は茶化しながらもじっと土仕事を続ける巽の手元を見つめていた。
「そういえばさあ、巽くん」
「何だよ」
「俺、この前買い物に出かけた時に、巽くんを見たんだよな」
実は飛鳥はものすごい対人恐怖症なのだが、その割には買出しなどに出かけることが多い。何でも、妻(一応飛鳥は妻子持ちの四十路前である)が仕事に忙しくて、ほとんど飛鳥が主夫のような状態になっているとか。
なら何故この男は常にここで油を売っているのだろうか、という疑問が巽の頭を掠めるが、ひとまず問うても無駄そうなので諦めることにした。
「何処で?」
「花屋」
巽はどきり、とする。
「……そりゃあ、花屋にはよく行くよ。苗買ったりするしな」
「本当に、それだけなのかなー?」
飛鳥はにやにやと伊達眼鏡の下の目を細めて笑う。
まずい。
巽の脳裏に、最悪の事態が思い描かれる。飛鳥は対人恐怖症の割に……いや、それゆえなのかもしれないが、人を見る目は確かだし、相手の挙動を見破るのは大の得意だったりする。
案の定、飛鳥は巽が一番言ってほしくないと思っていた言葉を口にした。
「隠したって無駄無駄。巽くん、花屋のお姉さんに惚れてるんでしょ?」
「ぐっ」
図星。巽は飛鳥が言うに任せるしかなくなってしまった。
「確かに可愛い子だよな。目が猫っぽくて、ちょっぴりくせっ毛で……それと、意外だったんだけどさ」
飛鳥はぐっと顔を巽に近づけて、ぼそりと囁いた。
「巽くん、巨乳が好きだったんだね」
ひとまず、にっこり笑ってぶん殴っておくことにした。
元神様と放浪作家のイビツな関係