幸福偏執雑記帳

あざらしこと青波零也のメモ的なものです。

時計うさぎの不在証明23件]

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みすきーで書いたメモ転記しとこう。まだ覚えてるけど未来の自分は忘れかねない……。

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自作のゆるふわ現代ミステリ『時計うさぎの不在証明』の主役格の二人(そして前日譚で+一人)、「苗字漢字二文字+名前漢字一文字」に自動的になってるなぁ(意識はあんまりしてなかった)。
八束結、南雲彰、それから雁金至。

己のありさまにより人と人をむすびつける「結」と、全ての真相をあきらかにする「彰」のコンビです。
ミステリっぽいネーミングになっておりお気に入りです。
読み自体はかつてTRPGで同卓した同期のキャラのお名前を拝借してるんですが……。
頭の回転が速い一方で人間性にやや難ありの人間スパコン八束結と、その八束をフォローする人当たりのよい南雲彰のコンビなので、逆っぽいといえばそうなんですが、それも含めてちょっとした捻りがあります。
苗字はいつも適当(南雲なんて確かリアルの先輩の名前拝借した気がする)なんですけど、八束は「結」からの連想で「束ねる」だった気がします。たくさんの人と人を束ねるもの。

なお前日譚での南雲の相方・雁金は「至」なのでたどりつくもの、ですね。真相にたどりつくもの、もしくは。
苗字の雁金は元々TRPGのキャラとして作ったので「鳥の名前縛り」が入っててこうなってます。

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いいよね、ゆいとあきら。本当は同卓したPCのお名前だったのだけど、こっそり拝借してます。
文字は違うし(元々は「唯」と「晶」)、そもそもどっちも女の子の名前なんですけどね!
今となっては、とけうさの二人はこの名前じゃないとしっくりこないな~となります。
八束と南雲の漢字の意味が逆っぽいのはやや意図的で、最終的には名前通りの役割を果たす予定です。
そして、最近作った方の雁金の名前もかなり好きなのだよなあ。
いたるもの、たどりつくもの、もしくは、「至らない」こと。

#時計うさぎの不在証明
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らくがき、とけうさ本編の八束と南雲

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さっき過去編の南雲描いたけど、きちんと延長線上になってるだろうか……。
それにしても描き終わるのが日付変更ぎりぎりになってしまった。
もうちょい早く描けるようになりたい! という気持ちを込めながら寝るのだわ。
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#時計うさぎの不在証明
#あざらしおえかき
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らくがき、とけうさ過去編の雁金と南雲

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Misskeyのヘッダー用。
雁金の顔をきちんと画面に収めようとすると南雲が見切れまくって「南雲!!!!!!」ってなってた。
南雲はこれで背中をめちゃめちゃ丸めている。
やはり身長差約20cmは伊達じゃないな……。

ヘッダー、すぐ飽きるだろうし、飽きたら別の絵になると思うけれども、とりあえず……。
でもアイコンの色味も含めて、表示がめちゃめちゃかわいい。
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#時計うさぎの不在証明
#あざらしおえかき
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とけうさ版の雁金とロワさん。

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ロワさんにダンスレッスンしてもらいたい~の気持ちで描いてた。
DoAでも確か「僕はダンスは踊れないよ」って空気読めない発言してたので手取り足取りしてほしい~!!
ただこの雁金って人、ダンスを格闘技か何かと思ってそうな節ある。
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#時計うさぎの不在証明
#あざらしおえかき
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らくがき、とけうさ雁金

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なんか……もっと……時短できないか……!?
まだトーンと和解できてない感じはする。
下書きだけでもめちゃ時間かかってるのはそうなんだけど~色塗りでもうちょい時短できたらいいな。
朱鷺羽は60線トーンで描いたけどこれは70線トーン。
(ここに置いてあるのは縮小しちゃってるから正しく出てないけど……)
あとやっぱりベクターレイヤーの存在はありがたいな。
細めの線で描いておいて、後で強調したい線だけ太くできるのほんとに偉いぞベクター……!

雁金はやっぱりこのツラで一人称が「僕」なのがすごくお気に入りなんだよな。
僕って言いそうにないツラに描けている(自分の中では)のでヨシ!
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#あざらしおえかき
#時計うさぎの不在証明
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らくがき、過去編の南雲と雁金

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せっかくEX買ったので、早速LT変換の実験!!
お部屋だけじゃなくて3D人形も一緒に抽出しちゃって失敗したかな~と思ってたんだけど、実際には影の付け方のモデルになったからかなりよかった。
ただ次やるときは別々に出した方がたぶん時短になるな……。
あと今日は消しゴムでベクター線の交差した部分だけをピンポイントで消せる機能があるという事実を知り驚愕している。
南雲の髪の毛でめちゃめちゃ苦戦してたのだが!? そんな機能あったの!?
南雲、髪の毛がくるくるしてる上に眼鏡と重なったりしてカオスが深いので……交差部分消せるなら圧倒的にベクターだよ~!
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#あざらしおえかき
#時計うさぎの不在証明
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らくがき、八束と南雲

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今日からクリスタ!
これはとりあえずクリスタ練習のための一枚。無事描けてよかった~!
ただしポーズはイージーポーザーに頼ってるのでこの次から全体的にクリスタにできるとよいな~。
ただクリスタの3Dデッサン人形、目の位置がわかりづらいんだよなあ!
顔モデル併用するか……。
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#あざらしおえかき
#時計うさぎの不在証明
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らくがき、とけうさ過去編雁金と南雲

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#あざらしおえかき
#時計うさぎの不在証明
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らくがき、とけうさ過去編雁金と南雲

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所要時間は下書き(人形の準備なども含めて)1時間、清書と色付けで4時間。
二値ペンのざりざり感悪くないな~。
ちなみに南雲の髪の色や目の色が薄いのは生まれつき色素が薄めであるため。
髪の毛染めてるわけではないのだけど、たぶん学生時代も警察入ってからもいろいろ言われただろうな、の気持ち。今より古い時代の人なので、なおさら……。
本編はスキンヘッドだからわかんないとこあるね……。
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#あざらしおえかき
#時計うさぎの不在証明
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らくがき、バーテンダー見習いの雁金

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髪下ろしててもいいかなと思ったけど、こいつの性格的に仕事中は上げそう。
中途半端な長さにしてると、かなり癖が強いためあちこち跳ねちゃいそうというのが大きい。
南雲は癖っ毛を上手く生かしてかわいくしてたけどこいつは無理、の気持ち、でかい。
(ので、警察にいたころは >>746 の長さから伸ばせなかったのだろうな……)
たぶんオフのときは髪下ろしてラフな格好してるから全然印象が変わりそう。
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#あざらしおえかき
#時計うさぎの不在証明
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らくがき、とけうさ過去編雁金線画

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#あざらしおえかき
#時計うさぎの不在証明
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おでかけして、あったかいものもぐもぐしながら創作のおはなししたら少し身体も楽になった! よかった~!

ほんとはいまさら文芸部には南雲と雁金の話(とけうさ過去編)を書きたかったのだよな~ということをいまさら思い出していた。
だいたい80000文字くらいで……(上限じゃねーか)
次回は書けるかな。書けたらよいな。

過去編は、そもそも事件が思いつかないという致命的な部分があり、そこさえどうにかなればあとは南雲と雁金が勝手になんとかしてくれると思うのだけど(これはとけうさ本編もそうだけど……)。
あと、まだ南雲と雁金のお互いへのスタンスが頭の中ではっきりしてないところはあり、書いてみないとよくわかんないとこはある。
ただ、南雲と雁金だと雁金の方がまともそうに見えて、実際のところクレイジーなのは間違いないんだよ。南雲は態度こそちゃらんぽらんだけど、常に雁金の見えないリードの端っこを握っている。ドッグトレーナーか?(そうかもしれない)

南雲と雁金、お互いにお互いに対して恩義があるので基本的には対等。
雁金はなんだかんだで自分にできる範囲でめちゃめちゃ南雲に便宜を図るし、南雲は雁金のちょっとクレイジーめな部分をフォローしている。
このあたりは明確に「教えを請う立場」である八束とはちょっと違うわけで、そういう違いが出せると……よいな!

#時計うさぎの不在証明
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●番外編:チョコレート・パラノイアその後

「南雲くん、嬉しそうですね……」
「そう見えます?」
 来客用ソファに寝そべって長い脚をぶらつかせる南雲彰は、普段通りの死人のような顔色に仏頂面、という「嬉しそう」という言葉とは完全に無縁な顔をしていた。
 しかし、五年間南雲を観察し続けてきた神秘対策係係長・綿貫栄太郎は「ええ、とても」と深々と頷いてみせる。
 人一倍豊かな感情を抱えながら「表現する」という能力を欠いて久しい南雲は、それでも意外なほどにわかりやすい男である。表情ではなく全身で感情を表現する犬や猫のようなものだと思えばわかりやすい。
 というわけで、南雲は今、かわいらしい小さな箱を、天井に向けて伸ばした手に握り、綿貫にしか見えない架空の尻尾をぶんぶんと振っていた。相方の八束ほどではないが、南雲も比較的犬っぽいところがある。ごろりと転がったきりなかなか動かないところは、犬というよりアザラシのようにも見えるが。
 スキンヘッドに黒スーツという恐ろしげな見かけに反し、かわいいところもある――というか実際は女子高生みたいな感性の持ち主だ――部下に、綿貫はほほえましさを覚えずにはいられない。
「それ、八束くんにもらったんですか」
「そうですよー。あの八束ですよ? バレンタインって言葉もろくに知らなかった、あの八束ですよ?」
 仏頂面ながら、南雲の声は弾んでいた。どうやら本当に嬉しいらしい。とはいえ、そこに含まれる喜びは「女の子からチョコレートをもらった」という喜びではなく、「バレンタインのバの字も知らなかった同僚がついに人並みに行事に参加するようになった」ことへの喜びであることは、あえて南雲に確認せずとも明らかだった。
 ちなみに南雲はこれで女性から貰うチョコの数には困っていない。ただし、その全てはいわゆる「友チョコ」というやつらしい。何しろ昼休みに女性職員のガールズトークにしれっと混ざっているような男だ、要するに男だと思われていないのだろう。
「僕も八束くんから貰いましたけど、南雲くんのとは別のチョコみたいですね」
 綿貫は南雲にも見えるように、箱をかざしてやる。中に入っているのは、トリュフチョコレートが三つ。本当は四つだったのだが、一つは既に綿貫の腹の中に収まっている。「甘いものは本腹、そして本腹が満たされたら別腹、別腹が満たされる頃には本腹が空いてる」という謎の永久機関を提唱する超甘党の南雲ほどではないが、綿貫も甘いものは好きなのだ。
 南雲は物欲しげに綿貫のチョコレートを睨んだが、流石に人のものを奪わない程度の節度はあるらしく、上体を起こして自分の箱に視線を戻す。
「じゃ、こっちの中身は何なんでしょね」
 本人に確かめようにも、八束は今日の事件の後始末を終え、既に帰宅している。仕事もないのにだらだら残っている南雲の方がおかしいのは、気にしてはいけないお約束である。
「気になりますね。見せてもらえますか?」
「いいですよぅー」
 南雲は箱にかかっていたリボンをはずして、鼻歌交じりに箱を開く。
 そして、速攻で閉じた。
「どうしたんですか?」
「……なんか、いたたまれなくなった」
 南雲は、ぼそりと呟いた。そして、ソファから身を乗り出して、そっと綿貫にチョコレートの箱を差し出す。
 綿貫は南雲から箱を受け取ると、恐る恐る蓋を開ける。
 すると、六対の目が綿貫を見上げてくる。
 そう、それはチョコレートだった。確かにチョコレートだった。
 ただし、綺麗な球面を描くチョコレートは全て、デフォルメされた動物の顔をしていた。ワンちゃん、ウサギさん、リスさん、パンダさん、ブタさん、そしてアザラシさん……。かわいいチョコレートの動物たちが六匹、蓋を開けた者をじっと見つめているのである。そりゃあもう、きらきらと光るつぶらな瞳で。
「いたたたたまれないでしょ」
「確かに……。やたらかわいいですが」
「かわいい。めっちゃ好み。俺の趣味を反映させられるまで八束の気遣いレベルが上がってたのにもびっくりだけど、でもさあ」
 ――これ、食べるのめっちゃ躊躇われますよね?
 南雲の問いに、綿貫は重々しく頷くことしかできなかった。
 
 
 翌日、八束に「食べてくれないんですか?」と潤んだ子犬の目で見つめられ、「ごめんな……」と呟きながらチョコをもぐもぐしていた南雲がいたとかなんとか。
 ――後に聞いたところによると、とても美味しかったそうだ。
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#時計うさぎの不在証明
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●番外編:煮込みハンバーグを作るだけ

 キッチンに立つ南雲彰の横に、ジャージ姿の八束結がちょこちょこと寄っていく。今まさに人を殺してきたような凶相に剃り跡一つ見えないスキンヘッド、という極めてその筋の人らしい南雲であるが、今日に限っては猫のアップリケと足跡の模様がかわいらしい、フリルつきのエプロンを身に着けていた。
 そんな、どこからどうツッコミを入れるべきか悩ましい姿の南雲は、相変わらずの仏頂面で食器を拭き、棚に戻しているところだった。仕事しないことに定評のある南雲だが、こと「仕事以外」に関しては嫌な顔一つせずてきぱきこなすのがこの男の奇妙な特徴の一つである。常に「嫌な顔」をしているように見えることに関しては、八束もノーコメントを貫くことにしている。この男の顔と内面が一致していたことは、今まで一度も無いのだから。
「南雲さん、これから何を作るんですか?」
「んー、何作ろうか考えてたとこ。何が食べたい?」
 最後の皿を棚にしまいながら、南雲がのんびりとした声で問いを投げ返す。八束はこくんと首を傾げて、数秒ほど答えを考えた後に、背筋を伸ばして答える。
「今のところ希望はありません」
「そう言われるのが一番困るんだけどな。あと、八束」
「はい」
「何で俺ん家にいるの」
 ――当然の問いであった。
 流石に、八束もその質問は予測していたため、正直に答える。
「今日は、真さんのお部屋でお泊り会なのです」
 ちなみに、真は南雲の妹である。八束と同い年である彼女は、ある日偶然八束と知り合い、色々あった結果、八束と真は休みの日に買い物に行ったり、時にはお互いの家に招き招かれる程度の関係になった。八束にとっての、数少ない友人というやつである。
 というわけで、今日は八束が真の家――つまり南雲の家に招かれ、当たり前のようにそこにいるのであった。
「そう、ならごゆっくり。とりあえず、今日の夕飯は煮込みハンバーグにしようか」
 そして、南雲も、別段八束がそこにいようがいまいが、やることは特に変わらないのである。
「煮込みハンバーグですか。煮込み料理ということは、時間がかかるものでしょうか」
「真面目にやればそりゃかかるけど、手抜けばそこまでかからないよ。作り方見とく?」
「はい。後学のために」
「後学って言葉がまた硬いなー」
 言いながら、南雲はまな板を置き、冷蔵庫の中から玉ねぎとにんじんを取り出し、それぞれ皮を剥いてざくざくと切る。
「切り方は」
「適当。っていうかお好み」
 そして、まずは玉ねぎを耐熱容器に入れ、ラップをかけてレンジに放り込む。
「温めるです?」
「温めるのです。こいつら真面目に火を通そうとすると時間かかるから」
「にんじんは入れないのですか?」
「途中で入れる。個人的ににんじんは形残ってる方が好きだから、型崩れしない程度に温めたいんだよ」
 その間にとボウルを取り出し、用意されるのはパン粉とひき肉二パックと卵一つ、それから、袋に入った――。
「お麩」
「こいつをパン粉とか卵と同じように、つなぎとして使う」
 そうすることで、普通に作るよりも柔らかく、また全体に対する肉の割合が減るためヘルシーに仕上がるのだという。お麩自体にはっきりとした味がついているわけではないので、肉の味を邪魔することもない。
「ハンバーグには玉ねぎを入れると聞いていましたが」
「それはお好み。入れなくてもお麩入れとくと比較的柔らかく仕上がるから、今日は入れないやり方でやる。というわけで、それ適当にもにもにしといて」
 ジッパーつきの袋にお麩を放り込んだ南雲は、内側の空気を抜いてからしっかりジッパーを閉め、八束にそれを押し付ける。八束は、それを掌でぐいぐい押しながら、南雲に問う。
「これらの分量は」
「適当」
「南雲さん、さっきから『適当』ばかりですね」
「正直、きちんと計測とかしたことないから、説明のしようがないんだよな。それに、八束なら見れば覚えられるでしょ」
 フライパンをコンロの上に用意し、次いで取り出した大きめの鍋の半分くらいまで水を入れながら南雲は言う。この水の量も聞くまでもなく「適当」なのだろう。
 常日頃から料理を日課としている南雲にとっては、適切な分量というのはわざわざ計測するまでもなく、感覚として身についているものらしい。というわけで、手順さえしっかり見ておけば、南雲の言葉は聞いても聞かなくても問題ないことがよくわかった。
「で、その間にソースの用意を始めとく。こっちの鍋の水を、とりあえず沸騰させる」
 言いながら水の入った鍋を火にかけ、ついでとばかりにレンジに向かい、いい具合に温まっていた玉ねぎの器ににんじんを投入し、再びラップをかけ直してレンジに戻した。その間に、八束の手の中にあったお麩は、元の形を失いつつあった。
「大体形が崩れました」
「じゃあ水を加えて更にもにもにしよう」
「水、この袋に直接入れちゃうんですか」
「入れちゃっていいよ」
 そんなわけで、袋の中に水を加えてさらにお麩を揉む。すると、もはや何だかよくわからないもにもにした塊が出来上がった。それを確認した南雲は、袋から出したお麩の塊をボウルに移し、先ほど用意したハンバーグの具材もボウルに投入。軽く塩胡椒してから一緒に混ぜ始める。
「ここで、少し固かったら水を加える。多少にちゃにちゃするくらいでいい」
 そうして出来上がったハンバーグの種を、手の中で空気を抜きながら丸く形を整え、フライパンの上に並べる。
「今回は煮込みハンバーグだし、形は多少イビツでもいいと思ってる」
 そんなわけで、半分ほどの種がハンバーグとなりフライパンの上に揃った。南雲がそのまま火をつけるのを見て、八束はこくんと首を傾げる。
「サラダ油は入れないんですか? 焦げ付きませんか?」
「肉から油出るし、きちんと様子見てれば平気」
 フライパンの蓋を閉め、流れるような動きで沸騰していたお湯の方に移る。
「こちらがソースです」
「お湯ですが」
「これからソースになるよ。って言ってもベースはどこにでも売っているこちら」
 棚から取り出したのが、市販のビーフシチューのルーだ。八束も、スーパーでよく見かける箱である。ただ、ちらっと見えた棚の中には、何故か各メーカーの、それこそ八束が見たことも無いメーカーのルーまで揃っていたので、多分、食べ比べたりしたことがあるのだろうなあ、と内心思わずにはいられない。南雲の料理は日課ではあるものの、半分くらいは彼にとっての道楽であることも、八束はよく知っていたから。
「これを溶かせば、確かに煮込みハンバーグのソースらしくはなりますね」
「でも、これだけだと完全に市販のお味になるんで、ルーを投入する前後に手を加える」
 言って、別の棚から次々と調味料を取り出す南雲。このキッチンには、一体どれだけの材料が隠されているのか、八束は不思議で仕方ない。何しろ、八束の部屋にはカロリーメイトとサプリメントとミネラルウォーターしか常備されていないのだから。
「固形コンソメを、この量ならとりあえず二個かな……」
 本当に適当らしいことを呟きながら、南雲はぽいぽいとコンソメを投げ込み、お湯に溶かす。
「で、冷蔵庫にセロリがあったのでこれも入れる」
「何を入れてもいいんですか」
「相性さえ合えば別に何でもいいと思うよ」
 手際よくセロリの茎の部分を切って、鍋の中に放り込む。そして、次に取り出したのはにんにく一欠け。これをさくさくとみじん切りにして、即座に鍋に投入。
「にんにくですか?」
「うん。これは本当にちょっとでいいんだけど、入れると風味が結構変わるんだ」
 そして、電子レンジに放置されていたにんじんと玉ねぎを投入。ある程度煮立ったところで一旦火を弱火にして、ルー一箱分を投入して、ついでにとばかりにローレルも三枚ほど入れる。
「これだけですか」
「基本はこれだけ。ルーがちゃんと溶けたかどうかは確認しないとだけど、野菜は火が通ってるから、そこまで気を遣って煮込む必要は無い」
 喋りながらも南雲の動きは止まらない。フライパンの蓋を開け、ハンバーグの片面がいい感じに焼けたのを確認して、ひっくり返す。フライパンの内側には、種を熱したことによって蒸発した水分と、肉から出た油が付着している。
「確かに、油はあえて入れなくても大丈夫なんですね」
「ついでに、焼き色ついてなくても、火さえきちんと通ってれば大丈夫」
 もう片面にも焼き色がつき、火が通ったことを示す透明な肉汁がふつふつ出ているのを確認し、ハンバーグを鍋にぽいぽいと放り込む。そして、第二弾のハンバーグを仕掛けて再び蓋を閉める。
「これで、次のハンバーグが焼けたら大体おしまい。あとはちょっととろみが出るまで煮込んで、一旦火止めて、食べるときに温めればいい」
「確かに、手順自体はそこまで難しくないんですね」
「そ。あと、今回はケチャップ入れておこうか」
「ケチャップ……、ですか?」
「ん、入れすぎるとただのケチャップ味になっちゃうけど、ある程度入れる分には、いい感じの酸味と甘みが加わっておすすめ」
 冷蔵庫から取り出したケチャップを、やはり特に分量も確認せず無造作に投入する。それでも南雲の手つきに迷いはないので、感覚的に理解している領域なのだろう。そのままではケチャップがそのまま沈んでいるだけなので、ハンバーグが崩れないよう、慎重に鍋をかき混ぜる。
 ある程度ケチャップとソースが混ざり合ったところで、南雲がお玉にすくったソースを小皿に移して、八束に示す。
「味見してみる?」
「はい」
 八束は素直に頷いて、小皿のソースを舐める。しばし舌の上でその風味を確かめ、飲み下して南雲を見上げる。
「美味しいのですが、とてもケチャップ感があります。ビーフシチューとケチャップが、それぞれ存在を主張しています」
「まだそうだろうね。でも、しばらく煮込んでおくと馴染むよ」
 南雲は下手くそな鼻歌を歌いながら、焼けた第二弾のハンバーグもぽいぽいと鍋の中に入れ、更に煮込み続ける。火が通ってきたからか、先ほどよりも随分とろみが増して、ソースらしくなってきた気がする。
 そのまましばらく弱火でとろとろ煮込んだところで、南雲はもう一度小皿にソースを取って、八束に渡す。八束は先ほどのケチャップ味を思い出しながら、ぺろりとソースを舐め取って、はっとする。
 先ほどまであれだけ存在を主張していたケチャップがいつの間にか姿を消し、微かなトマトの香りと、後味としての爽やかな酸味だけが残っていたのだ。
「さっきと全然味が違いますね!」
「でしょ。これが『味が馴染む』ってこと。完成品だけ食べてると、案外こういうのってわかりづらいけど」
「興味深いです。ここまで大きく変わるとは思いませんでした」
 南雲はその言葉に満足げに頷いて、八束の頭をぽんぽんと叩く。
「八束は味覚しっかりしてるから、基本さえ覚えれば応用も出来るでしょ。どれを入れればどう味が変わる、ってのがわかれば料理ってそう難しいもんじゃないし、この『変化』が何より面白い」
「南雲さんは、料理を純粋に楽しまれているんですね」
「そうだね。面白くなきゃやらないもん」
 なるほど。ことこと煮込まれてゆくハンバーグを見ながら、八束は内心で深く頷く。
 南雲にとって、料理を含めた諸々の行動は「面白い」という一点で全て説明できるものなのだ。自分で「面白い」と思うことさえできれば、それが何であっても熱心に取り組むことができるというのは、この男の最大の美点であるといえよう。
 ――とはいえ。
 八束は、こちらをぐりぐり撫でてくる南雲を真っ向から見上げて言う。
「その『面白さ』を、仕事にも見出してくださると嬉しいのですが」
「無理」
「ですよね」
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●番外編:やつぐもグルメ

▼熱に弱い

 酷く暑い朝。対策室の扉を開いた八束は、硬直した。
「おはよー、八束」
 ソファの上に巨大スライムが鎮座し、しかも相棒の南雲の声で喋ったから。
「どうしたんですか!」
「暑くて溶けた」
「治るんですかそれ」
「うん。冷凍庫のアイス取って」
 慌てて青いアイスを取り出し、スライムに渡す。
「あと、どうすればいいですか?」
 もしゃり。見えない口で確かにアイスを咀嚼したスライムは、重々しく言った。
「かき氷食べたい」
「それで、元に戻るんですか?」
「溶けたら冷やして固めるものだよ。あ、スイカバーも食べたいなー」
 
 
「……という夢を見ました」
「夢でもぶれないねえ、俺」
 南雲は、八束が夢の中でも見た、ソーダ味のアイスをもぐもぐしていた。
 
 
 
 
▼南雲臨時講師

 南雲せんせい、と声をかけてきたのは、八束も何度か世話になっている、職員の女性だった。
 八束の横で眠そうにしていた南雲が、重たげに頭を上げる。
「あー、高橋ちゃん」
「教室再開してくださいよ、みんな待ってるんですよ!」
「最近サボっちゃってたもんな。そろそろまたやる、って皆に伝えといて」
 高橋は、俄然顔を輝かせて頷き、小走りに駆けていく。
 その背中が見えなくなるまで見送った後、とりあえず、最大の疑問を南雲に投げかける。
「教室、って何ですか?」
 
「一人暮らしの味方、安くて早くておいしい手作り弁当教室。毎週水曜昼休み開講、受講料はお菓子一つ」
 
「……南雲さん、刑事より絶対そっちの方が向いてる気がします」
「知ってた」
 
 
 
 
▼やつづかのお願い

「南雲さん、お願いがあります」
「仕事以外のお願いなら」
「仕事してください」
 いつも通りのやり取りの後、八束は持っていたチラシを渡してきた。南雲は、分厚い眼鏡の位置を直し、普段から細い目をさらに細める。
「うちの近くのスーパーか。これがどうしたの?」
「こちらを見てください」
 八束は、チラシの隅の一点を指す。
 
 カロリーメイト、五個セット安売り。
 おひとり様一セット限定。
 
「……つまり、お前の買い出しに付き合えと」
「はいっ!」
 八束の主食はカロリーメイトであり、副食はサプリメントである。
 南雲は、そんな食生活の何が楽しいのだろうと思いながらも、期待に満ちた目で見つめる八束の頭を撫でた。
「しょうがないなー、八束は」
 
 
 
 
▼君とシュークリーム

 ソファに腰掛けた八束は、シュークリームを手に取る。
 
 南雲行きつけの洋菓子屋『時計うさぎ』のシュークリームは、表面さくさく内側しっとりのシュー皮に、微かに洋酒が香るカスタードクリームがたっぷり詰まった、特別な味わいだ。
 大きめのそれに、口を広げて食らいつく。
 クリームが漏れないように気をつけていても、なかなか上手く食べられない。
 隣の南雲は慣れたもので、ぺろりと一つ平らげたかと思うと、二つ目に手を伸ばしていた。
 そして。
「クリーム、ついてるよ」
 人差し指で、八束の唇の端をなぞる。
 冷たい感触に一瞬瞑った目を開けると、南雲が、指先のクリームをぺろりと舐め取ったところだった。
「おいしいね」
「はい、おいしいです」
 
 
 
 
▼豊かな人生の第一歩

「今日から、八束食生活改善プログラムを開始しようと思う」
「本当に、いただいていいんですか、南雲さん」
「毎朝家族の分も作ってるからな。一つ増えたところで変わらないよ」
 言いながら、正面の席に座った南雲は「どうぞ」と八束に弁当箱を差し出す。蓋に描かれたピンクのクマさんは、南雲の趣味以外の何物でもないだろう。
 かねてから八束の「必要な栄養を取る」だけの食生活に対し「食事は単なる栄養摂取手段ではなく、人生を豊かにするものだ!」と柄にもなくエクスクラメーションマークつきで力説していた南雲が、ついに八束の食生活改善に乗り出したのだ。
 その第一歩が、昼食の提供である。
 恐る恐る、弁当箱の蓋を開けてみると、目に飛び込んできたのは、色とりどりのおかずに、かわいらしく飾られたおにぎり。しかも、目を楽しませるだけでなく、八束がざっと脳内ではじき出した計算が正しければ、栄養のバランスもよく考えられている。八束を納得させるポイントをきっちり抑えてくる辺りは流石である。
 ほう、と。息を漏らし、自分の弁当の蓋を開ける南雲に視線を戻す。
「南雲さんって、本当に器用ですよね」
「そんなことないよ。八束みたいに、何でもかんでも見よう見まねでできちゃうわけじゃない」
「それでも、好きなことや大切なことを形にして共有できるというのは、わたしにはない、南雲さんの才能だと思います」
 南雲は、一瞬眼鏡の下で目を見張って、それからふいと視線を逸らした。
 もしかして、また変なことを言ってしまっただろうか。ひやひやしていると、そっぽを向いたままの南雲が、ぽつりと言った。
「ありがと」
 ……どうやら、怒らせたわけでは、なかったらしい。
 内心ほっとしながら、手を合わせる。南雲も八束にならうようにして、両の掌を合わせて。
 
『いただきます』
 
 
 
 
▼もう一度、彼に

「シュークリームを六つください」
 
 声をかけてきたのは、洋菓子屋には似合わない、スキンヘッドにスーツ姿の無愛想な男。
 しかし、店主にとっては見慣れた顔だ。
「最近、よく来てくださいますね」
 ん、と。仏頂面のまま、男が頷く。
「ここのお菓子を、気に入ってくれた子がいて」
「ありがとうございます」
 喜ばしいことだ。店主にとっても、男にとっても。
 店主は知っている。かつて、この男がある女性と笑い合っていたことも、その女性が消えて、男が心を殺したことも。
 だから。
「一つおまけしますよ」
「いいの?」
「ええ。ごちそうしてあげてください」
 まだ見ぬ誰かが、男のかつての笑顔を取り戻してくれることを祈り、シュークリームを詰めてゆく。 
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#時計うさぎの不在証明
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●番外編:ふぁふろつきーず

「趣味とは、生命維持には必要のないものかもしれない。しかし、人間社会の中で生きる以上、『生きがい』というものがなければ、ただ息をしているのと何も変わらない。つまり、人間が人間らしく生きるに不可欠な要素であって」
 八束結は淡々とキーボードで何度目になるかもわからない文字列を入力しながら、ちらりと視線だけをディスプレイの向こう側に向ける。八束の、必要最低限のものしか置かれていない、殺風景な机とは対照的に、正面の机の上は極めてカラフルであった。テディベアをはじめとした、手作りのぬいぐるみによって。
「もちろん、人によって趣味はそれぞれなわけだが、俺は手芸を推す。無心に手を動かしていれば、やがて意味のある形が見えてくる――。ばらばらであった要素から、一つのものを作り出すという喜びがそこにある」
 そして、そのぬいぐるみに囲まれているのは、剃り跡すら見えないスキンヘッドに、細い体を隙なく覆う黒スーツ、という堅気からかけ離れた身なりの男であった。その眉間には深く皺が刻まれ、黒縁眼鏡の下の目は不気味な隈に縁取られており、どう贔屓目に見ても今まさに人を殺してきたような顔をしている。
 が、その鋭く抉るような視線は、あくまで、手元の編み棒に向けられているわけで。
「編み物も当然そのうちの一つだ。毛糸という一本の頼りなくすら見える線が、面となり立体となるこの瞬間、俺は言いようのない感動を覚える。今、ここに生きていると感じるのだ。わかるか? 八束」
 そう言って、男――待盾警察署刑事課神秘対策係主任、南雲彰は仏頂面をこちらに向けてきた。この男、表情筋が死んでいるのか何なのか、常に不機嫌そうな顔をしているが、本当に不機嫌であることはほぼ皆無と言っていい。
 もしかすると、今のも、本人の中ではとびっきりの決め顔だったのかもしれない。
 とはいえ、今は仕事中である。かたかたとキーボードを鳴らしながら、あくまで視線はディスプレイに。要するに、八束は無視を決め込んだ。
 場に、重苦しい沈黙が流れた。
 しかし、南雲が机に突っ伏して「あー」と力なく呻いたことで、その沈黙はあっけなく破られた。
「構ってよやつづかー。南雲さんは寂しいと死んじゃうんだぞー」
「最近、南雲さんの言葉の九割は意味がないことを学びましたから」
「八束も、随分俺の扱いに慣れたねえ」
 八束が放った呆れ交じりの言葉にも、南雲は全く動じなかった。つれない態度も予測済みだった、ということだろう。
 待盾警察署の片隅に位置する神秘対策室には、今日もけだるい空気が流れていた。仕事といえば事務手続きばかりで、しかも、その仕事のほとんどは南雲が「新入りなら雑務にも慣れていただかないと」とほざいて、堂々と八束に押し付けたものである。
 手の早い八束からすればそれすらも大した仕事量ではないのだが、それでも仕事を押し付けてきた張本人が横で仕事とは全く関係ない作業をしていると、流石にいらっと来る。
「そんなに生きがいを求めるなら、仕事しましょう、南雲さん。仕事も十分生きがいになりえます」
 その苛立ちを隠しもせずに言った、つもりだったのだが。南雲は意に介した様子もなく、つるりとした頭を机に載せたまま、器用に編み棒を動かし続ける。
「事務仕事とかめんどくさいじゃん。眠くなっちゃうよ」
「編み物も、十分眠くなれる案件だと思うのですが」
 どうも、南雲の中ではそれらは全く別であるらしく、眠そうに隈の浮いた目をしょぼしょぼさせながらも、熱心に編み物を続けている。
 八束が待盾警察署刑事課神秘対策係に配属されてから二ヶ月。遺憾ながら、これが当たり前の毎日になってしまっていた。
 恐ろしげな顔に似合わず手芸全般を趣味兼特技とするこの怪人は、仕事をほっぽり出して、日々新たな作品を生み出し続けている。ちなみに、作ったものは大概南雲の机を飾り、場合によっては八束や係長である綿貫栄太郎の机をも侵蝕しているが、時々数が減っているところを見るに、誰かに贈ったりもしているらしい。
 そんな、いてもいなくても仕事の進捗に関わらない主任を抱えて、八束が配属されるまで神秘対策係がかろうじて係として成立していたのは、ひとえに、大きな仕事がほとんど存在しないからだった。
 神秘対策係、通称「秘策」とは、待盾警察署独自の係であり、業務内容は「オカルトに属する事象に関する相談請負と解決」。魔法や妖怪、超能力といったオカルティックな現象が特別多い「特異点都市」待盾市において、人にも相談できない不可思議なものに悩まされる市民は、一定数存在する。そんな市民に手を差し伸べるのが、神秘対策係だ。
 無論、八束たちがオカルトを信じているわけではない。むしろ、その逆だ。待盾市の特異性を利用して、人知の及ばぬオカルトとして片付けられかけている事件。それらを、人の手による犯罪であると証明するのが、神秘対策係の本領である。
 とはいえ、そのトンデモ感とそもそもの知名度の低さから、神秘対策係の仕事は極めて少なかった。今、八束がパソコン上で処理している書類も、忙しくて書類仕事まで手が回らないという盗犯係の書類を代わりに捌いているだけで、神秘対策係本来の仕事ではない。
「やーつーづーかー、何か面白い話ないのー?」
「子供ですか! せめてちょっと黙っててください!」
 正直、この男が給料を貰っているのが理解できない。ついでに、公務員なのだから、それは市民の税金である。善良な市民がこの光景を見たら、十中八九この場にあるテディベアの首が全て飛ぶだろう。そして南雲がしくしく泣くだろう。想像するだけで鬱陶しい。
「ああ、そういえばさ、八束」
「何ですか? もう趣味と甘いものの話はなしですよ」
「仕事の話だよ。昨日、ファフロツキーズがあったんだって」
「ふぁふろ……、何です?」
 南雲は、一度編み棒を机の上に置き、机をカラフルに彩る要素の一つ、こんなところにあること自体奇妙な棒つき飴の卓上ディスプレイから、飴を一本引き抜きつつ言った。
「Fall from the skiesを略してFafrothskies。日本語では怪しい雨、って書いて『怪雨』。本来空から降ってくるはずのないものが降ってくる現象だな。八束は『マグノリア』って知らない?」
 マグノリア。まず頭に浮かんだのはその名を持つ花――木蓮だったが、文脈からすると、別のものを指しているのだろう。その音に引っかかるものをざっと脳内検索、南雲が意図しているだろうものを言葉にする。
「『マグノリア』って、映画ですよね? 見たことはありませんが、カエルがいっぱい降ってくるポスターは印象に残ってます」
「そ、ああいうのがファフロツキーズ。今日、綿貫さんはその相談を受けてるとか何とか」
「あ、だからいないんですね、係長」
 朝から対策室に綿貫係長の姿が見えなかったから不思議には思っていたのだが、おそらく、迷える市民の相談を受けているのだろう。相談役は、八束が配属される以前から、人当たりのよい綿貫が一手に引き受けている。
 係長に全て任せるのはどうかとも思うのだが、何しろ南雲は物腰はともかくこの見た目なので、相談に向かないどころの話じゃない。八束は一度だけ相談に立ち会わせてもらったが、その後一度も綿貫から声をかけられなくなった。つまり、そういうことである。
「それで、何が降ってくるんですか?」
「さあ。俺も詳しい話は聞いてない。一般的なのは、魚とかカエルみたいだけど」
 超常現象に「一般的」も何もないとは思うが。
 魚やカエルが空から降ってくるのを想像して、思わず苦いものを噛み潰した顔になってしまう八束に対し、南雲は棒つき飴をもぐもぐしながら、仏頂面のままぼんやりと虚空を眺めて言う。
「あー、でも、飴とかお菓子が落ちてくるなら、嬉しくなっちゃうなあ」
「いくら好きなものでも、空から落ちてきた得体の知れないものは食べたくないです」
「確かに、ものによっては口に合わないのもあるし、無差別はちょっと嫌だね」
「そうじゃありません」
 この男の頭は、甘いものと趣味でしかできていないのか。どうして曲がりなりにも刑事という肩書きを持っているのだろう、といつもながら不思議に思う。
「お菓子は横に置くとして、それって、どういう原因で起こるものなんですか? 流石に虚空から魚やカエルが生まれる、なんてことはないと思うんですが」
「諸説あるよ。一番有力な説は、竜巻とか上昇気流に乗せられたものが、上空を運ばれて降ってくるって話。でも、その現場を見た人はいないから、本当かどうかは謎」
 謎、というのは嫌な話だ。証明できないものは、否応なく八束を不安にさせる。この係の本来の目的は、オカルトを装うことで警察の手を逃れようとする者たちの犯罪を暴くことであって、本物のオカルトは八束の許容範囲を大幅に逸脱している。
 南雲も「流石にこういう出来事は、八束の手にも余るかもねえ」と、しかし緊張感もなくばりぼり飴を噛み砕きながら、編み棒を動かしている。自分で解決する気がさらさらない辺りが南雲の南雲たる所以である。
 と、その時、対策室の扉の向こうから、聞きなれた声がした。
「いやー、やれやれですよ」
 それと同時に扉が開き、係長の綿貫が入ってきた。どこか狐めいた細い目を更に細め、片手には紙袋を抱えている。開いた口から覗いているのは、八束も見覚えのある、最近発売されたチョコバーのパッケージ。
「係長、どうしたんですか、南雲さんじゃあるまいし」
 菓子イコール南雲、という認識の八束に苦笑を見せた綿貫は、南雲の机の上にどん、と紙袋を置く。南雲の机の上に、ものを置くようなスペースは存在しないので、何匹かのテディベアが下敷きになった。
「南雲くん、チョコ、お好きですよね」
「もちろん」
 即答である。
 綿貫は、そんな南雲の目の前で、紙袋をひっくり返す。すると、紙袋に詰まっていたチョコバーが机の上に溢れた。哀れぬいぐるみはチョコバーの海に溺れ――というか、チョコバーがぬいぐるみの海に沈んでいくようにも見えたが。
「これ、食っていいんすか」
 仏頂面ながら、眼鏡の下できらりと目を輝かせた南雲に、綿貫は何故か、少しだけ疲れたような顔で微笑みかける。
「ええ。どうぞ、八束くんも」
 そして、綿貫は袋の中に残った最後の一つのチョコバーを、八束に向かって無造作に放り投げる。少々慌てながらも無事チョコバーをキャッチした八束は、手元と綿貫を交互に見ながら、頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
 のそのそと奥の係長席についた綿貫を横目に、包装を剥いて一口。目の前の南雲は既に二本目に手をかけている。一本目をいつ食べたのか、八束は視認すらできていなかった。
 ともあれ、口の中に広がるのはチョコレートのほろ苦い甘さと、内側のさくさくとしたクランチの感触だ。独特の食感を確かめるように何度か咀嚼してから飲み込んで、最初に聞いておくべきだったことを、改めて問う。
「美味しいですけど、どうしたんですか、これ」
「ああ、降ってきました」
 こともなげに綿貫が言い放ったものだから、八束は、その言葉の意味を理解するのに、数秒を要した。
 ファフロツキーズ。本来空から降ってくるはずのないものが降ってくる現象。
「マジか、最高じゃん。現場どこっすか」
「南雲さん!」
 今までのゆるい態度が嘘であったかのように、素早く立ち上がる南雲。まさか本当に落ちてきた菓子まで食べるというのか。そこまで見境のない男なのか。いや、この男に常識が通用しないことくらい、八束も理解していたはずではなかったか。それはそれでどうかと思うが。
 すると、綿貫がくつくつ笑いながら言った。
「冗談ですよ、冗談。ただ、お菓子が降ってきたというのは事実なんですけどね」
「どういうこと、ですか?」
 さっぱり意味がわからない。ため息交じりに着席した南雲も、胡乱げな視線で綿貫に話の先を促す。
「昨日昼ごろ、菓子が降ってきたという報告があって、目撃者から話を聞いていたんですがね。先ほど、菓子の販売会社が訪ねてきまして、どうも新商品販促イベントとして、ヘリで上空から会場に撒くはずだったものを、誤ったポイントで少数撒いてしまったらしいということで」
 それが、風に乗る形でちょうど待盾に落下した、ということだったらしい。
 何ともあっけない解決に、八束も「は、はあ」と気の抜けた声を出すことしかできない。
「で、後始末は自分たちでやるとのことで、騒がせたお詫びとしてもらいました」
「なるほどー。得しましたね」
 南雲は三つ目のチョコバーの封を開けながら言う。だが、八束は渋い顔をせずにはいられない。
「……それ、収賄じゃないんですか、係長」
 けれど、綿貫はしれっとした顔で、人差し指を唇の前に立てる。
「ええ。そういうわけで、これは内密にお願いします」
 ――それでいいのだろうか。
 どうにも納得できない八束の目の前で、南雲は構わずもぐもぐチョコバーを食しているわけで。食べてしまったものを、返すわけにもいかない。難しい顔を続ける八束に対し、南雲はちらりと眼鏡の下から八束を見やり、ぽつりと言った。
「そんな怖い顔するなって。ばれなきゃ犯罪じゃないんだよ、八束」
「それ、警察官の発言として根本的に間違っていると思います!」
 八束のもっともな言葉に対し、南雲は大げさに耳を塞ぎ、綿貫はただ苦笑するだけで。
 八束は頬を膨らませながらも、食べかけのチョコバーを齧り取る。
 
 いくつもの不思議を抱える「特異点都市」待盾には、不思議の正体を暴く者がいる。
 それが、神秘対策係――通称「秘策」。
 ただ、彼らの毎日は、大概の場合、とことん怠惰で気だるいのであった。
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●番外編:はじめての風邪の日

「情けない……。風邪で寝込むなんて初めてです」
「いつも無駄に元気だもんねえ、八束」
 普段ならすかさず「無駄にとは失礼な」と言い返す八束結だが、今日ばかりはその元気すらないのか、畳に敷いた布団に横になったまま、申し訳なさそうに太い眉を下げた。
 そんな八束の熱い額に手を乗せ、南雲彰は濃い隈に縁取られた目を細める。八束の枕元には、差し入れとして持ってきた風邪薬の瓶が置かれている。
「ま、仕事も暇なんだ、たまにはゆっくり休みなよ」
 南雲の顔は仏頂面以外の表情を浮かべることはなかったが、いたわりの感情は八束にも伝わったらしい。八束は「すみません」と掠れた声で謝罪しながらも、小さく頷いた。
 それから、アーモンド型の目をくりくりさせて、南雲を見上げる。
「南雲さん、今日は休暇ではなかったと思いますが」
「俺が仕事をサボってるのはいつものことでしょ。俺がいなくても何も変わらないし」
 C県警待盾署刑事課神秘対策係は、多忙を極める刑事課に属しながら、主任の南雲が一日中編み物に励んでいても特に業務に差し支えはない、という怠惰極まりない係だ。何しろ、業務の九割は他の係が押し付けてくる事務手続きの手伝いだ。南雲がいなくても問題ない、というのはあながち誇張でもない。
 ただし、南雲がサボっている裏では、生真面目で仕事熱心な新人・八束が南雲の分まで仕事をしているわけで、八束はジト目で南雲を見上げる。
「お心遣いはありがたいですが、南雲さんは仕事をしてください」
 ――一人で寝込んでいるお前が気になって、仕事が手につかなかったんだよ。
 そんな本音は喉の奥に飲み込み、ただ肩を竦めて八束の冷たい視線を受け流す。
「それはそうと、八束、今日は何か食べた?」
 いくら鈍い八束でも、はぐらかされたのは理解したらしく頬を膨らませるが、質問には正直に答える。
「まだですが……」
「なら、何か作るよ。台所借りるね」
「えっ、流石に南雲さんにそこまでさせるわけにはっ」
 八束は反射的に起き上がりかけたものの、すぐにふらりとして、枕に頭を落としてしまう。南雲は八束の乱れた掛け布団を整えながら言い聞かせる。
「無理するんじゃないよ。熱で消耗してるだろうし、胃に何も入れないまま薬飲むのもよくない。大人しく任せときなさいって」
「南雲さんが、わたしに優しいなんて……」
「おい、俺が普段は優しくないみたいじゃない、それ」
 心外なんだけどー、と言いながらも、八束を観察するのは忘れない。熱は高そうだが意識ははっきりしている。まずはきちんと食事をさせて、薬を飲ませて様子を見てみようと考える。容態が悪化するようならすぐに医者に連絡しよう、と思いつつ。
 南雲にも、罪悪感がないわけではないのだ。八束は、どんな難題を前にしても、無尽蔵にも見える活力をもってことに当たっていた。その八束に寄りかかり、知らず無理をさせていたとも思うのだ。
 だから、今日くらいは自分がきっちり働くべきだ。八束の回復に尽力する、という形で。
「南雲さん、『さっさと治してもらって、仕事を押し付けよう』って思ってません?」
「思ってる」
 それはそれで、南雲の偽らざる本音ではある。
 怠慢な先輩に対するじっとりとした目つきを隠しもせず、八束はついと視線を台所に向ける。
「とにかく、食事は南雲さんのお手を借りずとも大丈夫です。棚の中に、いつものが入ってます。あと、水が冷蔵庫にあるので取っていただけますか?」
「……いつもの?」
 具体的に「何」と指定されていないのが気になりつつ、南雲は立ち上がると台所に向かう。八束が一人暮らしをしているアパート『湯上荘』は、今にも崩れそうなぼろい見かけの割に案外設備はしっかりしており、六畳一間に台所、トイレ、シャワーまでついている。その台所部分に置かれた棚の戸を無造作に引き、
 南雲は、絶句した。
 そこには、黄色い箱がいっぱいに詰まっていた。
 カロリーメイト。
 カロリーメイトだ。見間違えようもない。
 チーズ味、フルーツ味、チョコレート味という、コンビニでおなじみのラインナップが、八束の病的な几帳面さをもって整然と並べられている。それ以外のものは、何一つ確認できない。
 嫌な予感を感じながら、下の戸も開ける。
 そこに詰まっていたのは各種サプリメントの詰まった容器。カロリーメイトでは足らない成分を摂取するためのものだろう、と理性では判断しつつも、南雲はただでさえ普段から消えない眉間の皺が、更に深まったのを実感する。
 こう来ると、冷蔵庫の中身も想像はついてしまう。それでも、一縷の望みをかけて冷蔵庫の扉に手を掛けて、引く。
 そこには、ペットボトルに入ったミネラルウォーターのみ、十本ほど詰め込まれていた。あと、この状態で何の意味があるのかもわからない、脱臭剤が一つ。
 それを認識した南雲は、ついに膝をつき、頭を抱えて声を上げていた。
「うおああぁあぁ」
「な、南雲さん、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねえよ! これのどこが食事だ!」
 南雲は普段の飄々とした態度をかなぐり捨てて叫ぶ。八束は、声を荒げる南雲を初めて目にした戸惑いを隠しもせず、目を白黒させながらも自分の考えを伝えることは忘れない。
「必須栄養価を摂取するという行為として、最も効率的な方法だと思いますが」
「違う! そうじゃない! 単なる栄養摂取なら点滴でも何でもいい、経口摂取である必要すらねえ! 食事ってのはなあ、食欲を満たしながら、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚全てを駆使して快楽を味わう、人間という種に与えられた至高の時間だ、それをおろそかにする奴は誰が許そうとこの俺が許さん!」
「南雲さんの怒りのツボがわかりません」
 怯え半分、呆れ半分の八束の声が聞こえた気がしたが、無視して台所に立つ。もし食材が切れてたら、と思って持ってきた食材と調味料が役に立ちそうだ。こんな形で役に立つとは思いもしなかったが。
 今まで相対したどの事件よりも南雲に動揺をもたらした棚と冷蔵庫は一旦忘れ――その前に、枕元に水のペットボトルは置いてやったが――ひとまず喉を通りやすいものを作ろう、と思いかけて重要なことに気づく。
「ねえ、八束……」
 ほとんど答えは決まっているだろうが、一応、聞いておく。
「調理器具と食器もないってこと?」
「いえ、薬缶とマグカップはあります」
「それだけかよ」
 振り返って、分厚い眼鏡越しに八束を睨むも、八束は南雲がどうして睨むのかも理解できていないようで、横になったままきょとんとしている。それを見て、南雲はいつになく胸の中が熱くなる感覚に襲われた。
 ――どうやら、俺はこいつに、食の何たるかを教えてやらねばならないようだ。
 そうと決まれば即行動。部屋を飛び出し、隣から鍋と食器を借りて戻ってくる。南雲の知り合いでもある隣室の住人には、後でオリーブオイルを差し入れようと思う。オリーブオイルは万能だ。
 さて、当然ながら炊飯器もないから、米から粥を炊く必要がある。鍋を火にかけて八束の様子を見れば、目を閉じて大人しくしていた。準備をしている間に眠ってしまったようで、すうすう息を立てている。
 無防備な寝顔を晒してくれる程度には、信頼されているらしい。普段あれほど気を張っているのに、妙に危機感が薄いというか、何というか。南雲に変な気はないが、こうも無頓着だとつい心配になる――八束の横に座り込み、そんなことを考えずにはいられない。
 ともあれ、粥が炊けた辺りでといた卵を混ぜ、食べやすいように薄く味をつける。味見した感じでは悪くないと思うが、八束の口に合ってくれるといい。そう、心から思う。
 八束の肩を軽くゆすると、眠りは浅かったのか、すぐに目を覚まし南雲を大きな目で見つめてきた。つい目を逸らしながら、南雲は器によそった卵粥を差し出す。
「できたけど、食えそう?」
「おそらく」
 南雲の手を借りて上体を起こした八束は、盆を膝の上に載せて、器を手に取る。レンゲですくった粥をふうふうと冷ましたあと、恐る恐る口に含む。一連の動作をじっと見守っていた南雲は、八束のどこか虚ろだった表情が、明るいものに変化したのを見て取った。
「これ、美味しいです」
「ならよかった」
「南雲さん、お料理も得意だったんですね」
 南雲にとって、料理は手芸と同じく退屈な日々をやり過ごす工夫の一つだ。普段仕事場で嗜んでいる手芸と違い、今まで八束の前で披露する機会がなかっただけで。
 どうやら、食欲が減退していても卵粥は喉を通るらしく、八束はゆっくり、しかし確かに粥を食していく。南雲もその様子を見て、内心胸を撫で下ろす。
 半分ほど粥を胃の中に収めたところで、八束は小さく息をついて言う。
「こんなに温かなご飯を作ってもらうのも初めてです。何だか、ほっとしますね」
 いつになく柔らかく微笑む八束だったが、その言葉は南雲の中に小さな不安を抱かせる。南雲は八束の背景を全く知らない。どのような生まれ育ちで、どうして警察官になろうと思い立ち、果てにこんな閑職に回されたのかも、何もかも、何もかも。
 とはいえ。
「ほっとしたなら何よりだ」
 それを追及するのは今ではない。美味しそうに粥を食べる八束の頭を軽く小突き、コンロの上の鍋を指す。
「多めに作っといたから、夜と明日の朝は温めて食べてね。毎食、薬はきちんと飲むこと。もし俺が帰った後に具合が悪くなったら、隣の部屋に声をかけろよ、小林には事情話しとくから」
 てきぱきと指示を加えると、八束は深々と頷いてから、ぼそりと呟く。
「南雲さん、いつもこのくらいしっかり働いてくれると嬉しいんですけど」
「やだよめんどくさい」
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●番外編:なぐもさん

「おはようございます、なぐもさん!」
 八束結は、明るい挨拶の声をかけて、席につく。目の前の席から返事はないが、いつになく満足げな表情でパソコンの電源を入れる。
 南雲彰は、そんな八束を、どこか遠い目で見つめていた。
「そうだ、なぐもさん。今日は来る途中で、猫の集会を見たんですよ。なぐもさんも、一緒に見られればよかったんですけど……」
 返事はなくとも、八束は楽しげに前の席に話しかけ続ける。しばらくその様子を黙って眺めていた南雲も、やがて見ていられなくなり、ソファの上に体を起こして、八束に声をかける。
「あのさあ、八束」
「何ですか、南雲さんだった人」
「だった人……」
 南雲は、隈の浮いた目で、自分の席にでんと鎮座ましましている「なぐもさん」――巨大アザラシのぬいぐるみを睨んだ。
 そのぬいぐるみは、本来、南雲が抱き枕として作ったものだ。八束の身長くらいある規格外の大きさと、すべすべふわふわな触り心地が特徴的な、最高傑作と自負している。
 だが、その最高傑作が、何故か自分の席に座って、しかも自分として扱われているのは、さすがに解せない。
 もちろん、理由はわかっていないわけじゃないのだが。
 八束はつんとした表情で立ち上がると、南雲の席の横に立ち、つぶらな瞳をしているぬいぐるみの頭をふわふわと撫でてみせる。
「いつもソファでごろごろしながら人に仕事押し付けるダメな人より、こちらの方がわたしの先輩としてふさわしいと確信しています」
「そいつは、そこにいるだけで、仕事してくれるわけじゃないだろ……?」
「確かに何もしませんが、大人しく席に座っているだけでも、南雲さんだった人よりはずっと真面目だと思います」
「ごめん、俺が悪かったから、せめて『だった人』は外して」
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●番外編:お茶の時間

 がらんがらん、という派手な音とともに、八束結の「ぎゃあああ」という声がかぶさって聞こえた。
 思わずそちらを見やった南雲彰は、しまった、と思う。きっと、そんな焦りも表情には出なかったとは思うのだが。
 とりあえず、棚を開けたままのポーズで固まり、目を白黒させている八束の横に立ち、素直に謝ることにした。
「ごめん、八束。後で整理しようと思って忘れてた」
「び、びっくりしました……」
 八束の足元に転がっているのは、いくつもの、紅茶の茶葉を詰めた缶だ。南雲が、菓子と一緒に買ってきたものを、大量に棚に突っ込んでいたために発生した悲劇であった。
「片付けますね」
「いいよ、俺がやるから」
 そうは言ったものの、八束の方が動きは圧倒的に早い。缶の一つを拾い上げた八束は、そのラベルを眺めて、首を傾げる。
「この缶、お茶ですか?」
「そうだよ」
「キャラメルって書いてありますけど。お菓子ではないのですね」
「……八束、フレーバードティーって知らない?」
「それは何ですか?」
 質問に対して、八束は当然の如く質問で返してきた。
 時々、というかよく、こういうことがあるのだ。
 八束の常識と、南雲の常識はかなり食い違っている。生きてきた年月と、場所と、状況が違うのだから、ある意味当然といえば当然ではある。だが、「歩く百科事典」とも称されるほどの知識を溜め込んでいながら、八束は意外なほどにものを知らないところがある。
 とはいえ、軽く引っかかるものがあるとはいえ、それを南雲がどう思うわけでもない。知らないのならば、教えればいい。一度教えれば、その知識は八束の脳内百科の一ページとなり、決して忘れ去られることはないのだから。
「言葉通り、香りをつけてあるお茶。飲んでみる?」
「興味はあります」
 わかった、と言って、キャラメルティーの缶だけよけて、まずは落ちた缶を片付ける。それから、愛用のティーセットを用意する。このティーセットも、粗大ゴミ置き場から拾ってきたソファや冷蔵庫同様、南雲が「快適な秘策生活」を送るために揃えたものだ。
 仕事をするのは億劫だが、対策室にいる時間が一日の大半を占める以上、快適に過ごすための工夫を絶やさないのは大切なことだと思う。係長・綿貫の視線に込められた、切実な「仕事しろ」という念は知らんぷりを決め込むことにしている。
 ともあれ、慣れきった手順で茶を淹れると、ひとまずは砂糖も牛乳も入れずに八束にカップを差し出す。八束は、恐る恐るカップに顔を近づけて、そして驚きに目を見開く。
「あっ、お茶なのに本当にキャラメルの香りがするんですね! すごい!」
 そのストレートな反応に、南雲は自然と目を細めてしまう。多分、笑いたくなったのだろう、と自分自身で分析する。八束には、この感情も正しくは伝わらなかったと思うけれど。
 目を真ん丸にしたまま、八束はしばしキャラメルの香りを楽しんでいたようだが、思い切って、カップに口をつけて……、それから、眉をへの字にした。
「甘く、ありません……」
「あー、まあ、香りをつけただけで、あくまで紅茶だからねえ」
「うう、苦いです、苦いいい」
 八束は、意外と苦いものを苦手としている。茶や珈琲は無糖の方が好きな南雲とは対照的である。予想通りの反応に、どこか安堵すら抱きつつ、南雲は八束の手からカップを取り上げる。
「キャラメルティーは、ミルクを入れて飲むのがスタンダードなんだよ。ミルクと砂糖、入れようか」
 涙目で南雲を見上げた八束は、口をへにょりと曲げて。
「どうか、お願いします……」
 情けない声で、そう、訴えたのだった。
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●番外編:アザラシさん

 待盾署刑事課神秘対策係の主な仕事は、暇を持て余すことである。
 だが、いくら暇といえど、決して消化すべき仕事はゼロではない。デスクで一向に減らない書類――それは、自分の書類だけでなく、抱え込んでいた南雲のものも任されているからだが――を片付けるのにも飽いた八束は、全く仕事をしようとしない南雲に文句の一つでも言ってやろうと、彼の特等席である来客用のソファをのぞき込む。
「何ごろごろしてるんです、南雲さん……、な、南雲さん!?」
「どうしたの、八束」
「南雲さんが、アザラシのぬいぐるみになってるー!」
「そうだね」
 そう、普段南雲が寝ているはずのソファには、巨大な白いアザラシが鎮座ましましていたのである。ついでに、そのアザラシは南雲のスーツの上着を羽織っている。八束は、慌ててアザラシを抱え上げると、くたーんと頭を垂らすアザラシに向かって、「ああ」と嘆きの声を上げる。
「怠惰を極めるあまり、本当にアザラシになってしまうなんて……」
「それで、今背後に立ってる俺のことは何だと思ってんの?」
 八束は、はっとして後ろを振り向く。そこに立っているのは、いつも通りに猫背で不機嫌そうな面構えの南雲だった。
「あれ、南雲さん、上着……」
「暑かったから脱いだの。っていうか、本気で俺がアザラシになったとでも思ったの?」
「南雲さんなら、それでもおかしくないかなと思いました」
 八束は、どこまでも真面目だった。
 南雲は仏頂面ながらも呆れのため息をつき、八束の手からアザラシの巨大ぬいぐるみを上着と一緒に引き抜く。八束は名残惜しそうにアザラシを目で追いながら、一番の疑問を投げかける。
「……その巨大アザラシぬいぐるみ、どうしたんですか?」
「作った」
「本当に何でも作りますね、南雲さん!?」
 南雲の手先が器用なのは知っていたが、ほとんど八束の身長と同じサイズのぬいぐるみを実際に作ってしまうとは思いもしなかった。八束は作っているところを目撃していないから、多分、早朝か八束が帰った後にこつこつ作っていたに違いない。
 南雲は八束の反応に満足したのか、神妙な顔でこくりと頷くと、上着を纏ったアザラシを抱いたまま、ソファにごろりと横になる。
「抱き枕がほしかったんだよ」
 そして、そのままアザラシの頭に顔を埋め、寝の姿勢に入る。ぼんやりとその様子を見つめていた八束は、次の瞬間我に返り、南雲の肩を強く引く。
「明らかにソファで寝る気満々じゃないですか! 仕事してください!」
「八束はできる子なんだから、俺の分もちゃちゃっとできるでしょー」
「南雲さんだってやればできる人なんですから、二人でやればもっと短時間で済みます!」
「正論は聞きたくなーい」
 ごろんとソファの背側に倒れようとする南雲を、何とか引き戻そうと努力する八束。しかし、力はともかく体格では圧倒的に勝る南雲である。ソファとぬいぐるみにしがみつき、離れようとしない。
「もうっ、そもそも勤務時間中に寝るってこと自体おかしいんですよっ! ちょっと、綿貫さんも、にやにやしてないで、手伝ってください!」
 八束の訴えに、しかし奥のデスクに座る係長・綿貫は、紅茶のカップを傾け、目を細めてこうつぶやくだけだった。
「……今日も、平和ですねえ」
畳む


#時計うさぎの不在証明
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▼南雲 彰(なぐも・あきら)

 三十代前半。C県警待盾署刑事課神秘対策係所属の刑事。
 八束の教育係。が、ほとんど八束に雑用を押し付け、自身は趣味の手芸に励んでいる。
 背が高く痩せぎす。スキンヘッドで隈に囲まれた細い目、不機嫌そうな仏頂面が特徴。目が悪いため黒縁眼鏡が手放せない。ヤのつく自由業にしか見えない、という意味でスーツが似合う。
 見かけによらず温和で飄々とした人柄。普段はぼんやりしていて不真面目ながら、八束のことは何だかんだで気にかけている。
 甘いものが好きで、常に飴やチョコを口に含んでいる。甘いものを食べている間だけ頭の回転が人並みになる(自己申告)。
 知識量や頭の回転では八束に劣るが、別段頭が悪いわけではない。身体能力は低い。実は、微妙に見えないものが見えているフシがある。

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▼八束 結(やつづか・ゆい)

 二十代前半。C県警待盾署刑事課神秘対策係所属の刑事。
 元々は県警本部で働いていたが、ある事件をきっかけに、待盾署に飛ばされた。
 長く伸ばした黒髪を下の方で縛っていて、身長が低く童顔。そのため学生のように見え、スーツが致命的に似合わないのが悩み。
 明朗快活な熱血娘で、落ち込んでもすぐに立ち直る。ただ、他人の心情を慮るのが苦手で思い込みも激しいため、能力のわりに失敗も多い。人からの指示は完璧にこなすが、自分で判断するのは苦手。また、対人で物怖じしない反面、何故か怪奇現象の類には極端な恐怖心を抱いており、すぐに正常な判断力を失う。
 近頃は相方・南雲の怠惰っぷりに悩まされつつも、南雲の能力や主張は素直に認め、先輩として尊敬している。現在の課題は「南雲にスムーズに仕事させるための手段」。
 完全記憶能力者で、見聞きしたものを決して忘れない。また、身体能力も人並み外れている、いわゆる「超人」。

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とけうさ雁金は多分洞察力の人かな~と思っている。
八束のような天才的な頭脳も、南雲のようなちょっと人間離れした能力もないのだけど、積み重ねてきた経験などに裏打ちされた、「違和感」を正確に掴む能力みたいなものがあるのではないかな~と思う。
あと、雁金は比較的論理立てて説明をつけることはできる人だと思っている。ただ、根本的に説明が下手くそなだけで(ダメでは?)。
まあ、南雲が言葉で説明できない感覚部分を司っているからね……(それを好んで捜査には使わないけれど)。
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シアワセモノマニアのあざらしこと青波零也の創作メモだったり、日々のどうでもいいつぶやきだったり、投稿サイトに載せるまでもない番外編だったり、見聞きしたものの感想メモだったり。

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2024年06月18日(火) 17時52分53秒