トレヴァー・トラヴァースは見事な白髪をしている。
銀髪でなく白髪なのは、奴の髪が元々は黒かった「らしい」からだ。らしい、を強調するのは、トレヴァーが自分の髪の色が黒かった頃を知らないからだ。どこまでも伝聞で、トレヴァー自身もあくまで「そうであるらしい」ということしか知らない、そういう話。
「何故、白くなったんだ?」
「ジーンは何でだと思う?」
トレヴァーはそれだけを言って、いたずらっぽく笑ってみせた。
だから、私は本当のところを知らない。私が何を答えたところで、トレヴァーは「さあどうだろう?」とはぐらかすだけなのだから。
ただ、トレヴァーの、欲望に従うが故に傍からは禁欲的にすら見える鍛錬は、まさしく自分自身を削るようなものであったから。そういう姿勢がトレヴァーから色を奪ったのではないか、と半ば本気で言った時には、トレヴァーは少しばかり苦笑を浮かべて言ったものだった。
「ボクは、君たちと違って戦うために『つくられた』ようなものだからね。……最適化を志向するのは当然さ」
その言葉の意味を、私は結局理解できたとはいえない。
しかし、そういう風に「つくられた」という意識が、トレヴァー・トラヴァースという人間を形作るもののひとつ、であったことには違いないと思っている。
トレヴァーは、いつからか細めた瞼の下の眼からも色を失って、頭の先から爪先まで真っ白い姿をしている。白を基調にしたパイロットスーツを身にまとった姿は、そのまま霧に溶けて消えてしまいそうですらある。
……事実として、いつかは必ず霧に溶けて消えるのだろうと、思っている。
(ある日の出撃前)
霧世界余録