「永遠なんてほしくはないさ」
シスルと呼ばれる彼は、ある日君にそう言った。
どういう話の流れだったのかは、僕には思い出せない。けれど、きっと……君がずっと思っていたことを、彼にぶつけたに違いない。彼の心を抉る刃のような言葉だったのだろうか。それとも、心から彼のことを思った、甘い慈悲の言葉だったのだろうか。
それでも、彼は何でもないとばかりに笑っていた。表情の薄いつくりものの顔を精一杯笑顔にして、楽しそうに笑っていた。
「永遠ってのは、何も変わらないってことだろ。ぞっとしないな。それなら、私は自分で終わり方を選ぶよ」
「それが、ハッピーエンドでなかったとしても?」
「それが、ハッピーエンドでなかったとしても、だ」
大げさに君の口調を真似て、彼は言う。彼は人の物真似が上手だった。それだけは、僕も何となく知っている。
「ナイフか泡沫か――残された選択肢が何であれ、私は私である限り、自分の選択を信じるのみさ」
そして、彼は続けて君に向けて言ったのだ。
「アンタだってそうだろう? アンタはいつも、とびきりの終わり方を探してる」
「……そう、見えますか」
「見えるよ。アンタも、アンタの双子の兄貴も。私の目を通せば、そうやって必死に足掻いてるように見える」
それが好ましくもある、と彼は付け加えた。その言葉を受けて、君は苦笑する。他の表情を、思いつかなかったのだろう。
「何だか、面と向かって言われるとこそばゆいですね」
「ま、私はアンタのことは嫌いだけどな。だが、そこだけは評価してるってことさ」
彼は、笑みを深めて、音もなく立ち上がる。
「それじゃ、私は行くよ」
「どこへ?」
「さあ、どこへだろうなあ」
愉快そうに笑った彼は、黒い外套を翻してその場を去った。君は、残された空のグラスを見つめて……もう、二度と会うことのない彼のこれからを、考えていたのだろう。
でも、ここからは、彼の物語で――君も知らない、物語。
うたかたの断章