No.600, No.599, No.598, No.597, No.596, No.595, No.594[7件]
Twitter300字SS「救う」
第八十一回「救う」2021年11月6日
悪い魔法つかいは、人の望みを叶える代わりに、「生きる力」を奪うのだという。
『願いを叶えるほどの大がかりな魔法は、ひとりの命を奪うだけでは済まない』
真剣な声音に、ごくりと唾を飲む。
『だから、君の力が必要なんだ、イリス。いち早く悪い魔法つかいを退治して、魅入られたひとを救うんだ』
身にまとう虹色の衣装に姿を変えている、相棒のウェールが言う。「わかった」と頷いて、椎名すずめ――魔法つかいイリス・アルクスは、煌めくしっぽ髪を夜風に揺らす。
魔法の力を宿した目は、月の沈んでいく方角に、大きな力が渦巻くのを見て取る。
「見つけた。……行くよ!」
銀のブーツがアスファルトを蹴って、イリスは夜空にふわりと舞った。
――『よい魔法つかいの役目』
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#[Twitter300字SS]
第八十一回「救う」2021年11月6日
悪い魔法つかいは、人の望みを叶える代わりに、「生きる力」を奪うのだという。
『願いを叶えるほどの大がかりな魔法は、ひとりの命を奪うだけでは済まない』
真剣な声音に、ごくりと唾を飲む。
『だから、君の力が必要なんだ、イリス。いち早く悪い魔法つかいを退治して、魅入られたひとを救うんだ』
身にまとう虹色の衣装に姿を変えている、相棒のウェールが言う。「わかった」と頷いて、椎名すずめ――魔法つかいイリス・アルクスは、煌めくしっぽ髪を夜風に揺らす。
魔法の力を宿した目は、月の沈んでいく方角に、大きな力が渦巻くのを見て取る。
「見つけた。……行くよ!」
銀のブーツがアスファルトを蹴って、イリスは夜空にふわりと舞った。
――『よい魔法つかいの役目』
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Twitter300字SS「残る」
第七十九回「残る」2021年9月4日
すずめの、今日のおやつはシュークリーム。
一回り大きめのシュー皮の中には、生クリームとカスタードクリームがいっぱいに詰まっている。
けれど、今日は明らかに何かが変だという確信が、あった。
「ウェール」
すずめの腕に巻き付いているウェールは、ぎくりと体を震わせる。ぬいぐるみ然とした『魔法つかい』は、誤魔化しが上手くない。すずめはそっと、皿の上のシュークリームを取り上げる。
見れば、妙に軽いシュー皮の底には、ぽっかりと穴が開いていて。
中に詰まっているはずのクリームが、すっかり空になっているのであった。
「クリーム、おいしかったから、つい……」
「ここまでするなら、クリームだけじゃなくて皮も残さず食べたら?」
――『今日のおやつ』
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#[Twitter300字SS]
第七十九回「残る」2021年9月4日
すずめの、今日のおやつはシュークリーム。
一回り大きめのシュー皮の中には、生クリームとカスタードクリームがいっぱいに詰まっている。
けれど、今日は明らかに何かが変だという確信が、あった。
「ウェール」
すずめの腕に巻き付いているウェールは、ぎくりと体を震わせる。ぬいぐるみ然とした『魔法つかい』は、誤魔化しが上手くない。すずめはそっと、皿の上のシュークリームを取り上げる。
見れば、妙に軽いシュー皮の底には、ぽっかりと穴が開いていて。
中に詰まっているはずのクリームが、すっかり空になっているのであった。
「クリーム、おいしかったから、つい……」
「ここまでするなら、クリームだけじゃなくて皮も残さず食べたら?」
――『今日のおやつ』
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Twitter300字SS「波」
第七十八回「波」2021年8月7日
「この小さな箱の中で、人が喋っているのかい?」
突然のウェールの質問に対して、すずめは手元の「箱」を取り上げる。
「これはラジオ。人が入ってるんじゃなくて、電波を拾って音や声を伝えてくれる機械」
「電波とはなんだい?」
言われても困ってしまう。すずめとて電波がどんなものなのかを理解してはいないのだ。ウェールもそれを悟ったのか、「ふむ」と首を傾げて、言う。
「人間も、魔法みたいな力を使うのだね。不思議だなあ」
長い身体をくねらせ、ふわふわなぬいぐるみの姿をした魔法つかいのウェールが言う。ウェールの方がよっぽど不思議だよ、と思いながらも、すずめはラジオから聞こえてきた好きなアーティストの音楽に耳を傾けるのだ。
――『魔法の箱』
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第七十八回「波」2021年8月7日
「この小さな箱の中で、人が喋っているのかい?」
突然のウェールの質問に対して、すずめは手元の「箱」を取り上げる。
「これはラジオ。人が入ってるんじゃなくて、電波を拾って音や声を伝えてくれる機械」
「電波とはなんだい?」
言われても困ってしまう。すずめとて電波がどんなものなのかを理解してはいないのだ。ウェールもそれを悟ったのか、「ふむ」と首を傾げて、言う。
「人間も、魔法みたいな力を使うのだね。不思議だなあ」
長い身体をくねらせ、ふわふわなぬいぐるみの姿をした魔法つかいのウェールが言う。ウェールの方がよっぽど不思議だよ、と思いながらも、すずめはラジオから聞こえてきた好きなアーティストの音楽に耳を傾けるのだ。
――『魔法の箱』
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Twitter300字SS「答える」
第七十七回「答える」2021年7月3日
椎名すずめが秘密の名前を唱えれば、魔法つかいイリスに早変わり。なのだけれども……。
「ウェール」
「ないよ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「言わなくてもわかるよ。そんな魔法はありません」
ウェールはふさふさとした尻尾を振りながら言い、すずめは恨めしげにウェールを睨む。
「魔法つかいなのに、魔法で解決できないことが多すぎる!」
「言われても困るよ。僕が魔法を作ったわけじゃないんだから」
それもそうだけど、と唇を尖らせて、すずめは手元を見る。XとYが並んだ数学の教科書は何も語りかけてはくれない。
「そもそも、テスト前日になって勉強を始めるのは、魔法の国でも付け焼刃って言うんだけど」
「正論は聞きたくないの!」
――『答えが知りたい』
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第七十七回「答える」2021年7月3日
椎名すずめが秘密の名前を唱えれば、魔法つかいイリスに早変わり。なのだけれども……。
「ウェール」
「ないよ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「言わなくてもわかるよ。そんな魔法はありません」
ウェールはふさふさとした尻尾を振りながら言い、すずめは恨めしげにウェールを睨む。
「魔法つかいなのに、魔法で解決できないことが多すぎる!」
「言われても困るよ。僕が魔法を作ったわけじゃないんだから」
それもそうだけど、と唇を尖らせて、すずめは手元を見る。XとYが並んだ数学の教科書は何も語りかけてはくれない。
「そもそも、テスト前日になって勉強を始めるのは、魔法の国でも付け焼刃って言うんだけど」
「正論は聞きたくないの!」
――『答えが知りたい』
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Twitter300字SS「影」
第七十六回「影」2021年6月5日
「今日の朝、突然、でっかい影が頭の上をよぎったから、見上げてみたらさ」
休み時間。すずめの耳に入るのは、後ろの席のクラスメイトの話。
「人が! 空を飛んでたんだよ!」
「うそだー、そんなのありえないよ」
けらけらと笑う声。「ほんとだよぉ」という訴え声も、笑い声にかき消されてしまう。すずめは唇を引き結んで意識を逸らそうとするも。
「やっぱり、遅刻しそうになるたびに魔法で空を飛ぶのはよくないと思うよ」
鞄の中に隠れた相棒ウェールの声に、すずめは「うう」と唸ってしまう。
椎名すずめが、魔法つかいイリス・アルクスであることは、みんなには内緒、なのだけれども。
こんな調子で、危なっかしい部分も、ちょっとだけ。
――『目撃情報』
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第七十六回「影」2021年6月5日
「今日の朝、突然、でっかい影が頭の上をよぎったから、見上げてみたらさ」
休み時間。すずめの耳に入るのは、後ろの席のクラスメイトの話。
「人が! 空を飛んでたんだよ!」
「うそだー、そんなのありえないよ」
けらけらと笑う声。「ほんとだよぉ」という訴え声も、笑い声にかき消されてしまう。すずめは唇を引き結んで意識を逸らそうとするも。
「やっぱり、遅刻しそうになるたびに魔法で空を飛ぶのはよくないと思うよ」
鞄の中に隠れた相棒ウェールの声に、すずめは「うう」と唸ってしまう。
椎名すずめが、魔法つかいイリス・アルクスであることは、みんなには内緒、なのだけれども。
こんな調子で、危なっかしい部分も、ちょっとだけ。
――『目撃情報』
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#[Twitter300字SS]
Twitter300字SS「届く」
第七十五回「届く」2021年5月1日
椎名すずめは今日も魔法つかいイリス・アルクスに変身する。イリスは虹色の尻尾髪を閃かせて、悪い魔法つかいをこらしめる……、のだけれど。
「ねえ、ウェール」
一仕事を終えた布団の中で。すずめはこっそり相棒のウェールに問いかける。
「好き、って気持ちはどうすれば届くかな?」
「言えばいいんじゃないかい?」
そうじゃないのだ。すずめは口をへの字にする。
すずめには好きな人がいて、その人は違う人を見ている。大事な人を困らせたいわけじゃないけれど、好きという気持ちは伝えたい。そんな時の魔法はないのか、という問いに、ウェールは首を横に振る。
魔法はそんなに便利なものじゃない。すずめは今日も枕に顔をうずめるのだ。
――『好きという気持ち』
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#[Twitter300字SS]
第七十五回「届く」2021年5月1日
椎名すずめは今日も魔法つかいイリス・アルクスに変身する。イリスは虹色の尻尾髪を閃かせて、悪い魔法つかいをこらしめる……、のだけれど。
「ねえ、ウェール」
一仕事を終えた布団の中で。すずめはこっそり相棒のウェールに問いかける。
「好き、って気持ちはどうすれば届くかな?」
「言えばいいんじゃないかい?」
そうじゃないのだ。すずめは口をへの字にする。
すずめには好きな人がいて、その人は違う人を見ている。大事な人を困らせたいわけじゃないけれど、好きという気持ちは伝えたい。そんな時の魔法はないのか、という問いに、ウェールは首を横に振る。
魔法はそんなに便利なものじゃない。すずめは今日も枕に顔をうずめるのだ。
――『好きという気持ち』
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#[Twitter300字SS]
作:アルベール・カミュ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也
※2021年4月11日の記録
二回目感想は >>25
インプットをしよう! ということでありがたくも観る機会があり舞台『カリギュラ』(2019年版)を観ました。
ストーリーは上のリンクを参照していただくとして、完全に何もわからずに見たこともありかなりふわっふわとしてしまっている……。あとで感想やネタバレなんかを巡ってみようかなと思っています。
ただ、カリギュラの狂気と呼ぶべき何か……自分はそれが「狂気」だったかどうかわからないな、と思うのですよね。いや、一貫したものだからこそ「狂気」なのかもしれない、とも思うのですけど、カリギュラはどこまでも理性的であったなと思うんですよね。論理、とカリギュラは言ったけれど、確かに彼の中ではそれは一貫した論理であるし、ケレアもそれを認めている。(その上でケレアは「それでも私は」と続けるのだけれども……)
だからこそ、カリギュラの狂気は見る者を引き付けるのかなと思うんですよね。目を離せなくなる力がある。そして、カリギュラの周囲の人が離れがたくなるだけの何かを握っている。「カリギュラを理解してあげて」というセゾニアのシピオンに対する台詞とかほんとに……ほんとにさあ……。
実際にカリギュラを少なからず理解したとみられるセゾニア、エリコン、シピオンはそれぞれのやり方でカリギュラの側に在り続ける。シピオンは……最後には離れてしまうし、それが決定的な破滅の引き金になるのだけど、要するにそれぞれがカリギュラを構成するものでもあったというか……。もしくはカリギュラが捨てようとして捨てられなかった何かであったのかもしれないなーとも思うんですよね(シピオンが自己矛盾を起こしているのもカリギュラの自己矛盾の投影である、みたいな話を一緒に見てた人がしてくれたのが印象的でした)。
結局理解できたかどうかは怪しいんですけど、でもカリギュラの生き様とその結末には何か惹かれるものがあるんですよね。「月が欲しい」と言ったカリギュラのこと……。不可能、を求めたこと。それが愛した妹の死から始まっているというのもまた思うところがあり。それを認めなかった世界そのものへの反逆なのかな、というのは思うところ。反逆を肯定するということ……そう、カリギュラは自分に対して革命を試みるものも肯定するところがあり……実際、反逆を企んでいるケレアのことは殺していないところも……色々と思うところありますね。
まだまだ噛めるところいっぱいありそうなので……また機会があったら観たいですね~!畳む