by admin. ⌚2024年8月2日(金) 22:17:07〔123日前〕 レイニータワーの過去視 <2789文字> 編集
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
未知の領域を探査すべく選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
目に見えない命綱だけを頼りに『異界』に飛び込んでいくXと、彼を観察する「私」の実験と対話の日々を綴る連作短編集。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
目には見えない命綱ひとつで『異界』へと潜っていく死刑囚X。
今日も「私」はディスプレイを通して彼の視点を共有する。
……時には『異界』を垣間見、時には他愛のない言葉を交わす。
Xと「私」の、特に名前のない日々を綴った短編連作。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる平行世界。
未知の世界を観測すべく選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
目に見えない命綱だけを頼りに『異界』に飛び込んでいくXと、彼を観察する「私」の実験と対話の日々、もしくは、三十一の忘れられない道行き。
※綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2022年7月の企画『文披31題』の参加作品です。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
この国の片隅で、未知の世界を知る者たちの『異界』探索プロジェクトが密やかに進んでいた。
プロジェクトメンバーはリーダー、サブリーダー、エンジニア、ドクター、新人の五人、国からの監査官が一人、それから異界潜航サンプルが一人。
そんな少数精鋭のプロジェクトは、今日もつつがなく、あるいは少しの事件とともに進んでいく。
これは、歴史には語られない彼らの、『異界』と彼ら自身にまつわる三十と一の物語。
※綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2023年7月の企画『文披31題』の参加作品です。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
本来「あり得ざる」それを観測する異界研究者たちは、今日もそれぞれの姿勢で『異界』と向き合っている。
『無名夜行』番外編、最初の異界潜航サンプルXが去った後の、プロジェクトメンバーたちの「残響」を描いた連作。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
全てが「霧」から生まれいずる世界にて。
世界の最西端、辺境の地で燻っていた「俺」……最強最速の翅翼艇『エアリエル』を駆る「救国の英雄」ゲイル・ウインドワードは、遠い日に目指した「青空」の色を持つ人工霧航士、セレスティアと出会う。
新たな相棒との日々と迫りくる過去、そして霧の向こうの「青空」とは。
真と偽の果て、青空目掛けて霧裂く空戦SFファンタジー。
霧世界報告 / ファンタジー / SF / 空戦 / 異世界
ここではない世界。万物の根源が「霧」である世界。
女王国首都の雑誌社に所属するネイト・ソレイルは、今日も怠惰で奇矯な作家カーム・リーワードの首根っこを引っ掴んで仕事をさせる。
そうでないと、きっと、誰の手も届かないどこかに行ってしまうから。大事なことを、全部、全部、取り落としてしまうから。
女神歴九六九年、帝国との戦争が終わって五年。
これは、落ち着きのない作家先生と、そんな先生を追う新米担当編集者の他愛のない日常の物語。
霧世界報告 / ファンタジー / SF / 日常 / 異世界
「ごきげんよう、叔父さま」
霧深き女王国の果ての果て、雨の止まない土地にて。
監獄塔『雨の塔』の面会室で「私」が出会ったのは、姪を名乗る少女アレクシア。
彼女は完璧な笑みを浮かべて言う。
「叔父さまの知恵を借りたい」――と。
犯罪者の「私」と面会者のアレクシア。
本来なら交わるはずのない二人による、安楽椅子探偵ミステリもどき。
霧世界報告 / ミステリ / ファンタジー / ふしぎ / 異世界
ノンシリーズものの短めなお話をまとめています。
ジャンルは話ごとにファンタジー中心にSF、現代、メタフィクション風など雑多。気が向いたら増えます。
SF / ファンタジー / ホラー / コメディなど
時計うさぎの不在証明 / 甘味組曲 / さよなきどりはなかない /
by admin. ⌚2024年8月2日(金) 22:17:07〔123日前〕 レイニータワーの過去視 <2789文字> 編集
試されているように感じるし、事実、私を試すために彼女はここにいる。もちろん、仮に私が役立たずだったとしても、彼女は「その程度のもの」と私を認識するだろうし、それで十分ともいえた。私が彼女の役に立つ必要などないのだ。
ただ、その一方で、アレクシアの口から語られた事件に興味が湧いたのは確かだった。ここから遥か遠く離れた――それは現実としても、私自身の感慨としても――エピデンドラム公爵家で起きた凄惨な殺人事件。
ここに来てからまるで思い出すこともなかった、エピデンドラム邸の美しさを脳裏に思い描いてみる。そこで行われていたという祝いの席の華やかさと、その奥に秘められていたであろう、泥臭いやり取りも。
まずは、改めてアレクシアの言葉を咀嚼しなおしてみる。まだ、事件を完全に思い描くには何かが足りていないのだと思う。
「……そうだね。まず、オーブリー卿の死因だけど、短剣による刺殺ということだったね。後ろからかい、正面からかい?」
「正面からずぶりだ。ちょうど、心臓を貫く形になっていたそうだ」
心臓を貫く一撃。それでは、確かにオーブリー卿であろうとひとたまりもなかったであろう。ことさら憐れむ気になれないのは個人的な感情によるものだが、随分とあっけない死に方をしたものだ、とは思う。
「凶器は短剣で間違いないんだね?」
「どういうことかな」
「例えば、そうだね……、|記術《スクリプト》による傷である可能性は考えられないかな」
|記術《スクリプト》を用いた犯罪は世界的にも|記術《スクリプト》適正の低い女王国民の間ではそこまで一般的ではない。しかし精霊女王の血を濃く引く我々|貴族《クイーンズブラッド》にとっては、殺害の手段として十二分にありうる話であると思う。
とはいえ、アレクシアは私の言葉を一笑に付してみせた。
「そんな、叔父さまじゃあるまいし。ああ、しかし叔父さまのおかげで警察も|記術痕《スクリプト・サイン》は確認するようになったらしいな。もちろん|記術《スクリプト》が使われた痕跡はなかったし、傷口は短剣の刀身と一致している、というのが警察の見解だ」
警察も一時に比べれば随分きちんと捜査をするようになったということか。とはいえ、相手はこの国の頂点に最も近い公爵家だ。捜査しづらさを感じているのは間違いないだろうし、目に見える犯人がいるならば、それで終わりにしてしまいたいところだろう。
ただ、その一方で、終わりにできないだけの理由があって、だからアレクシアはここにいる。どれだけ私が鈍くても、そのくらいはわかる。
アレクシアは、落ち着いてこそいるが、ヒルダが犯人であることを疑ってかかっている。実の母が犯人であることを信じたくない、だけなのかもしれないし、何か自分でも言葉にできない違和感を抱えているのかもしれない。
そして、アレクシアの言葉には私もどこか違和感のようなものを感じている。その正体が掴めるまでは、姉が犯人と決め付けるのは尚早に過ぎる。
「なら、最初に死体とヒルダを見つけたのは誰かな」
「母つきの使用人だ。立食の時間に母が姿を消したことに気づいて探していたところ、休憩のために解放していた一室で、オーブリー伯父上の死体と短剣を持っている血まみれの母を見つけた、ということらしい。……が」
「何か引っかかるところがあるのかい?」
アレクシアは腕を組み、思案するように沈黙した。けれどそれもごく一瞬のことで、閉ざされた唇はすぐに開かれることになった。
「使用人が第一発見者かというと、疑問が残るのだ」
その声は、先ほどよりも一段低く聞こえた。
「それ以前に現場を見た人物が他にいたと?」
「見ていたかどうかは定かではない。けれど、もう一人、使用人より前にその場にいたことだけは間違いないのだ」
「もう一人の登場人物、というわけだね。それは誰なのかな」
アレクシアの目が僅かに伏せられ、長い睫毛が目の上に影を落とす。
「私の、双子の妹だ」
双子。それは初耳だが、ひとまずアレクシアが話すのに任せることにする。重要なのは、その双子の妹とやらが何を見ていたのか、もしくは何を見ていなかったのか、だ。
「私の妹はニア……、アントニア、というのだが、その日は基本的に母と行動を共にしていた。私もそれは記憶している。ただ、事件直前についてははっきりとしたことはわかっていないのだ。一つだけ確かなことは、使用人が伯父上の死体と母を発見した時、アントニアは部屋のソファの上に寝かされていた、ということ」
「最低でも、その瞬間に意識はなかった、ということだね」
そういうことだ、とアレクシアは一つ頷く。
「母が伯父上を殺した瞬間も意識を失っていた、と供述している。自分がどうしてそこに寝かされているのかもわかっていなかったようで、とにかく記憶にあやふやな点が多すぎる」
「好意的に見るなら、母が伯父を殺すという事件の凄惨さに衝撃を受けて、その時の記憶を無意識に闇に葬り去った、といったところだろうね」
そして、穿った見方をするなら、それらが全て嘘で、何か自身に不都合なことを秘匿しているという可能性が考えられるし、そちらの方がよっぽど現実味がある。アレクシアも私の言わんとしていることはわかってくれたのだろう、軽く肩を竦めて言った。
「当然、ニアの供述は真っ先に疑われた。ただ、捜査が進むにつれ、結局ニアが起きていようが寝ていようが、その場で母さまが伯父上を殺した、という理屈以上の説明をつけられそうにない、ということになったのさ」
「凶器を手にした姉さんがそこに立っていた、という状況以上に明白に犯人を指し示すものがない……、か」
手枷の鎖を指で弄びながら、鉄格子越しのアレクシアを見やる。アレクシアはひとつ頷いて私の言葉を肯定したが、すぐに「しかし」と言葉を続ける。
「ニアは、今もなお、母さまが犯人ではないと信じている。自分がきちんと覚えてさえいれば、とその時のことを悔やんですらいる。わたしは、母さまと、母さまを信じているニアのためにも、ことの真相を知りたいと願っている」
「君が知りたいのではなく?」
「どうだろう。いても立ってもいられなかったのは確かだが、それが本当に『わたしの気持ち』なのかは、わからないままでいるのさ」
アレクシアは鈍く笑ってみせるけれど、その気持ちを私が共有することはできない。私はどこまでも他人であって、アレクシアやその妹、それにヒルダの感じていることを知ることなどできやしないのだ。
ただ、気持ちや感情といった目に見えないものではなく、現実に起きた出来事を詳らかにすることなら、試みることができる。
「そうだね。……なら、一つずつ、順番に考えていくことにしようか」