幸福偏執書庫

シアワセモノマニア(青波零也)の小説アーカイブ

仮想ダイアログ
[End of File] - A_Curtiss_Record-1039 Closed...
 
 
「お疲れさまでした、Administrator。以上がミシェル・ロード殺害事件の全記録です」
「本当に、ミシェル・ロードはこの時点で死んだのか?」
「当装置に記録されている情報を総合しても、その後ミシェル・ロード博士の生存は確認されておりません」
「……そうか」
「何か疑問点がございますでしょうか、Administrator?」
「ミシェル・ロードは、何故甘んじて奴に殺されたのか。記録を総合するに、間違いなくミシェル・ロードは奴が己に殺意を抱いていることを理解していたはずだ。そして、奴が行動する以前に手を打つこともできたはずだ」
「…………」
「や、すまん。別に、お前さんに答えを求めてるわけじゃねえんだ。だから、そんな顔しないでくれ。頼む」
「は、はい。申し訳ありません、Administrator」
「だから謝るのもやめてくれって。やりづれえったらねえ」
「……はい」
「じゃ、もう一つ質問させてくれ。何故、ミシェル・ロードの死以降、奴の視点による記録は残されてねえんだ?」
「お答えします、Administrator。ミシェル・ロード博士殺害の罪によって囚われた後、『彼』は当装置への接続を禁じられました。当装置はロード博士死亡当時《鳥の塔》の公衆網にも接続され、二四時間情報を収集していました。故に、『彼』が必要以上の情報を得ることを、上層が危惧した模様です」
「……なるほど、だから……奴が見ていたはずの『はじまり』も、ここには記録されていないんだな」
「はい。接続解除後、『彼』が生存中に当装置に接続されることはありませんでした。以降の記録は、次のAdministratorが接続されるまで、全て《鳥の塔》から提供された情報と、当時の公衆網で取得できた情報のみで構成されております」
「ま、そりゃそうか。なら、ミシェル・ロード殺しの罪で捕まった後、奴はどうしたんだ? 記録からわかる範囲でいい」
「『彼』は、《森の塔》の監獄に収容されました。《鳥の塔》上層では、『彼』の能力と思想を危険視して死刑を望む声も多く上がりましたが、その後の調査で『彼』を死刑にすることに対する莫大なリスクが明らかになりました」
「リスク?」
「『彼』は、ミシェル・ロード殺害直前に、自分の権限で可能な範囲の、環境改善班の研究成果を、全て虚偽の情報に書き換えていたことが明らかになったのです。それらの正しい情報を網羅しているのは結果的に『彼』ただ一人であり、『彼』を死刑にすることによって、それらの情報が全て失われることを上層部が恐れた模様です」
「情報を盾に取ったのか。奴らしいやり口だな」
「正式な処遇が結局決まらないまま、『彼』は監獄の中で過ごしていました。その間の記録を紐解く限り、『彼』は既に半ば正気を失っており、ほぼ会話が通じなかったそうです。ただし」
「それが演技であった可能性も、否定できない」
「その通りです、Administrator」
「奴がどこまで狂ってたか、今どこまで狂ってるのか……か。難しい問題だな。まともでなかった、というのは俺も同意だが、理性的に狂っちまった奴ほど性質が悪いよな。俺みたいにさ」
「Administrator、あなたが狂気に侵されているとは、思えません」
「狂ってるさ。狂ってなかったら、きっと、ずっと上手く立ち回れた。せめて、一番大切なものだけは、傷つけずに済んだかもしれない」
「…………」
「や、もしもの話はやめようか。俺も奴も、少しばかり足を踏み外しちまった。それだけの話だ」
「……Adminisitrator、質問を許してください」
「構わんよ。何が聞きたい?」
「あなたは、今も『彼』を恨んでいますか?」
「正直に言えば、恨みはとっくに消えちまってる。だからといって、奴もまた被害者だ、なんて言う気もさらさらねえ。奴は俺にとって何処までも加害者だ。ただ」
「ただ?」
「……出会い方が違えば、案外、仲良くなれたかもな」
 
 
[Reservoir] exit - N_T_Curtiss(Copy_Personarity) Logged off.

by admin. <1763文字> 編集