霧世界報告

火葬

きっと、霧の向こうには、青い空が広がっている。
 それが口癖だった誰かさんは、もういない。
 そうしてひとりになった俺は、晴れることのない霧の下で、ただ一人、立ち尽くしている。
 友人には「いいのか」と問われたが、俺は「いいのだ」と答えた。
 誰かさんは消えて、翼は折れて、俺はひとりになって。
 俺が飛ぶ「理由」なんて、もう、いらなかったから。
 火のついたライターを、積み上げられた青いカンヴァスへと落とす。
 ――さよなら。
 誰かさんが描き続けた「俺たち」の行く先。俺が空を目指した理由を、誰かさんの記憶と一緒に、炎の中に葬る。
 ――さよなら。
 別れの言葉は、きっと、どこにも届かない。
 瞼に焼き付いて離れない、青い空にも。