元神様と放浪作家のイビツな関係

06:みち

「すみません、ちょっと道をうかがいたいんですけど」
「あ、う、うあっ」
「?」
「ご、ごごごごごめんなさい、その、あの」
「あ、い、いえ、突然すみませんでした。では」
「ああっ、ちょ、ちょっ、まっ」
 飛鳥は慌てて呼び止めようとするが、道を尋ねてきた女性はそのまま早足で歩き去ってしまった。逃げるように。
 結局、飛鳥が伸ばした手も虚しく空を切るだけだった。
 作家先生、秋谷飛鳥は典型的な対人恐怖症だ。
 仲の良い人間に対してならばこうはならないのに、どうも初対面の相手やよく知らない相手と会話しようとすると、思ったように声が出ない。
 それってつまりは人間不信だよな、とあっさり言ったのは友人の小林巽だ。昔、人から酷いことされて、それが他人に対する壁になってるんじゃねえか、といつもどおりの口調で言っていた。
 否定できないのが、悲しい。
 がくりと肩を落とし、とぼとぼと歩いていると、ふと見知った顔が目に入った。
 そう、小林巽だ。
 アルバイト帰りなのだろう巽は飛鳥の知らない外国人の男たちに囲まれ、何かを話しているようだった。何を話しているのだろうと恐る恐る近づけば、先ほどの飛鳥と同じように道を尋ねられていることがわかった。ただし、英語で。
 しばらくすると、巽は笑顔で手を振り、道を尋ねてきた男たちと別れた。そして、初めて飛鳥の存在に気づいた。
「何だ、飛鳥がこんな時間に外うろついてるの、珍しいじゃん」
 間違いなく飛鳥より年下の巽だが、巽は普段誰に対しても敬語を使わない。流石に時と場合によってはきちんとした喋り方も出来るらしいのだが。
「道、聞かれてたの?」
「ああ、そうそう。やんなっちゃうぜ」
 巽はへらへらと笑いながら言った。
「俺様、どうも外人にばっかり道聞かれるんだよね。何でだろ」
 まさか、気づいてないのか。
 飛鳥は思わず笑ってしまった。
 金茶髪に青と緑のオッド・アイを持つ、どこからどう見ても日本人には見えない巽を前にして。