遠い未来がここにある

『先生』カーム・リーワードはだらしなくてサボり癖が酷くて酒と女が大好きなどうしようもない人ですが、こと「作家として」は尊敬すべき点が多々あると、担当ネイト・ソレイルは認識しています。どのように培ってきたか想像もつかないほどに広範な知識や経験は、戦中の軍人たちを描いた著作『霧の向こうに』に遺憾なく発揮されています。
 ですから、その言葉には一瞬耳を疑ったのでした。
「私的な旅行はこれが初めてなんですよ」
 記憶の限りでは、と。女王国縦貫鉄道全線開通記念特別列車のチケットを手にした先生は、少年のような顔をして言ったのでした。
「楽しみですねぇ。鉄道旅行なんて贅沢、遠い、遠い未来の話だと思っていましたから」