霧世界余録

21:ボジョレ・ヌーボー

「今年の新酒はみずみずしさに加えて芳醇な香りが溢れる味わいで、それはまるで霧の中で十分に熟れた果実を思わせる出来。ばっちりです、完璧ですよ。オレの目利きに間違いはありません!」
「アーサーにこの酒飲ませたの誰だ」
「ごめん俺様」
「素直でよろしい」
「そう……、そうです、オレは知ってるんですよ。このみずみずしさは、アグネスの唇の味……。芳醇な香りに満ちた、魅惑の味……。彼女もまさしく熟れた果実のように、オレを惹きつけてやまないというのに、どうして、どうしてオレの気持ちは届かないんでしょう……。ああアグネス……折角の酒が苦いんですよ……これは……涙の味……?」
「それにしても何で酔っ払ったアーサー、何でもかんでも女に結び付けようとするんだろうな」
「ほんと、ボクのこと言えないと思うんだけど」
「百歩譲ってもトレヴァーと一緒にはされたくないです」
「心外だなあ」
 
(霧航士宿舎にて、いつも通りに)