Twitter300字SS「選ぶ」第六十九回「選ぶ」2020年10月3日 家の近所のお手ごろ価格の洋菓子屋さんを覗いて、すずめは腕に巻きついたぬいぐるみ……、のように見える魔法つかい、ウェールにそっと問いかける。「ウェール、どれがいい?」 ウェールは羽のような形の耳を広げ、大きな目ですずめを見上げて言う。「生クリームとカスタードのシュークリームがいいな」「たまにはエクレアも食べたいけど」「僕はシュークリームがいい」「ほら、プリンもあるよ。生クリームも乗ってるし、大体おんなじじゃない?」「シュークリーム」「強情だなあ……」 とはいえ、ウェールがシュークリームを選ぶのはわかりきっていたから、今日もすずめはなけなしのお小遣いを崩して二つの味わいのシュークリームを買い求める。――『今日のおやつは』 椎名すずめが悪い魔法つかいを追う魔法つかいイリス・アルクスになったのは、単なる偶然。空から落ちてきた魔法つかい、ウェールを拾ったから。あれよという間に魔法が関わる事件に巻き込まれて、なし崩し的にウェールの手伝いをすることになったのだ。「でも、本当にあたしでよかったの? もっと才能があるひととかいたりしないのかな」「それは、いると思うよ」 ウェールはいつだって正直だ。しかし、「なら」と言いかけたすずめをさえぎって、ウェールはこう続けるのだ。「けれど、僕はすずめを選んだことを後悔していないよ。悪い魔法つかいを捕まえるのに必要なのは、魔法の才能よりも、目の前の事件をほっとけないっていう気持ちだからね」――『魔法つかいの才能』続きを読む 畳む#[Twitter300字SS] 2022.6.2(Thu) 10:48:38 300字SS edit
第六十九回「選ぶ」2020年10月3日
家の近所のお手ごろ価格の洋菓子屋さんを覗いて、すずめは腕に巻きついたぬいぐるみ……、のように見える魔法つかい、ウェールにそっと問いかける。
「ウェール、どれがいい?」
ウェールは羽のような形の耳を広げ、大きな目ですずめを見上げて言う。
「生クリームとカスタードのシュークリームがいいな」
「たまにはエクレアも食べたいけど」
「僕はシュークリームがいい」
「ほら、プリンもあるよ。生クリームも乗ってるし、大体おんなじじゃない?」
「シュークリーム」
「強情だなあ……」
とはいえ、ウェールがシュークリームを選ぶのはわかりきっていたから、今日もすずめはなけなしのお小遣いを崩して二つの味わいのシュークリームを買い求める。
――『今日のおやつは』
椎名すずめが悪い魔法つかいを追う魔法つかいイリス・アルクスになったのは、単なる偶然。空から落ちてきた魔法つかい、ウェールを拾ったから。あれよという間に魔法が関わる事件に巻き込まれて、なし崩し的にウェールの手伝いをすることになったのだ。
「でも、本当にあたしでよかったの? もっと才能があるひととかいたりしないのかな」
「それは、いると思うよ」
ウェールはいつだって正直だ。しかし、「なら」と言いかけたすずめをさえぎって、ウェールはこう続けるのだ。
「けれど、僕はすずめを選んだことを後悔していないよ。悪い魔法つかいを捕まえるのに必要なのは、魔法の才能よりも、目の前の事件をほっとけないっていう気持ちだからね」
――『魔法つかいの才能』
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