霧世界余録

20:橋の上

「あのおんぼろ橋はどうなったのかって? 三年くらい前に板がすっかり抜けちまって、今は通れないよ。まあ、壊れる危険があるからって、長らく通行止めになっていた橋だったしな、誰が困ってるわけでもないさ。
 ああ……、でも、思い出すな。今から十年くらい前だったかな、それとももう少し前だったかな。ほら、灯花祭の日には、河沿いをパレードが通るだろう? お前さんは知らなかっただろうけど、実はあの橋は、パレードを眺めるのにはうってつけの場所でな。それをどこからか聞きつけたのか、この辺じゃ見ない兄ちゃんたちが毎年あの橋の上にたむろしていたのさ。別に悪いことをしてるわけじゃない、本当にただパレードを見ながら飲んだり食ったりしてるだけ、他の見物人と何も変わらなかったんだが……、妙に印象に残っててな。
 一体何の繋がりなのかさっぱりわからない、てんでばらばらな連中だったけれど、話してみれば気のいい兄ちゃんたちだったよ。俺も一緒に混ざって馬鹿話をしたこともあった。特によく覚えてるのは、めちゃくちゃ酒に強い兄ちゃんがいて、飲み比べして大負けしたことだな。まあ、あの連中の中にも酒に弱いのが二人いて、お互いどうしようもない酔い方してパレードを見るどころじゃなくなってたんだけどな。本当に馬鹿だったよ、あの頃はな。
 ただ、あの兄ちゃんたちが何者だったのかは、今でもわからないままだ。何せ、ある時を境にぱったり姿を見なくなっちまったからな。
 あの兄ちゃんたち、今は何をしてるんだろうな。戦争も終わって、あの頃とは比較にならないほど盛大なパレードができるようになったんだ、もう一度くらい見に来てほしいもんだよ。あの橋はもう無いけどな」
 
(或る男、旧友に語って曰く)