元神様と放浪作家のイビツな関係

07:陽光

 朝。
 東に昇った太陽の光が、薄いカーテン越しに外人面の貧乏学生、小林巽が眠る布団の上に降り注ぐ。
「ん、んん……」
 巽は寝返りを打とうとして……急に、覚醒した。
 ばっと薄っぺらい布団から脱出し、それから恐る恐る布団の中を覗く。
 そして、叫んだ。
「あーすかー!」
「うあっ」
 あまりの大声に驚いたのかびくり、と布団の中にいたそれが体を震わせて、ゆっくりと目を開いた。
「あ、巽くん」
「 『あ、巽くん』じゃねえ! 何で手前が俺様の布団の中で寝てんだこらー!」
「え、いや、ほら眠くてさあ、でも家にいると担当さんに見つかるし」
 それは、一人のオッサンだった。
 ぼさぼさの茶色の髪に、同じ色の無精髭を生やしたやけにガタイのいいオッサンだった。
 そして、巽はこのオッサンを嫌ってほどよく知っていた。
「そろそろ不法侵入で警察に突き出してやろうか、秋谷センセイ」
「それは勘弁して欲しいなあ」
 秋谷飛鳥。巽を一方的に「親友」と称する男であり、一応売れっ子の作家なのだという。実際にどうなのか、巽は知らないし知りたくもない。
 ただ一つはっきりとわかっているのは、この飛鳥という男が不思議な特性を持っているということだけだ。
「どうやって入った! 鍵はかかってただろ!」
「うん、窓も閉まってた。巽くんって意外と几帳面だよな」
「そういう問題か! 手前、今日という今日は……」
 巽が飛鳥の襟首をつかんで持ち上げたその時、部屋のドアが激しくノックされた。はっとして巽がドアの方に顔を向けると、ダミ声が響いた。
「小林さん、朝っぱらからうるさいんだよ! 隣の部屋から苦情が来てるよ!」
「す、すみません大家さーん!」
 苦学生が暮らす安アパートに防音設備など望めるはずもなく。
 巽が大家のおばさんにぺこぺこと頭を下げている間に、迷惑な作家先生の姿が忽然と消えていたのも、またいつも通りのことだったりするのだが。