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幸福偏執雑記帳
幸福偏執雑記帳

幸福偏執雑記帳

以降更新はindexで行います

No.50, No.49, No.48, No.47, No.46, No.45, No.447件]


●番外編:やつぐもグルメ

▼熱に弱い

 酷く暑い朝。対策室の扉を開いた八束は、硬直した。
「おはよー、八束」
 ソファの上に巨大スライムが鎮座し、しかも相棒の南雲の声で喋ったから。
「どうしたんですか!」
「暑くて溶けた」
「治るんですかそれ」
「うん。冷凍庫のアイス取って」
 慌てて青いアイスを取り出し、スライムに渡す。
「あと、どうすればいいですか?」
 もしゃり。見えない口で確かにアイスを咀嚼したスライムは、重々しく言った。
「かき氷食べたい」
「それで、元に戻るんですか?」
「溶けたら冷やして固めるものだよ。あ、スイカバーも食べたいなー」
 
 
「……という夢を見ました」
「夢でもぶれないねえ、俺」
 南雲は、八束が夢の中でも見た、ソーダ味のアイスをもぐもぐしていた。
 
 
 
 
▼南雲臨時講師

 南雲せんせい、と声をかけてきたのは、八束も何度か世話になっている、職員の女性だった。
 八束の横で眠そうにしていた南雲が、重たげに頭を上げる。
「あー、高橋ちゃん」
「教室再開してくださいよ、みんな待ってるんですよ!」
「最近サボっちゃってたもんな。そろそろまたやる、って皆に伝えといて」
 高橋は、俄然顔を輝かせて頷き、小走りに駆けていく。
 その背中が見えなくなるまで見送った後、とりあえず、最大の疑問を南雲に投げかける。
「教室、って何ですか?」
 
「一人暮らしの味方、安くて早くておいしい手作り弁当教室。毎週水曜昼休み開講、受講料はお菓子一つ」
 
「……南雲さん、刑事より絶対そっちの方が向いてる気がします」
「知ってた」
 
 
 
 
▼やつづかのお願い

「南雲さん、お願いがあります」
「仕事以外のお願いなら」
「仕事してください」
 いつも通りのやり取りの後、八束は持っていたチラシを渡してきた。南雲は、分厚い眼鏡の位置を直し、普段から細い目をさらに細める。
「うちの近くのスーパーか。これがどうしたの?」
「こちらを見てください」
 八束は、チラシの隅の一点を指す。
 
 カロリーメイト、五個セット安売り。
 おひとり様一セット限定。
 
「……つまり、お前の買い出しに付き合えと」
「はいっ!」
 八束の主食はカロリーメイトであり、副食はサプリメントである。
 南雲は、そんな食生活の何が楽しいのだろうと思いながらも、期待に満ちた目で見つめる八束の頭を撫でた。
「しょうがないなー、八束は」
 
 
 
 
▼君とシュークリーム

 ソファに腰掛けた八束は、シュークリームを手に取る。
 
 南雲行きつけの洋菓子屋『時計うさぎ』のシュークリームは、表面さくさく内側しっとりのシュー皮に、微かに洋酒が香るカスタードクリームがたっぷり詰まった、特別な味わいだ。
 大きめのそれに、口を広げて食らいつく。
 クリームが漏れないように気をつけていても、なかなか上手く食べられない。
 隣の南雲は慣れたもので、ぺろりと一つ平らげたかと思うと、二つ目に手を伸ばしていた。
 そして。
「クリーム、ついてるよ」
 人差し指で、八束の唇の端をなぞる。
 冷たい感触に一瞬瞑った目を開けると、南雲が、指先のクリームをぺろりと舐め取ったところだった。
「おいしいね」
「はい、おいしいです」
 
 
 
 
▼豊かな人生の第一歩

「今日から、八束食生活改善プログラムを開始しようと思う」
「本当に、いただいていいんですか、南雲さん」
「毎朝家族の分も作ってるからな。一つ増えたところで変わらないよ」
 言いながら、正面の席に座った南雲は「どうぞ」と八束に弁当箱を差し出す。蓋に描かれたピンクのクマさんは、南雲の趣味以外の何物でもないだろう。
 かねてから八束の「必要な栄養を取る」だけの食生活に対し「食事は単なる栄養摂取手段ではなく、人生を豊かにするものだ!」と柄にもなくエクスクラメーションマークつきで力説していた南雲が、ついに八束の食生活改善に乗り出したのだ。
 その第一歩が、昼食の提供である。
 恐る恐る、弁当箱の蓋を開けてみると、目に飛び込んできたのは、色とりどりのおかずに、かわいらしく飾られたおにぎり。しかも、目を楽しませるだけでなく、八束がざっと脳内ではじき出した計算が正しければ、栄養のバランスもよく考えられている。八束を納得させるポイントをきっちり抑えてくる辺りは流石である。
 ほう、と。息を漏らし、自分の弁当の蓋を開ける南雲に視線を戻す。
「南雲さんって、本当に器用ですよね」
「そんなことないよ。八束みたいに、何でもかんでも見よう見まねでできちゃうわけじゃない」
「それでも、好きなことや大切なことを形にして共有できるというのは、わたしにはない、南雲さんの才能だと思います」
 南雲は、一瞬眼鏡の下で目を見張って、それからふいと視線を逸らした。
 もしかして、また変なことを言ってしまっただろうか。ひやひやしていると、そっぽを向いたままの南雲が、ぽつりと言った。
「ありがと」
 ……どうやら、怒らせたわけでは、なかったらしい。
 内心ほっとしながら、手を合わせる。南雲も八束にならうようにして、両の掌を合わせて。
 
『いただきます』
 
 
 
 
▼もう一度、彼に

「シュークリームを六つください」
 
 声をかけてきたのは、洋菓子屋には似合わない、スキンヘッドにスーツ姿の無愛想な男。
 しかし、店主にとっては見慣れた顔だ。
「最近、よく来てくださいますね」
 ん、と。仏頂面のまま、男が頷く。
「ここのお菓子を、気に入ってくれた子がいて」
「ありがとうございます」
 喜ばしいことだ。店主にとっても、男にとっても。
 店主は知っている。かつて、この男がある女性と笑い合っていたことも、その女性が消えて、男が心を殺したことも。
 だから。
「一つおまけしますよ」
「いいの?」
「ええ。ごちそうしてあげてください」
 まだ見ぬ誰かが、男のかつての笑顔を取り戻してくれることを祈り、シュークリームを詰めてゆく。 
畳む


#時計うさぎの不在証明

文章


●番外編:ふぁふろつきーず

「趣味とは、生命維持には必要のないものかもしれない。しかし、人間社会の中で生きる以上、『生きがい』というものがなければ、ただ息をしているのと何も変わらない。つまり、人間が人間らしく生きるに不可欠な要素であって」
 八束結は淡々とキーボードで何度目になるかもわからない文字列を入力しながら、ちらりと視線だけをディスプレイの向こう側に向ける。八束の、必要最低限のものしか置かれていない、殺風景な机とは対照的に、正面の机の上は極めてカラフルであった。テディベアをはじめとした、手作りのぬいぐるみによって。
「もちろん、人によって趣味はそれぞれなわけだが、俺は手芸を推す。無心に手を動かしていれば、やがて意味のある形が見えてくる――。ばらばらであった要素から、一つのものを作り出すという喜びがそこにある」
 そして、そのぬいぐるみに囲まれているのは、剃り跡すら見えないスキンヘッドに、細い体を隙なく覆う黒スーツ、という堅気からかけ離れた身なりの男であった。その眉間には深く皺が刻まれ、黒縁眼鏡の下の目は不気味な隈に縁取られており、どう贔屓目に見ても今まさに人を殺してきたような顔をしている。
 が、その鋭く抉るような視線は、あくまで、手元の編み棒に向けられているわけで。
「編み物も当然そのうちの一つだ。毛糸という一本の頼りなくすら見える線が、面となり立体となるこの瞬間、俺は言いようのない感動を覚える。今、ここに生きていると感じるのだ。わかるか? 八束」
 そう言って、男――待盾警察署刑事課神秘対策係主任、南雲彰は仏頂面をこちらに向けてきた。この男、表情筋が死んでいるのか何なのか、常に不機嫌そうな顔をしているが、本当に不機嫌であることはほぼ皆無と言っていい。
 もしかすると、今のも、本人の中ではとびっきりの決め顔だったのかもしれない。
 とはいえ、今は仕事中である。かたかたとキーボードを鳴らしながら、あくまで視線はディスプレイに。要するに、八束は無視を決め込んだ。
 場に、重苦しい沈黙が流れた。
 しかし、南雲が机に突っ伏して「あー」と力なく呻いたことで、その沈黙はあっけなく破られた。
「構ってよやつづかー。南雲さんは寂しいと死んじゃうんだぞー」
「最近、南雲さんの言葉の九割は意味がないことを学びましたから」
「八束も、随分俺の扱いに慣れたねえ」
 八束が放った呆れ交じりの言葉にも、南雲は全く動じなかった。つれない態度も予測済みだった、ということだろう。
 待盾警察署の片隅に位置する神秘対策室には、今日もけだるい空気が流れていた。仕事といえば事務手続きばかりで、しかも、その仕事のほとんどは南雲が「新入りなら雑務にも慣れていただかないと」とほざいて、堂々と八束に押し付けたものである。
 手の早い八束からすればそれすらも大した仕事量ではないのだが、それでも仕事を押し付けてきた張本人が横で仕事とは全く関係ない作業をしていると、流石にいらっと来る。
「そんなに生きがいを求めるなら、仕事しましょう、南雲さん。仕事も十分生きがいになりえます」
 その苛立ちを隠しもせずに言った、つもりだったのだが。南雲は意に介した様子もなく、つるりとした頭を机に載せたまま、器用に編み棒を動かし続ける。
「事務仕事とかめんどくさいじゃん。眠くなっちゃうよ」
「編み物も、十分眠くなれる案件だと思うのですが」
 どうも、南雲の中ではそれらは全く別であるらしく、眠そうに隈の浮いた目をしょぼしょぼさせながらも、熱心に編み物を続けている。
 八束が待盾警察署刑事課神秘対策係に配属されてから二ヶ月。遺憾ながら、これが当たり前の毎日になってしまっていた。
 恐ろしげな顔に似合わず手芸全般を趣味兼特技とするこの怪人は、仕事をほっぽり出して、日々新たな作品を生み出し続けている。ちなみに、作ったものは大概南雲の机を飾り、場合によっては八束や係長である綿貫栄太郎の机をも侵蝕しているが、時々数が減っているところを見るに、誰かに贈ったりもしているらしい。
 そんな、いてもいなくても仕事の進捗に関わらない主任を抱えて、八束が配属されるまで神秘対策係がかろうじて係として成立していたのは、ひとえに、大きな仕事がほとんど存在しないからだった。
 神秘対策係、通称「秘策」とは、待盾警察署独自の係であり、業務内容は「オカルトに属する事象に関する相談請負と解決」。魔法や妖怪、超能力といったオカルティックな現象が特別多い「特異点都市」待盾市において、人にも相談できない不可思議なものに悩まされる市民は、一定数存在する。そんな市民に手を差し伸べるのが、神秘対策係だ。
 無論、八束たちがオカルトを信じているわけではない。むしろ、その逆だ。待盾市の特異性を利用して、人知の及ばぬオカルトとして片付けられかけている事件。それらを、人の手による犯罪であると証明するのが、神秘対策係の本領である。
 とはいえ、そのトンデモ感とそもそもの知名度の低さから、神秘対策係の仕事は極めて少なかった。今、八束がパソコン上で処理している書類も、忙しくて書類仕事まで手が回らないという盗犯係の書類を代わりに捌いているだけで、神秘対策係本来の仕事ではない。
「やーつーづーかー、何か面白い話ないのー?」
「子供ですか! せめてちょっと黙っててください!」
 正直、この男が給料を貰っているのが理解できない。ついでに、公務員なのだから、それは市民の税金である。善良な市民がこの光景を見たら、十中八九この場にあるテディベアの首が全て飛ぶだろう。そして南雲がしくしく泣くだろう。想像するだけで鬱陶しい。
「ああ、そういえばさ、八束」
「何ですか? もう趣味と甘いものの話はなしですよ」
「仕事の話だよ。昨日、ファフロツキーズがあったんだって」
「ふぁふろ……、何です?」
 南雲は、一度編み棒を机の上に置き、机をカラフルに彩る要素の一つ、こんなところにあること自体奇妙な棒つき飴の卓上ディスプレイから、飴を一本引き抜きつつ言った。
「Fall from the skiesを略してFafrothskies。日本語では怪しい雨、って書いて『怪雨』。本来空から降ってくるはずのないものが降ってくる現象だな。八束は『マグノリア』って知らない?」
 マグノリア。まず頭に浮かんだのはその名を持つ花――木蓮だったが、文脈からすると、別のものを指しているのだろう。その音に引っかかるものをざっと脳内検索、南雲が意図しているだろうものを言葉にする。
「『マグノリア』って、映画ですよね? 見たことはありませんが、カエルがいっぱい降ってくるポスターは印象に残ってます」
「そ、ああいうのがファフロツキーズ。今日、綿貫さんはその相談を受けてるとか何とか」
「あ、だからいないんですね、係長」
 朝から対策室に綿貫係長の姿が見えなかったから不思議には思っていたのだが、おそらく、迷える市民の相談を受けているのだろう。相談役は、八束が配属される以前から、人当たりのよい綿貫が一手に引き受けている。
 係長に全て任せるのはどうかとも思うのだが、何しろ南雲は物腰はともかくこの見た目なので、相談に向かないどころの話じゃない。八束は一度だけ相談に立ち会わせてもらったが、その後一度も綿貫から声をかけられなくなった。つまり、そういうことである。
「それで、何が降ってくるんですか?」
「さあ。俺も詳しい話は聞いてない。一般的なのは、魚とかカエルみたいだけど」
 超常現象に「一般的」も何もないとは思うが。
 魚やカエルが空から降ってくるのを想像して、思わず苦いものを噛み潰した顔になってしまう八束に対し、南雲は棒つき飴をもぐもぐしながら、仏頂面のままぼんやりと虚空を眺めて言う。
「あー、でも、飴とかお菓子が落ちてくるなら、嬉しくなっちゃうなあ」
「いくら好きなものでも、空から落ちてきた得体の知れないものは食べたくないです」
「確かに、ものによっては口に合わないのもあるし、無差別はちょっと嫌だね」
「そうじゃありません」
 この男の頭は、甘いものと趣味でしかできていないのか。どうして曲がりなりにも刑事という肩書きを持っているのだろう、といつもながら不思議に思う。
「お菓子は横に置くとして、それって、どういう原因で起こるものなんですか? 流石に虚空から魚やカエルが生まれる、なんてことはないと思うんですが」
「諸説あるよ。一番有力な説は、竜巻とか上昇気流に乗せられたものが、上空を運ばれて降ってくるって話。でも、その現場を見た人はいないから、本当かどうかは謎」
 謎、というのは嫌な話だ。証明できないものは、否応なく八束を不安にさせる。この係の本来の目的は、オカルトを装うことで警察の手を逃れようとする者たちの犯罪を暴くことであって、本物のオカルトは八束の許容範囲を大幅に逸脱している。
 南雲も「流石にこういう出来事は、八束の手にも余るかもねえ」と、しかし緊張感もなくばりぼり飴を噛み砕きながら、編み棒を動かしている。自分で解決する気がさらさらない辺りが南雲の南雲たる所以である。
 と、その時、対策室の扉の向こうから、聞きなれた声がした。
「いやー、やれやれですよ」
 それと同時に扉が開き、係長の綿貫が入ってきた。どこか狐めいた細い目を更に細め、片手には紙袋を抱えている。開いた口から覗いているのは、八束も見覚えのある、最近発売されたチョコバーのパッケージ。
「係長、どうしたんですか、南雲さんじゃあるまいし」
 菓子イコール南雲、という認識の八束に苦笑を見せた綿貫は、南雲の机の上にどん、と紙袋を置く。南雲の机の上に、ものを置くようなスペースは存在しないので、何匹かのテディベアが下敷きになった。
「南雲くん、チョコ、お好きですよね」
「もちろん」
 即答である。
 綿貫は、そんな南雲の目の前で、紙袋をひっくり返す。すると、紙袋に詰まっていたチョコバーが机の上に溢れた。哀れぬいぐるみはチョコバーの海に溺れ――というか、チョコバーがぬいぐるみの海に沈んでいくようにも見えたが。
「これ、食っていいんすか」
 仏頂面ながら、眼鏡の下できらりと目を輝かせた南雲に、綿貫は何故か、少しだけ疲れたような顔で微笑みかける。
「ええ。どうぞ、八束くんも」
 そして、綿貫は袋の中に残った最後の一つのチョコバーを、八束に向かって無造作に放り投げる。少々慌てながらも無事チョコバーをキャッチした八束は、手元と綿貫を交互に見ながら、頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
 のそのそと奥の係長席についた綿貫を横目に、包装を剥いて一口。目の前の南雲は既に二本目に手をかけている。一本目をいつ食べたのか、八束は視認すらできていなかった。
 ともあれ、口の中に広がるのはチョコレートのほろ苦い甘さと、内側のさくさくとしたクランチの感触だ。独特の食感を確かめるように何度か咀嚼してから飲み込んで、最初に聞いておくべきだったことを、改めて問う。
「美味しいですけど、どうしたんですか、これ」
「ああ、降ってきました」
 こともなげに綿貫が言い放ったものだから、八束は、その言葉の意味を理解するのに、数秒を要した。
 ファフロツキーズ。本来空から降ってくるはずのないものが降ってくる現象。
「マジか、最高じゃん。現場どこっすか」
「南雲さん!」
 今までのゆるい態度が嘘であったかのように、素早く立ち上がる南雲。まさか本当に落ちてきた菓子まで食べるというのか。そこまで見境のない男なのか。いや、この男に常識が通用しないことくらい、八束も理解していたはずではなかったか。それはそれでどうかと思うが。
 すると、綿貫がくつくつ笑いながら言った。
「冗談ですよ、冗談。ただ、お菓子が降ってきたというのは事実なんですけどね」
「どういうこと、ですか?」
 さっぱり意味がわからない。ため息交じりに着席した南雲も、胡乱げな視線で綿貫に話の先を促す。
「昨日昼ごろ、菓子が降ってきたという報告があって、目撃者から話を聞いていたんですがね。先ほど、菓子の販売会社が訪ねてきまして、どうも新商品販促イベントとして、ヘリで上空から会場に撒くはずだったものを、誤ったポイントで少数撒いてしまったらしいということで」
 それが、風に乗る形でちょうど待盾に落下した、ということだったらしい。
 何ともあっけない解決に、八束も「は、はあ」と気の抜けた声を出すことしかできない。
「で、後始末は自分たちでやるとのことで、騒がせたお詫びとしてもらいました」
「なるほどー。得しましたね」
 南雲は三つ目のチョコバーの封を開けながら言う。だが、八束は渋い顔をせずにはいられない。
「……それ、収賄じゃないんですか、係長」
 けれど、綿貫はしれっとした顔で、人差し指を唇の前に立てる。
「ええ。そういうわけで、これは内密にお願いします」
 ――それでいいのだろうか。
 どうにも納得できない八束の目の前で、南雲は構わずもぐもぐチョコバーを食しているわけで。食べてしまったものを、返すわけにもいかない。難しい顔を続ける八束に対し、南雲はちらりと眼鏡の下から八束を見やり、ぽつりと言った。
「そんな怖い顔するなって。ばれなきゃ犯罪じゃないんだよ、八束」
「それ、警察官の発言として根本的に間違っていると思います!」
 八束のもっともな言葉に対し、南雲は大げさに耳を塞ぎ、綿貫はただ苦笑するだけで。
 八束は頬を膨らませながらも、食べかけのチョコバーを齧り取る。
 
 いくつもの不思議を抱える「特異点都市」待盾には、不思議の正体を暴く者がいる。
 それが、神秘対策係――通称「秘策」。
 ただ、彼らの毎日は、大概の場合、とことん怠惰で気だるいのであった。
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#時計うさぎの不在証明

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●番外編:はじめての風邪の日

「情けない……。風邪で寝込むなんて初めてです」
「いつも無駄に元気だもんねえ、八束」
 普段ならすかさず「無駄にとは失礼な」と言い返す八束結だが、今日ばかりはその元気すらないのか、畳に敷いた布団に横になったまま、申し訳なさそうに太い眉を下げた。
 そんな八束の熱い額に手を乗せ、南雲彰は濃い隈に縁取られた目を細める。八束の枕元には、差し入れとして持ってきた風邪薬の瓶が置かれている。
「ま、仕事も暇なんだ、たまにはゆっくり休みなよ」
 南雲の顔は仏頂面以外の表情を浮かべることはなかったが、いたわりの感情は八束にも伝わったらしい。八束は「すみません」と掠れた声で謝罪しながらも、小さく頷いた。
 それから、アーモンド型の目をくりくりさせて、南雲を見上げる。
「南雲さん、今日は休暇ではなかったと思いますが」
「俺が仕事をサボってるのはいつものことでしょ。俺がいなくても何も変わらないし」
 C県警待盾署刑事課神秘対策係は、多忙を極める刑事課に属しながら、主任の南雲が一日中編み物に励んでいても特に業務に差し支えはない、という怠惰極まりない係だ。何しろ、業務の九割は他の係が押し付けてくる事務手続きの手伝いだ。南雲がいなくても問題ない、というのはあながち誇張でもない。
 ただし、南雲がサボっている裏では、生真面目で仕事熱心な新人・八束が南雲の分まで仕事をしているわけで、八束はジト目で南雲を見上げる。
「お心遣いはありがたいですが、南雲さんは仕事をしてください」
 ――一人で寝込んでいるお前が気になって、仕事が手につかなかったんだよ。
 そんな本音は喉の奥に飲み込み、ただ肩を竦めて八束の冷たい視線を受け流す。
「それはそうと、八束、今日は何か食べた?」
 いくら鈍い八束でも、はぐらかされたのは理解したらしく頬を膨らませるが、質問には正直に答える。
「まだですが……」
「なら、何か作るよ。台所借りるね」
「えっ、流石に南雲さんにそこまでさせるわけにはっ」
 八束は反射的に起き上がりかけたものの、すぐにふらりとして、枕に頭を落としてしまう。南雲は八束の乱れた掛け布団を整えながら言い聞かせる。
「無理するんじゃないよ。熱で消耗してるだろうし、胃に何も入れないまま薬飲むのもよくない。大人しく任せときなさいって」
「南雲さんが、わたしに優しいなんて……」
「おい、俺が普段は優しくないみたいじゃない、それ」
 心外なんだけどー、と言いながらも、八束を観察するのは忘れない。熱は高そうだが意識ははっきりしている。まずはきちんと食事をさせて、薬を飲ませて様子を見てみようと考える。容態が悪化するようならすぐに医者に連絡しよう、と思いつつ。
 南雲にも、罪悪感がないわけではないのだ。八束は、どんな難題を前にしても、無尽蔵にも見える活力をもってことに当たっていた。その八束に寄りかかり、知らず無理をさせていたとも思うのだ。
 だから、今日くらいは自分がきっちり働くべきだ。八束の回復に尽力する、という形で。
「南雲さん、『さっさと治してもらって、仕事を押し付けよう』って思ってません?」
「思ってる」
 それはそれで、南雲の偽らざる本音ではある。
 怠慢な先輩に対するじっとりとした目つきを隠しもせず、八束はついと視線を台所に向ける。
「とにかく、食事は南雲さんのお手を借りずとも大丈夫です。棚の中に、いつものが入ってます。あと、水が冷蔵庫にあるので取っていただけますか?」
「……いつもの?」
 具体的に「何」と指定されていないのが気になりつつ、南雲は立ち上がると台所に向かう。八束が一人暮らしをしているアパート『湯上荘』は、今にも崩れそうなぼろい見かけの割に案外設備はしっかりしており、六畳一間に台所、トイレ、シャワーまでついている。その台所部分に置かれた棚の戸を無造作に引き、
 南雲は、絶句した。
 そこには、黄色い箱がいっぱいに詰まっていた。
 カロリーメイト。
 カロリーメイトだ。見間違えようもない。
 チーズ味、フルーツ味、チョコレート味という、コンビニでおなじみのラインナップが、八束の病的な几帳面さをもって整然と並べられている。それ以外のものは、何一つ確認できない。
 嫌な予感を感じながら、下の戸も開ける。
 そこに詰まっていたのは各種サプリメントの詰まった容器。カロリーメイトでは足らない成分を摂取するためのものだろう、と理性では判断しつつも、南雲はただでさえ普段から消えない眉間の皺が、更に深まったのを実感する。
 こう来ると、冷蔵庫の中身も想像はついてしまう。それでも、一縷の望みをかけて冷蔵庫の扉に手を掛けて、引く。
 そこには、ペットボトルに入ったミネラルウォーターのみ、十本ほど詰め込まれていた。あと、この状態で何の意味があるのかもわからない、脱臭剤が一つ。
 それを認識した南雲は、ついに膝をつき、頭を抱えて声を上げていた。
「うおああぁあぁ」
「な、南雲さん、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねえよ! これのどこが食事だ!」
 南雲は普段の飄々とした態度をかなぐり捨てて叫ぶ。八束は、声を荒げる南雲を初めて目にした戸惑いを隠しもせず、目を白黒させながらも自分の考えを伝えることは忘れない。
「必須栄養価を摂取するという行為として、最も効率的な方法だと思いますが」
「違う! そうじゃない! 単なる栄養摂取なら点滴でも何でもいい、経口摂取である必要すらねえ! 食事ってのはなあ、食欲を満たしながら、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚全てを駆使して快楽を味わう、人間という種に与えられた至高の時間だ、それをおろそかにする奴は誰が許そうとこの俺が許さん!」
「南雲さんの怒りのツボがわかりません」
 怯え半分、呆れ半分の八束の声が聞こえた気がしたが、無視して台所に立つ。もし食材が切れてたら、と思って持ってきた食材と調味料が役に立ちそうだ。こんな形で役に立つとは思いもしなかったが。
 今まで相対したどの事件よりも南雲に動揺をもたらした棚と冷蔵庫は一旦忘れ――その前に、枕元に水のペットボトルは置いてやったが――ひとまず喉を通りやすいものを作ろう、と思いかけて重要なことに気づく。
「ねえ、八束……」
 ほとんど答えは決まっているだろうが、一応、聞いておく。
「調理器具と食器もないってこと?」
「いえ、薬缶とマグカップはあります」
「それだけかよ」
 振り返って、分厚い眼鏡越しに八束を睨むも、八束は南雲がどうして睨むのかも理解できていないようで、横になったままきょとんとしている。それを見て、南雲はいつになく胸の中が熱くなる感覚に襲われた。
 ――どうやら、俺はこいつに、食の何たるかを教えてやらねばならないようだ。
 そうと決まれば即行動。部屋を飛び出し、隣から鍋と食器を借りて戻ってくる。南雲の知り合いでもある隣室の住人には、後でオリーブオイルを差し入れようと思う。オリーブオイルは万能だ。
 さて、当然ながら炊飯器もないから、米から粥を炊く必要がある。鍋を火にかけて八束の様子を見れば、目を閉じて大人しくしていた。準備をしている間に眠ってしまったようで、すうすう息を立てている。
 無防備な寝顔を晒してくれる程度には、信頼されているらしい。普段あれほど気を張っているのに、妙に危機感が薄いというか、何というか。南雲に変な気はないが、こうも無頓着だとつい心配になる――八束の横に座り込み、そんなことを考えずにはいられない。
 ともあれ、粥が炊けた辺りでといた卵を混ぜ、食べやすいように薄く味をつける。味見した感じでは悪くないと思うが、八束の口に合ってくれるといい。そう、心から思う。
 八束の肩を軽くゆすると、眠りは浅かったのか、すぐに目を覚まし南雲を大きな目で見つめてきた。つい目を逸らしながら、南雲は器によそった卵粥を差し出す。
「できたけど、食えそう?」
「おそらく」
 南雲の手を借りて上体を起こした八束は、盆を膝の上に載せて、器を手に取る。レンゲですくった粥をふうふうと冷ましたあと、恐る恐る口に含む。一連の動作をじっと見守っていた南雲は、八束のどこか虚ろだった表情が、明るいものに変化したのを見て取った。
「これ、美味しいです」
「ならよかった」
「南雲さん、お料理も得意だったんですね」
 南雲にとって、料理は手芸と同じく退屈な日々をやり過ごす工夫の一つだ。普段仕事場で嗜んでいる手芸と違い、今まで八束の前で披露する機会がなかっただけで。
 どうやら、食欲が減退していても卵粥は喉を通るらしく、八束はゆっくり、しかし確かに粥を食していく。南雲もその様子を見て、内心胸を撫で下ろす。
 半分ほど粥を胃の中に収めたところで、八束は小さく息をついて言う。
「こんなに温かなご飯を作ってもらうのも初めてです。何だか、ほっとしますね」
 いつになく柔らかく微笑む八束だったが、その言葉は南雲の中に小さな不安を抱かせる。南雲は八束の背景を全く知らない。どのような生まれ育ちで、どうして警察官になろうと思い立ち、果てにこんな閑職に回されたのかも、何もかも、何もかも。
 とはいえ。
「ほっとしたなら何よりだ」
 それを追及するのは今ではない。美味しそうに粥を食べる八束の頭を軽く小突き、コンロの上の鍋を指す。
「多めに作っといたから、夜と明日の朝は温めて食べてね。毎食、薬はきちんと飲むこと。もし俺が帰った後に具合が悪くなったら、隣の部屋に声をかけろよ、小林には事情話しとくから」
 てきぱきと指示を加えると、八束は深々と頷いてから、ぼそりと呟く。
「南雲さん、いつもこのくらいしっかり働いてくれると嬉しいんですけど」
「やだよめんどくさい」
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#時計うさぎの不在証明

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●番外編:なぐもさん

「おはようございます、なぐもさん!」
 八束結は、明るい挨拶の声をかけて、席につく。目の前の席から返事はないが、いつになく満足げな表情でパソコンの電源を入れる。
 南雲彰は、そんな八束を、どこか遠い目で見つめていた。
「そうだ、なぐもさん。今日は来る途中で、猫の集会を見たんですよ。なぐもさんも、一緒に見られればよかったんですけど……」
 返事はなくとも、八束は楽しげに前の席に話しかけ続ける。しばらくその様子を黙って眺めていた南雲も、やがて見ていられなくなり、ソファの上に体を起こして、八束に声をかける。
「あのさあ、八束」
「何ですか、南雲さんだった人」
「だった人……」
 南雲は、隈の浮いた目で、自分の席にでんと鎮座ましましている「なぐもさん」――巨大アザラシのぬいぐるみを睨んだ。
 そのぬいぐるみは、本来、南雲が抱き枕として作ったものだ。八束の身長くらいある規格外の大きさと、すべすべふわふわな触り心地が特徴的な、最高傑作と自負している。
 だが、その最高傑作が、何故か自分の席に座って、しかも自分として扱われているのは、さすがに解せない。
 もちろん、理由はわかっていないわけじゃないのだが。
 八束はつんとした表情で立ち上がると、南雲の席の横に立ち、つぶらな瞳をしているぬいぐるみの頭をふわふわと撫でてみせる。
「いつもソファでごろごろしながら人に仕事押し付けるダメな人より、こちらの方がわたしの先輩としてふさわしいと確信しています」
「そいつは、そこにいるだけで、仕事してくれるわけじゃないだろ……?」
「確かに何もしませんが、大人しく席に座っているだけでも、南雲さんだった人よりはずっと真面目だと思います」
「ごめん、俺が悪かったから、せめて『だった人』は外して」
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#時計うさぎの不在証明

文章

全然一言メモじゃなくなってきたのでタイトル変えた方がよいでは……?
ともあれ、とけうさの番外編を一日ひとつかふたつくらい追加していこうと思っていますね~!
サイトからコピペしてくるだけなので簡単簡単!!

作業


●番外編:お茶の時間

 がらんがらん、という派手な音とともに、八束結の「ぎゃあああ」という声がかぶさって聞こえた。
 思わずそちらを見やった南雲彰は、しまった、と思う。きっと、そんな焦りも表情には出なかったとは思うのだが。
 とりあえず、棚を開けたままのポーズで固まり、目を白黒させている八束の横に立ち、素直に謝ることにした。
「ごめん、八束。後で整理しようと思って忘れてた」
「び、びっくりしました……」
 八束の足元に転がっているのは、いくつもの、紅茶の茶葉を詰めた缶だ。南雲が、菓子と一緒に買ってきたものを、大量に棚に突っ込んでいたために発生した悲劇であった。
「片付けますね」
「いいよ、俺がやるから」
 そうは言ったものの、八束の方が動きは圧倒的に早い。缶の一つを拾い上げた八束は、そのラベルを眺めて、首を傾げる。
「この缶、お茶ですか?」
「そうだよ」
「キャラメルって書いてありますけど。お菓子ではないのですね」
「……八束、フレーバードティーって知らない?」
「それは何ですか?」
 質問に対して、八束は当然の如く質問で返してきた。
 時々、というかよく、こういうことがあるのだ。
 八束の常識と、南雲の常識はかなり食い違っている。生きてきた年月と、場所と、状況が違うのだから、ある意味当然といえば当然ではある。だが、「歩く百科事典」とも称されるほどの知識を溜め込んでいながら、八束は意外なほどにものを知らないところがある。
 とはいえ、軽く引っかかるものがあるとはいえ、それを南雲がどう思うわけでもない。知らないのならば、教えればいい。一度教えれば、その知識は八束の脳内百科の一ページとなり、決して忘れ去られることはないのだから。
「言葉通り、香りをつけてあるお茶。飲んでみる?」
「興味はあります」
 わかった、と言って、キャラメルティーの缶だけよけて、まずは落ちた缶を片付ける。それから、愛用のティーセットを用意する。このティーセットも、粗大ゴミ置き場から拾ってきたソファや冷蔵庫同様、南雲が「快適な秘策生活」を送るために揃えたものだ。
 仕事をするのは億劫だが、対策室にいる時間が一日の大半を占める以上、快適に過ごすための工夫を絶やさないのは大切なことだと思う。係長・綿貫の視線に込められた、切実な「仕事しろ」という念は知らんぷりを決め込むことにしている。
 ともあれ、慣れきった手順で茶を淹れると、ひとまずは砂糖も牛乳も入れずに八束にカップを差し出す。八束は、恐る恐るカップに顔を近づけて、そして驚きに目を見開く。
「あっ、お茶なのに本当にキャラメルの香りがするんですね! すごい!」
 そのストレートな反応に、南雲は自然と目を細めてしまう。多分、笑いたくなったのだろう、と自分自身で分析する。八束には、この感情も正しくは伝わらなかったと思うけれど。
 目を真ん丸にしたまま、八束はしばしキャラメルの香りを楽しんでいたようだが、思い切って、カップに口をつけて……、それから、眉をへの字にした。
「甘く、ありません……」
「あー、まあ、香りをつけただけで、あくまで紅茶だからねえ」
「うう、苦いです、苦いいい」
 八束は、意外と苦いものを苦手としている。茶や珈琲は無糖の方が好きな南雲とは対照的である。予想通りの反応に、どこか安堵すら抱きつつ、南雲は八束の手からカップを取り上げる。
「キャラメルティーは、ミルクを入れて飲むのがスタンダードなんだよ。ミルクと砂糖、入れようか」
 涙目で南雲を見上げた八束は、口をへにょりと曲げて。
「どうか、お願いします……」
 情けない声で、そう、訴えたのだった。
畳む


#時計うさぎの不在証明

文章

MIU404感想:再び1話と2話を見たんだけれども~。
志摩さん、桔梗さんの前だと表情かなり柔らかいんだよな……。
伊吹さんの前だとほとんど笑わない志摩さんが、桔梗さんと二人で喋ってる時だと笑ってること多くて「おあ……」となる……。志摩さん……あんたって人は……。
あとすっかり忘れてたけど志摩さんネクタイきちんと締められない人なの??? かわいくない??? 確かにスーツ着てるシーン1話冒頭以外にほぼ無かったはずだからすっかり認識から外れてたけど、実はあんな性格できちんとした格好ができない人なの??? かわいいが???

それはそうとして、やっぱり1話から2話の流れがめちゃ美しいんだよな~。
1話で犯人に「ひとを殺す前に捕まってよかったな」って言って(犯人には唾を吐かれるわけだけども……)、機捜が「起こる前に止める」役割であることを無邪気に喜んでいた伊吹さん。
それに対して2話では、伊吹さんは犯人を信じるんだけれども実際には既に全ては起こってしまった後で。「無実ならよかったのになぁ」ってすごく悲しそうに言うんだよね。
ここに、伊吹さんの「正義感」と「やさしさ」みたいなものがぎゅっと詰め込まれているのが感じられてね。それは本当に、得難いものなのだよなあというのを感じさせてくれることであるよ。
一方の志摩さんはもうちょい複雑だけど、あざらしの2話の所感だと極めて「まっとうな刑事」なんだよね。
いや、やってることがまっとうかどうかは一旦横に置くとして、でも犯人のことを極めてよく見ていて、その上で老夫婦を諭すシーンがめちゃめちゃ好き。殺人者は、自分が殺人を犯したことを、なかったことにしたいのだ、ということ……。
なんというか志摩さんは「刑事」という人種なんだなあっていうのをひしひしと感じる。
伊吹さんは人間として正義感と優しさを握ってるけれど、志摩さんはなんというか……、人間、というよりは「刑事」というシステムであろうとしている、感じというか。
まあ志摩さん、規律の範囲ではめちゃ暴走するというか、比較的手段を選ばないタイプの人なんだなというのも感じるのだけども!(多分それ昔からなんだよなあ!)
ともあれ、そういう……、全然違うんだけど完全に正反対とは言い切れず、ただ、上手いこと凸凹が噛み合う二人というか。
そういうのが~あざらしは~大好き!!! なのですね!!!畳む

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