霧世界報告
英雄
視界に飛び込んできたのは、青い二対の翅翼を広げた、見たこともない形の船だった。
翅翼艇
エリトラ
。
海戦を一変させたというその最新兵器は、海の只中で踊る。
浮かび上がったと思えば、くるりと大きな輪を描き、落下とも見まごう急降下。「ひっ」と喉を鳴らしたその瞬間、霧を裂いて飛び上がる。高く、高く、霧眼鏡を通してすら姿が捉えられなくなるほど、高く。
瞬きも許さぬ鮮やかな飛行に思わず歓声を上げる少年の横で、黒髪の兵隊が呟いた。
「あいつは、きっと英雄になる」
そちらに目を向ければ、霧眼鏡もかけていないというのに、兵隊の紫色の目が、青の
翅翼艇
エリトラ
を真っ直ぐに見据えていた。
「なってもらわなきゃならない。俺たちの、夢のためにも」