Twitter300字SS「橋」 第六十六回「橋」2020年7月4日 灯を篭めたランタンを片手に、彼らは橋を渡っていく。ひとり、またひとりと霧の中に消えていく影を追って、彼もまた足を踏み出した、その時。「お前はここまでだ」 耳慣れた、穏やかな声と共に誰かが目の前に立ちはだかる。霧に隠れているにもかかわらず、何故か、困ったように笑っているとわかる。 何故を問うても応えはなく、そのまま誰かもまた橋を渡ろうとする。「待って、」 声を上げかけて、気づく。彼は橋の上で一人きりで佇んでいた。一歩先は腐り崩れ落ちていて、もし足を踏み出していたら、虚空に身を投げ出していただろう。 けれど。けれど。「オレも、みんなと一緒に、いきたかった」 霧深い夜。ただ一人遺されたものの嗚咽が、響く。――『灯花祭の夜』#[Twitter300字SS] 2022.6.2(Thu) 10:44:25 300字SS edit
第六十六回「橋」2020年7月4日
灯を篭めたランタンを片手に、彼らは橋を渡っていく。ひとり、またひとりと霧の中に消えていく影を追って、彼もまた足を踏み出した、その時。
「お前はここまでだ」
耳慣れた、穏やかな声と共に誰かが目の前に立ちはだかる。霧に隠れているにもかかわらず、何故か、困ったように笑っているとわかる。
何故を問うても応えはなく、そのまま誰かもまた橋を渡ろうとする。
「待って、」
声を上げかけて、気づく。彼は橋の上で一人きりで佇んでいた。一歩先は腐り崩れ落ちていて、もし足を踏み出していたら、虚空に身を投げ出していただろう。
けれど。けれど。
「オレも、みんなと一緒に、いきたかった」
霧深い夜。ただ一人遺されたものの嗚咽が、響く。
――『灯花祭の夜』
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