迷走探偵秋谷静

幕間 電話

『おいアラン手前、今どこで何してんだよ!』
「何ですか藪から棒に」
『手前がとっとと戻ってこねえから、どんどん仕事溜まってんだよ! やりたくもねえ仕事させられる俺の身にもなれっての!』
「私、休暇中なんです。きちんと上からも許可取ってますよ」
『休暇ぁ? ワーカホリックの手前が?』
「……あのですねえ、好きでワーカホリックなわけじゃありませんから。出来れば毎日のんびりお茶でも飲んでいたいのに、どっかのバディがそれを許してくれないんじゃないですか」
『そいつはどこの悪党だろうなあ』
「まあ、あなたがそう言うのは勝手ですが」
『冗談を真に受けるんじゃねえよ』
「受けてないから安心してください。しばらくは大きな案件も無さそうですし、のーんびり羽を伸ばそうと思っていたんですが、ねえ」
『何言ってやがる。現在進行形で手前がいなくて寂しいって言ってる野郎どもが大量発生してるわけだが』
「うっわ気色悪ぃ」
『……だろうな』
「嫌なこと聞いたんで休暇期間延ばしますね。使ってない休暇溜まってますし」
『勘弁してくれ。手前一人いねえだけで仕事が滞るのはわかってんだろ』
「うちの班にもデスクワーク系の代行者を増やすよう、上に嘆願しといてください。正直、私も脳筋ばかりで困ってるんです。特にうちには特級の脳筋がいるわけですし」
『それは俺のことを言ってんのか、バディ?』
「それ以外に誰がいるというのです、バディ?」
『手前』
「冗談を真に受けるもんじゃないですよ」
『くっそ、口の減らねえ……』
「とにかく、ちょっとした用件もありますので、それが済み次第本部に戻ります。その間はよろしくお願いいたしますね、セツ」
『わーったよ。しかしなあ、アランよ』
「何です?」
『声、掠れてんぞ』
「……う。ね、寝起きなんです」
『寝てる時間でもねえだろ。また悪い夢でも見てたんじゃねえだろうな』
「いつもの夢じゃないですけどね。まあ、悪夢なんて慣れたもんですよ」
『無理はすんなよ。手前までおかしくなったら話にならねえ』
「はは、心優しいバディですねえ。しかしどちらかといえば私の仕事を増やさないバディの方が嬉しかったです」
『手前……折角人が心配してやってんのに』
「冗談ですよ。ありがとうございます、セツ」
『珍しく素直だな。本気で参ってんじゃねえのか』
「そうかもしれません。全く、折角の休暇だってのに余計に疲れてちゃ話になりませんね」
『だから手前はワーカホリックなんだよ』
「あー、否定しきれないのが困ったものです」
『余計なこと考えるくらいならとっとと戻ってこい。いいな』
「…………」
『アラン?』
「戻る……」
『アラン? どうした?』
「いいえ、何でもありません。とにかく、用件はこれだけですか? それなら切りますよ」
『……あ、ああ。それじゃ、また何かあったら連絡する』
「ええ。それでは」