乱れた寝台で、わたしは目を覚ましました。
 どうやら、一日中泣き明かしてしまったようです。服すら纏わず、ただ、タオルケットだけを被ったはしたない姿で。
 けれど……、どうして、そんなに悲しい思いをしていたのでしょうか?
 まだ、ほろり、ほろりと涙は頬を伝って落ちるけれど。
 ぽっかりと、胸に穴が開いたような感覚だけがそこにあって、けれど、何を失ってしまったのかは、わたしにはどうしてもわかりませんでした。
 わたしの手には、一振りの鋏が握られていて、それから、床には……、明らかにわたしのものではない、長い黒髪がばらばらに落ちていました。
 一体何があったのか、わたしにはわかりません。わからない以上は考えても仕方のないことだと思うしかありませんでした。この学園では、時々、不思議なことが起こるものです。おんなのこが魔法を使えるように、ありとあらゆる不思議が、起こりえるものです。
 とにかく、部屋をきちんと片付けなければなりません。
 今日が休息日でよかったと思いながら、タオルケットで涙を拭って、まずはきちんと服を着ようと思ったところで……、ふと、胸元に刻まれた「しるし」が目に入りました。少しだけ紫を帯びた、赤い「しるし」。くちびるの、痕跡。
 それを目にした途端、やっと止まったと思った涙が、頬を伝って落ちました。
 なにか、わたしにとって大事なものが、この「しるし」を残したまま、消えてしまった。
 それだけは、確かなこと、であったはずなのに。何一つ思い出すことができなくて、私はまた、その場にしゃがみこんで、「しるし」の微かな痛みを感じながら、とめどなく涙を流すことしかできませんでした。
 
 
 
 
 翌日の朝のホームルームで。
 ひとりのおんなのこが「いなくなった」のだと、先生は言いました。
 けれど、誰もが不思議そうな顔をするばかりでしたし、わたしも不思議に思うだけでした。
 何せ、そんなおんなのこの名前を、聞いたこともありませんでしたから。
 ただ、不思議と。
 
 ――なきどり、さよ。
 
 その響きは、わたしの耳の奥に染み入るようでした。
 ああ、ひとりいなくなったなら、おんなのこのお墓を作らなければなりません。いつからかは忘れてしまいましたが、それが、わたしの役目なのでした。
 お墓の準備に必要なのは、おんなのこの材料であるお砂糖とスパイス、それから……、墓標には何を飾りましょうか。ふと、鞄を見れば、何故か普段入っていないはずの鋏の柄が覗いていて。何となく、これがそのひとの墓標に相応しいように思えました。この鋏はわたしのもの、のはずですが、きっとそれがいいという不思議な確信がありました。
 ならば、もうひとつ、埋める「すてきなもの」も決まっています。
 つまらない授業を終えて、放課後のチャイムが鳴ったらお墓を作りに行きましょう。
 墓標は鋏、埋めるものはお砂糖とスパイス、それからわたしが大好きだった、あのひとの鴉の濡れ羽色の髪。
 ……あれ、わたしは今、何を考えていたのでしょうか?
 ちらり、ちらついたおぼろげな「おんなのこ」の輪郭を振り切るように、軽く首を振って。
 
 わたしは、一時間目のチャイムの音を、聞く。