無名夜行メモ[2件]
自分用メモ
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無名夜行
Proof of Alice's Existence
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――『異界』。
ここではないいずこか、此岸に対する彼岸、伝承の土地におとぎの国、もしくは、いくつも存在し得るといわれる並行世界。
それらが「発見」されたのはそう最近のことではない。昔から「神隠し」と呼ばれる現象は存在しており、それが『異界』への扉をくぐる行為だということは一部の人間の間では常識とされていた。
だが、『異界』が我々を招くことはあれど、『異界』に対してこちらからアプローチする手段は長らく謎に包まれていた。
そのアプローチを、ごく限定的ながらも可能としたのが我々のプロジェクトだ。人間の意識をこの世界に近しい『異界』と接続し、その中に『潜航』する技術を手にした我々は、『異界』の探査を開始した。
もちろん『異界』では何が起こるかわからない。向こう側で理不尽な死を迎える可能性も零とは言い切れない。故に、接続者のサンプルとして秘密裏に選ばれたのが、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
彼は詳細をほとんど聞くこともなく、我々のプロジェクトへの参加を承諾した。その心理は私にはわからないが、Xは問題なく『異界』の探査をこなしている。
寝台に横たわる肉体を残して、Xの意識は『異界』に『潜航』する。Xの視覚情報は私の前にあるディスプレイに、聴覚情報は横に設置されたスピーカーに出力される。肉体と意識とを繋ぐ命綱を頼りにたった一人で『潜航』するXの感覚を受け取ることで、私たちは『異界』を知る。
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この場合の「魔女」とは、単に「魔法の使える女性」を示す言葉ではない。
そもそも「魔法」という言葉自体が『異界』を観測する我々には定義しがたいものだ。『潜航』の中で『こちら側』では起こりえない数々の不可思議をXの視界越しに観測してきたが、『こちら側』ではあり得ない現象も、その『異界』の中では当然のものであり、「起こりえないこと」を示す「魔法」という言葉は相応しくない。
ただし、幾度にも渡る『潜航』の中で、魔法と呼ぶべきものが無かったわけではない。
それこそが、『異界』を渡るものの持つ力だ。
我々はXの意識を『異界』と接続する、という形で限定的に『異界』を観測している。もし、人間を肉体ごと『異界』に送り込み、自由に渡り歩く技術が確立されればこのプロジェクトも次のステージに至るのだろうが、実現にはほど遠い。
だが、Xを通して『異界』を観測するようになって、否応なく理解させられたことがある。
それは、我々がその方法を確立できていないだけで、『異界』を自由に渡り歩く者は確かに存在する、ということだ。それぞれの『異界』のルールに縛られることなく、全てを超越した、まさしく魔法のごとき力を操る者、「魔女」と呼ぶべきものが。
#無名夜行メモ
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無名夜行
Proof of Alice's Existence
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――『異界』。
ここではないいずこか、此岸に対する彼岸、伝承の土地におとぎの国、もしくは、いくつも存在し得るといわれる並行世界。
それらが「発見」されたのはそう最近のことではない。昔から「神隠し」と呼ばれる現象は存在しており、それが『異界』への扉をくぐる行為だということは一部の人間の間では常識とされていた。
だが、『異界』が我々を招くことはあれど、『異界』に対してこちらからアプローチする手段は長らく謎に包まれていた。
そのアプローチを、ごく限定的ながらも可能としたのが我々のプロジェクトだ。人間の意識をこの世界に近しい『異界』と接続し、その中に『潜航』する技術を手にした我々は、『異界』の探査を開始した。
もちろん『異界』では何が起こるかわからない。向こう側で理不尽な死を迎える可能性も零とは言い切れない。故に、接続者のサンプルとして秘密裏に選ばれたのが、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
彼は詳細をほとんど聞くこともなく、我々のプロジェクトへの参加を承諾した。その心理は私にはわからないが、Xは問題なく『異界』の探査をこなしている。
寝台に横たわる肉体を残して、Xの意識は『異界』に『潜航』する。Xの視覚情報は私の前にあるディスプレイに、聴覚情報は横に設置されたスピーカーに出力される。肉体と意識とを繋ぐ命綱を頼りにたった一人で『潜航』するXの感覚を受け取ることで、私たちは『異界』を知る。
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この場合の「魔女」とは、単に「魔法の使える女性」を示す言葉ではない。
そもそも「魔法」という言葉自体が『異界』を観測する我々には定義しがたいものだ。『潜航』の中で『こちら側』では起こりえない数々の不可思議をXの視界越しに観測してきたが、『こちら側』ではあり得ない現象も、その『異界』の中では当然のものであり、「起こりえないこと」を示す「魔法」という言葉は相応しくない。
ただし、幾度にも渡る『潜航』の中で、魔法と呼ぶべきものが無かったわけではない。
それこそが、『異界』を渡るものの持つ力だ。
我々はXの意識を『異界』と接続する、という形で限定的に『異界』を観測している。もし、人間を肉体ごと『異界』に送り込み、自由に渡り歩く技術が確立されればこのプロジェクトも次のステージに至るのだろうが、実現にはほど遠い。
だが、Xを通して『異界』を観測するようになって、否応なく理解させられたことがある。
それは、我々がその方法を確立できていないだけで、『異界』を自由に渡り歩く者は確かに存在する、ということだ。それぞれの『異界』のルールに縛られることなく、全てを超越した、まさしく魔法のごとき力を操る者、「魔女」と呼ぶべきものが。
#無名夜行メモ
Proof of Alice's Existence
今まで書いた話と収録箇所一覧
それは闇のように 01
灯火の行列 01
降り、来たるもの 01
名探偵 01
上昇と落下 01
夕焼けに待つ 01
反射する回廊 01
月下のヒーロー 01
右腕 01
異界図書館 02
黄昏の行進 02
隧道を行く 02
アンダーコンストラクション 02
過ぎ去った時間 02
悪魔ではなく 02
水面は揺れる 02
魔女ふたたび 02
祈らぬ者 02
少女の足跡 02
花嫁に幸福を 03
Xの異界散歩 03
影絵と魔女 01
その手で掴む 01
本屋と誰かの回顧録
夢に見るような
観測史上最大の危機
終わらぬ夜の観測者
神話の生まれた日
欲望と無欲の天秤
罪人たちの一夜
緑の目の怪物
王様の言うとおり 01
ハロウィンの夜 02
とある魔女の寛容
迷宮のアザラシ 03
閉じた扉と嵐のような 01
時計と正しさ 03
花魁道中夢景色 01
その味を知らない
ある日の潜航事例 03
あるいは瞼を閉ざした話 03
列車にて 02
名も無き冒険の話
剣にまつわるエトセトラ
ペンギン・デリバラー
畳む
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