そして、俺は再び『楽園』に旅立ったわけだが。
『楽園』で目を覚ました俺がまず考えなくてはならないことは、ただ一つである。
――テレサに、どう謝るか。
どう、っていうかもはや平謝りという選択肢しか俺に残されていないのはわかっている。とはいえ、だな。
目を覚ましざま、枕元に立っていたテレサが目を合わせてくれないこの気まずすぎる状況をどう打開すればいいんだ、俺は!
「その……おはよう、テレサ」
「………」
「テレサ、さん?」
「………」
俺の声かけも空しく、テレサはふい、と俺に背を向けると部屋の外に歩み去ってしまったわけでして。自業自得ではある。自業自得ではあるのだが!
俺はベッドの上で頭を抱える。そういえば階段に頭をぶつけたせいでまだ後頭部がじんじん痛んでいる。後でヒナに回復魔法かけてもらおう……
そんな風に思いながら、俺はゆっくりと体を起こす。俺が向こうにいる間に体の疲労は随分抜けていて、楽になっている。今回はそれこそテレサに吹っ飛ばされて頭をぶつけた以外に大きな怪我はしなかったわけだから、当然と言えば当然だ。ばっさりやられた前回が本当に特殊だっただけだ。
すると、テレサと入れ違いに、ルーザが部屋に入ってきた。鎧は外していて、服も着替えている。顔色はまだ悪そうだったが、傷は多分大体癒えているのか、何処かに痛みを抱えているようには見えなかった。
「目が覚めたようだな」
「ああ……えっと、今何時?」
「午前六時半、といったところか。よく眠っていたぞ」
「ええ、あの暴力魔道士さんのせいでね」
自分が悪いとわかっていても、言わずにはいられない。軽く殴られるとかならまだわかるが、いきなり全力で攻撃魔法はないだろう。呪文詠唱なしだったから何とか体の方に異常がなかっただけで、普通に食らったら多分体半分くらいこそげてたぞ。
ルーザは俺の言葉を聞いて、微かに苦笑する。
「それは流石に、彼女も悪いと思ったのだろうな。ずっと、ここでお前が目覚めるのを待っていた」
「え?」
あのテレサが、そんな殊勝なことを考えているとは到底思えない……が、確かに目が覚めた時、あいつ、俺のこと見下ろしてたよな。ここでずっと俺を見ていたってのはマジなのかもしれない。
やっぱり、ちゃんと謝らなきゃダメだな。普段の俺ならここで尻込みして何も言わずに済ませるところだが、テレサにずっと無視され続けるってのは正直言って精神衛生上大変よろしくない……うん、謝ろう。
頭を振って、ベッドから降りようとする俺に、ルーザが言う。
「大丈夫なのか?」
「別に。テレサに吹っ飛ばされた時に頭ぶつけた程度だから」
「そうか」
ルーザは切れ長の目を細めて、俺を見る。だからじっと見るなって、こいつの目は何だか怖いんだよ、戦っている時じゃなくても。俺は眉を寄せて、ルーザからは視線を外す。
「何だよ」
「実は、な。彼女から少しだけ、お前の体について話を聞いた」
「な……っ」
アイツ、何勝手に話してんだ。俺の体についてはトップシークレットじゃなかったのか。ああ、でもこの男は初めから異端研究者だから構わないのか? それにしたって俺を無視して話を進めないで欲しいわけだが。
多分、俺は相当嫌な顔をしたのだろう。ルーザは申し訳無さそうに眉を少しだけ下げた。
「俺が話すよう強く頼みこんだ。彼女に非は無い」
そう言われてしまうと、悔しいが何も言えなくなる。確かに、ルーザは相当俺の体を気にしていたからな。どうしても聞いておきたかったことだったはずだ。
「ああ、わかったよ。だが……それで、アンタが気になってたことはわかったのかよ?」
「いや。逆に、わからないことが増えただけだ。ただ、これほどの精緻な機械人形を再現するほどの腕を持った異端研究者がまだ存在していた、ということがわかっただけでも随分な収穫だ」
俺の体が機械仕掛けってのはバレたわけか。ルーザの場合、『影追い』と違ってぶっ壊されることはないんだろうが、油断していると分解とかされそうで怖いな。ただ、ちょっと気になるところが、一つ。
「この体を作れるほどの研究者、ってのは今のところほとんどいないのか」
「最低でも、俺は無理だ。寝ている間に体を確かめさせてもらったが、骨格や内部が機械だということがかろうじてわかる程度で」
「ちょっと待てやこら、人の体勝手に見てんじゃねえよ」
「大丈夫だ、上しか脱がせていない」
「下まで脱がせてたら殺る。ってか服が微妙にはだけてんのはお前のせいかよ!」
全然悪びれた様子もなく「すまん」とか言ってますが目の前の研究者さん。くそっ、俺に人権は無いのか!
……無いな。はなから人間じゃねえし。
男に脱がされて身体検査されたという屈辱はひとまず横において。俺は聞いておきたい事を何とかルーザから引き出すことに専念する。
「ただ、俺の体を再現できる研究者が『まだ』存在する、ってわざわざ言うからには……前には確かにそういう研究者がいたってことだよな」
俺の問いは、多分正鵠を射ていたのだろう。ルーザは一瞬息を飲んでから、溜息混じりに言った。
「シェル・B・ウェイヴ。おそらくあの男ならば、機械人形を修復、再現する程度の知識と技術はあっただろう。あくまで予測の範囲を出ないが」
「シェル・B・ウェイヴって、お前の親父だよな」
そして、おそらく『楽園』で一番有名な異端研究者。
「ああ。だが、あの男は既に死に……研究内容は誰の手にも渡らずに、闇に葬られた」
テレサが言っていたな。シェルは自らが積み上げてきた研究を一つも後世に残さなかった。それは、子供であるルーザに対しても同じだったのだろう。言葉を吐き出したルーザの表情は、何とも複雑なものだった。
異端研究者として『影追い』に殺された父親。何一つとして自分に残してくれなかった父親。果たして、ルーザがシェルに対してどんな思いを抱いているのか、俺は想像することすらできずにいた。
「故に、あの男が死んだ今でもあの男を超える研究者はいない。だからこそ不思議なのだ、お前の体がそこまで精緻な人形であることが」
「って、言われても、なあ……」
鋼鉄狂、そんなにすごい奴だったのか。只者じゃないとは思っていたが、ルーザの反応を見る限り、本当にとんでもない技術を持っているらしいな。
「それに、『アーレス』や『ユニゾン』がお前の体に備わっていることも、不思議な点だ」
「聞きたかったんだけど、その『アーレス』とか『ユニゾン』って何なんだよ」
本当に聞かされていないのか、とルーザはまじまじと俺を見据えてくる。やっぱり馬鹿にされたような気がしてカチンとくるが、話を聞かせてもらうのが先。別にルーザに悪気はないのだから。
そう、こいつの言動には完全に悪気が存在しない。単にちょいとデリカシーが足りなかったり、極端だったりするだけだ。それはそれで迷惑なのだが。
「 『アーレス』とは、視覚情報から一瞬先を『予測』する能力。もちろん、『予測』はあくまで『予測』であって絶対的なものではないが、きちんと扱うことが出来れば数秒先の未来も見えるはずだ」
実はとんでもない能力だったのか、これ。相手の動きが見えるだけかと思っていたが、もっと広い『未来の予測』だったわけだ。
「そして、『ユニゾン』は『ディスコード』を扱うための、『資質』というのが正しいのか……実のことを言えば、俺も正確なところはわからない」
「わからない?」
「 『アーレス』にしろ『ユニゾン』にしろ、正直に言えば何故俺がこのような能力を持っているのか理解できていない。ただ、自分が持っている能力がこういう名を持っていることしか知らないのだ」
それって、「何もわかってない」と同義だろうが。
ルーザはルーザで、手探り状態なんだろうな。何しろ、『ディスコード』自体が禁忌の物体で、それを扱える能力があったとしても何故自分がそんな能力を持っているのかを説明してくれる奴はいない。『ディスコード』の成り立ちから色々調べていく必要があるわけだ。
だからこそ……ルーザは異端研究者になった、ということなのだろうか。
俺が問うてみると、ルーザはゆるゆると首を横に振った。
「元々はそうだったが、今は違う。今はただ、世界に真実を広めたい。それだけのために動いている」
そもそも、「真実」ってのがどんなことなのかわからないが、おそらく世界の成り立ちそのものを否定するようなものなのだろう。『楽園』の現状をまだ理解し切れていない俺が聞いても、正確には把握できないような話に違いない。
だから、別のことを聞くことにした。
「……何故、目的が変わったんだ?」
「真実に近づきながら語ることが叶わなかったあの男とあの人に報いるため、だ」
あの男ってのは、さっきの言動から考えるにシェル・B・ウェイヴのことだろう。だが、「あの人」とは誰だろう。今までのルーザの話には出てこなかった気がする。わざわざ名前を伏せるってことはヴァレリアってことはなさそうだし……
思いながらルーザを見上げると、ルーザの氷色の瞳が俺を刺すように見つめていた。言葉よりも雄弁な拒絶の意思、ってやつだった。俺は出かけた言葉を飲み込んで、ルーザから目を逸らす。
その時、階段の上から声が聞こえてきた。
「朝ごはんできましたよー?」
張り詰めた空気を一気に弛緩させるまったりボイス。ヴァレリアが俺たちを呼んでいた。ルーザも冷たい表情をやわらげて、言う。
「行こうか、シン」
「あれ、俺の名前……」
「ヴァレリアから聞いた」
そりゃそうか。ヴァレリアが言わなくともテレサが言っていただろうし。何か俺、まだ混乱してるのかもしれない。
ただ、何でこんな風に思うのかはわからないけれど。『シン』って呼ばれるたびに背中の辺りがむずがゆくなるんだよな。ゲームの中で呼ばれても別段何も感じないのに、不思議なものだな。
ルーザの背中を追うように、石造りの階段を上って広間に出る。広間に散乱してた機械類の残骸は隅の方に寄せられて纏められている。多分、俺が寝ている間にルーザたちが片付けておいたのだろう。一瞬残骸の山を見たルーザが悲しそうな目をしたのは、見間違いじゃないんだろうなあ。
そして、階段の近くに置いた小さな台の前に立っているヴァレリアが、料理の入った皿片手に俺のことを笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます、シンさん」
「あ、おはよう……」
俺、昨日この場所でルーザと命かけて戦ってたんだよな。なのに、何で今ルーザとヴァレリアと一緒に食卓を囲んでいるのだろうか。とりあえずルーザとヴァレリアは切り替えが早すぎると思わずにはいられない。
そんな二人とは反対にテレサはいい加減根に持っていらっしゃるようで、やっぱり俺に目を合わせてくれません。露骨に視線をあらぬ方向にむけていらっしゃいます。
俺は何とかテレサの目の端に映りそうな場所まで移動し、深々と頭を下げることしかできない。
「その……何だ。悪かった」
「…………」
「あの時は、魔がさしたっていうか。とにかく本当にすまなかった」
「そうだね、君は変態だもんね」
「ぐはっ」
口を開いたかと思えばそれかよ!
ただ、テレサは俺の謝罪を一応受け入れてくれたのだろう、やっとこさ俺に視線を合わせてくれた。そりゃあもう明らかなジト目だが。やっぱりすぐには機嫌直してくれそうにないな……
ヴァレリアが用意してくれた料理は、肉と森で取ってきた香草で作った薄味のスープと保存食の硬いパン。こんな寂れた遺跡で暮らしているから、食事は大体買い込んでおいた保存食に頼っているのだという。とはいえ、俺も正直腹が減っていたので美味しくいただく。
向こうで食べるのとこっちで食べるのは、言葉通り『別腹』である。体が違うのだから当然だ。
腹の中に物を入れると、段々思考もきちんと回転し始める。それで、初めて俺はここにいるはずの人間がいないことに気づく。
「そういや……ルクスはどうした?」
「ああ、彼なら『先にワイズで待っている』と言って早くに出て行ったよ。ユーリス行きの船を用立ててくれるらしいけど、詳しいことは君に聞けってさ」
テレサはパンをスープに浸しながら言う。もしかすると、テレサはルクスが『影追い』であることも聞かされていないのかもしれない。その辺は今話した方がいいのだろうか、とも思ったのだが。
「これからお前達はユーリスに向かうのか?」
ルーザが唐突に切り出してきたものだから、俺はタイミングを失ってルーザの言葉に曖昧に頷く。
「ああ。魔女のいるレクスに合法的に渡るには、ユーリス国の許可が必要らしいじゃねえか」
「確かにそうだな。ただ、ユーリス国はライブラ以上に異端には厳しい。気をつけてくれ」
わかっている。相手は世界樹と女神様の国、俺が機械ってバレたら今度こそ死亡フラグが立つはずだ。俺、命の危険はないって言われてここに来てるはずなのに、色々危険にさらされまくりだよな……確かに「俺」の命の危険は無いんだが、精神的に大変よろしくない。
「お前らはこれからどうすんだ?」
「この隠れ家にはもういられないからな、一度東に戻ろうと思う」
戻れるのか、と聞くと実はこの島の一番北に超小型の飛空艇が隠してあるらしい。とはいえ流石に俺たちを乗せてってくれはしない模様。
「俺は、お前達に敵対しないという約束はするが、別に協力する義理はないからな」
というのがルーザの主張。
「わかってら。一応俺様は東の魔女を倒す勇者様だからな」
「変態だけどね」
テレサ、一言多い。しかも今はそれ関係ない。
とにかく俺もルーザの手を借りる気はさらさら無い。何せ、今ここにいる二人を見ていてもそうは思えないが、ルーザが東の魔女と繋がっているのは事実なのだ。
ルーザは直接の敵ではないが、未だに敵方であるという事実は覆せない。
「やっぱり魔女に俺らのこと話したりするわけか?」
「いや、それはしないと約束しよう。出来れば、『ディスコード』の在処とそれを扱える人間が俺以外にいることについてはサンドに知られていない方が俺としても都合がいい」
魔女とルーザの関係も、どうやら相当複雑なようだ。目的は同じでも手段は違う、って話だったからな。ルーザとしても魔女のように即戦争を起こしたりするのは反対なのだろう。もちろん、最終的な局面になればルーザも剣を抜くことに躊躇いはないだろうが。
そうしたら、また俺はこいつと刃を交えるハメになるのだろうか。
今回は博打を打って何とか成功したが、次回ルーザと相対して、果たして勝てるのだろうか。
「しかし……サンド・ルナイト、か。裏ではやっぱりルナイト一族も動いているのかい?」
今まで黙っていたテレサが、口を挟んできた。俺はテレサの唇から放たれた聞きなれない言葉に思わず首を傾げてしまう。
「ルナイト一族?」
「ああ、シンには説明していなかったね。この『楽園』には古くから『魔女』と呼ばれる一族が存在するんだ。世界の裏舞台で暗躍する、闇の一族と呼ばれているね。あらゆる犯罪、そして戦の影にはルナイトの魔女あり、と言われるほどだよ」
影で糸を引くことを生業としている連中ってやつか。どの世界にも、こういう連中はいるもんだな。
「一族と言っても血縁関係はなくて、有能な人間を引き入れてルナイトを名乗らせているから、一つの組織と考えてもいいと思う」
「で、そのうちの一人が東の魔女、サンド・ルナイトってわけか……」
「その通り。で、実際のところどうなんだい、ルーザ」
テレサの青い瞳が、ルーザに向けられる。視線が、中空で交錯するのが見えたような気がした。一瞬の沈黙の後、ルーザはぽつりと言った。
「ルナイトの正確な動きは俺にもわからん。だが、ルナイトの魔女全員がサンドに同調しているとは思えないな」
「ほう?」
「むしろ、他のルナイトはサンドを静観している印象だ。あくまで俺の主観だがな」
「いや、それがわかるだけでも随分違うよ。貴重な情報をありがとう」
テレサは満足げに淡い色の唇を上げる。その表情一つ取っても絵になるってのがすごい。思わず見とれかけていた俺は首を小さく横に振ってテレサから視線を外す。また「変態」呼ばわりされたらたまったものじゃない。
しかし、魔女、サンド・ルナイトか。
今まではただの悪役ってしか思っていなかったが……実際のところ、どうなんだろうな。
一体何を知って、何を変えようとしているのか。何故、戦おうとしているのか。その辺を、俺は果たして理解した方がいいのだろうか。それとも、理解せずにただ『ディスコード』を振り下ろせばいいだけなのだろうか。
望まれているのはきっと後者。後者なのだろうが。
本当に俺は、何も知らないままでいいのだろうか。
「とにかく、魔女を倒そうと思うなら『ディスコード』を使いこなせるようになることだな。限定起動ではおそらく、魔女の持つ力には敵わないだろう」
限定起動、っていうことは、あれか。基本的に『ディスコード』には馬鹿でかい力を押さえ込むリミッターがかけられていて、それを解除する方法が何かしらあるってことなんだな。
「何でも切れる」だけの剣で世界を揺るがす魔女に勝てるとは思えないし、とりあえず納得しておく。
「ルーザ、お前は限定を解除する方法は知ってるのか?」
すると、ルーザは首を横に振った。ルーザ曰く、今現在それを探している状況なのだという。何でもかんでも知っているかと思ったが、案外こいつが立っている位置は俺とさして変わらないということなのかもしれない。
だからといって安心するべきところじゃないのだが。
「それにしても、手を貸す気が無いって言う割には随分色々教えてくれるね。魔女と直接協力してないといえ、それでは魔女と君にとって不利なんじゃないのかい?」
テレサは台の上に肘をつき、目を細めてルーザを見やる。俺も、確かにそれは不思議で、自然とルーザに視線を向ける。ルーザは少しだけ言葉を選んでいたのか、視線を中空に彷徨わせてから、ぽつりと言った。
「俺は、迷っているのだろうな。これから、どうすべきか」
それは、俺たちに言ったわけではなく、きっと自分自身に言い聞かせる呟き。横のヴァレリアが、ほんの少しだけ不安げな表情をルーザに向ける。ルーザは小さく息をついてから、今度は俺たちを真っ直ぐに見返して……はっきりと言い切った。
「だが、どのような結果になろうとも、教えたことを後悔する気はない」
ルーザがそう言い切るのならば、俺から言えることは何も無い。
俺は、皿の底にほんの少しだけ残っていたスープをスプーンですくって、口の中に流し込む。皆が下を向き、妙な沈黙が流れる中、俺はそっと腰に提げたままにしておいた『ディスコード』の柄に触れてみる。
これから、俺は何を考えるべきなのだろうか。色々なことを半端に知ってしまっただけに、もやもやした感覚に囚われる。ルーザではないが……俺も迷ってるのかもしれない。
自分が何をしなければいけないのかは、わかりきっている。ただ、もはや何も考えずに突き進むことはできない。俺は俺なりに一つずつ解決すべきなのだろう。けれども、考えるべきことが多すぎて、何から手をつけていいのかわからない。
その時、唐突に、ルーザが顔を上げて言った。
「……一つ。お前達に、頼みたいことがある」
反転楽園紀行